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2-13.男装の麗人

「旦那様、大丈夫でございますか?」

 アルブレヒトに聞かれたが、意識が別の方へ持っていかれて「あぁ……」としか答えられない。

 考えることが多すぎる。

 エミリアがこんなに爆弾を落としてくるなんて……


(コントロール下に置けるなどど考えていたが、置いておかないと思わぬことをしでかすかもしれない)

 エレオノーレ様の手紙は、街へ出かけた時のことを赤裸々に綴ってあった。

 それを見て私は衝撃を受けた。パン屋で買い物をしたらしい。エミリアは貴族だ。貴族の夫人がそんなことをするなんて前代未聞。


(エレオノーレ様のためにやったことなのだろう……とは言え、パン屋はあり得ない。人混みだ)

 彼女は人の役に立ちたいという欲が強い。それは生育環境によるところが大きいと思っていたが……


「あなたのためだったら、苦しい事も一緒にしたいのです。あなたのためなら喜んでお役に立ちます。あなたは私をいつも救ってくれたから……」


 何か違う気がする。しかも

 

 「お慕いしております」


 あの言葉はどう捉えたら良いのか。最近の子は人間的に慕っている異性にも「お慕いしております」という言葉を使うのだろうか?


 まさか恋愛感情があるのか?私に?


 20歳の女の子が35歳に恋をするとは思えない。おじさん扱いされる歳だ。嫌がられてないだけで十分だと思っていた。

 しかし、私の世代では「お慕いしております」は好きだという意味だ。異性に使えば大体の場合告白。


 仮に、エミリアが私のことを好きだとしよう。

 私はどう思う?

 15歳も下の子を恋愛対象と思ったことはないが、例えば、エミリアが同い年くらいの女性だとして。

 優しく、控えめで(今日のことで控えめか怪しくなったが)、努力家で、何より素直だ。


 同い年だったら確実に好きだな。よく考えたら好みのタイプど真ん中だ……


(まずい。いよいよ他の男と恋愛になったら送り出せる気がしない。でもお慕いしております、と言われてどうしろと……?!いや、何を考えている。今は有事。落ち着け落ち着け落ち着け)


「旦那様、大丈夫でございますか?」

「……お前、口元ニヤけてないか」

「旦那様は言葉遣いが崩れております」


 困った執事だ。仕事に戻らなくては。

 

 先日のディナーの時間に、私はエミリアが今後何をしようとしているか聞き出した。


 予想通りだった。各家のご夫人と仲良くなろうと考えている。

 この時勢でご夫人方と仲良くなるのは難しいと思うが、平時では各公爵家の夫人同士で交友を深めるのは喜ばしいことだ。

 パーティーやサロンに参加するのも慣れてきたようだし、何より本人がやりたいと言っている。

 それならば出来る限り応援してあげるのが良いだろう。

 いや、積極的にやるべきかもしれない。有事だからこそ各家の絆を深めることの優先事項は高い。争いを生まないためにも。


「一人で何もかもしようとしないで下さいませ。この家とあなたのために働きたいと考える者は、あなた様が考えているより多いのでございますよ」

「……ありがとう。何もかも一人でできるほど私は万能ではないな」

 重要な仕事に集中するためにも、なるべく一人で抱え込まないようにすべきだ。

「エミリアがおかしなことをしでかしそうになったら止めてくれ。くれぐれも頼む」

 とても安心して仕事ができないから……


 ノックの音が聞こえた。エミリアだ。

「どうぞ」

 彼女は次の攻略のために私に話を聞きに来た。

 先ほどまで考えていたことを一旦押しやり、なんでもない顔で彼女と相対する。


 ***


 2日後、エレオノール様から手紙が届いた。


 『エミリアお姉様


 ご機嫌いかがですか?

 ヴィルヘルミーネ様の事ですけれど、正直そこまで存じておりませんの。

 力になれなくてごめんなさい。彼女のことは、むしろ他の令嬢やご夫人方の方が知っているのではないかと思いますわ。

 ヴォルヘルミーネ様は、大変女性におモテになりますから。


 私からお話しできるのは、ヴィルヘルミーネ様の事ではなく、公爵家の事情です。


 ホーエンローエは今や我が国一の権力を持っておりますが、比較的新興貴族のため権威を持ってはおりません。

 エミリア様のお家であるヴォルトブルグの方が由緒正しく、我が王族との関係も強固ですから、ホーエンローエからはライバルのように思われているかもしれませんわね。


 最近、権威を得るために我が家に接近してきて、私の妹とホーエンローエ家の現当主の弟とで婚姻関係を結ぶという話が出ております。

 妹は王家の姫ですから、権力にものを言わせるようなやり方は品がなく、憤りを隠せません!

 失礼致しました。これはあくまで私の感情の問題です。


 王家は今色々と大変だということをお察し下さい。


 手紙の2枚目に歴代の妃について記しますが、あまり参考になるとは思えません。

 ヴィルヘルミーネ様は政治に積極的に介入しており、歴代の妃とは違うのでございます。


 私からお話しできるのはこれくらいです。お姉様のお力になりたかったのですが。


 お忙しいとは思いますが、また我が家に遊びにいらして下さい。私はあまり外に出られない身ですので……でも外出できたら一番にお姉様のところへ参ります!


 あなたの妹 エレオノーレ』


***


 ものすごくエレオノーレ様に懐かれた。


 エレオノーレ様は庶民的なものに興味があったのかもしれない。高位の貴族ほど庶民の生活に接することは少ないだろうから。

 私はあそこまでの冒険はごめんだわ。家の庭で絵を描くくらいがちょうど良い。

 今回のような有事でなければ、私はずっとこの敷地で絵を描いて、フリードリヒ様とお話をしているだけで十分幸せだもの……


「今日のパーティ頑張って、ご令嬢やご夫人方からお話を聞きましょう」

ヴィルヘルミーネ回が始まります。まずは情報収集や準備からです。

次回はルルが出て来て準備のお手伝いをしてくれます。

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