2-12.疲労と卒倒
案の定と言うべきか。慣れないことなどするべきではない。
私は熱を出した。
「奥様……」
「たまたまよ、最近外出が多いから疲れてただけ」
「ルル様のところへ行っていないのはバレておりますよ。御者が白状しました」
「違うのマリー。私がお願いしたの。エレオノーレ様と仲良くなるために王都へ行く必要があって……」
そう言ってリカと御者を罰しないように懸命に言った。
「もう無理はなさらないで下さい」
そうマリーが言った瞬間だった。ドアが勢いよく開いた。
「旦那様?!?!」
(フリードリヒ様?え?なんで?え?どう言うこと?)
「勝手にお部屋に入るのは……」
「……すまない。エミリアとどうしても話をしたくて」
マリーの苦言を申し訳なさそうに聞くフリードリヒ様。
「二人きりにしてくれないか?」
(え?)
「……わかりました」
(分かりました?え?私は何もわかってないけど。というかこの格好でフリードリヒ様とお話しするの?パジャマなんだけど。身体汗ばんでるんだけど。汗臭くない私?)
「ちょ……」
バタン
ドアが閉まる。
(マリー様なんでぇぇぇぇぇ?!?!)
恥ずかし過ぎて更に熱が出てない?大丈夫か私の身体。保つか?
(保つかじゃない。保たせるのよ。ここで失神なんてしたらフリードリヒ様が更に心配なさるに決まっている。大丈夫、風邪なんて気の持ちよう。フリードリヒ様がいる間だけで良いからなんとかする!)
「ごめん、心配で突然押しかけたりなんかして」
「いえいえお気になさらず。少し大袈裟になっているだけです!寝たらすぐ治りますので」
「私が酷いことを言ってしまったからだね」
「全然違います!全く、まーったく関係ございません!!」
勝手に私がやらかしただけです!
「じゃぁ、私が頼りないからだね」
「……え?なぜそうなるのですか?」
「エミリアに心配をかけて無理をさせてしまっているだろう」
「そんなことを気になさっていたのですか?」
「なるよ。私はエミリアに幸せになって欲しいんだ。この屋敷で心穏やかに過ごして欲しい。こんな事に巻き込みたくなかった」
「巻き込ませて下さい」
私ははっきりとそう言った。朦朧とする意識を繋ぎ止めながら。
「あなたのためだったら、苦しい事も一緒にしたいのです。あなたのためなら、喜んでお役に立ちます。あなたは私をいつも救ってくれたから……」
「……どういうこと?」
「ここに来る前から、私にとっての光だったのです。あの暗い屋敷で唯一の役立たずで、居場所がなくて、心が壊れそうな時、あなたは——」
感情が昂ったせいか、私の頭は沸騰して茹だったようだった。視界が点滅するように暗くなる。
「エミリア!」
「フリードリヒ様、私はずっとあなたをお慕いしておりました……」
***
一瞬遠のいた意識を無理やり引き戻した。
(ちょっっと待ったぁ……!私なんか余計なこと言わなかった?)
意識が朦朧としていたため、何を言ったか後半よく覚えていない。
「フリードリヒ様……!」
ゼェゼェはぁはぁとしながら声を絞り出す。
「さっき、私、何と言いました……?」
「え?」
声がひっくり返るフリードリヒ様。
私まさかとんでもないことを言ったのでは?
「さっき、言ったことは、忘れて下さい。熱に浮かされた……戯言です」
「あ、あぁ、うん。そうだよね。それより寝た方が良いんじゃないかなエミリア。顔が真っ赤だよ」
「フリードリヒ様こそ熱があるのでは?顔が赤いですが……」
「ん?!……気のせいじゃないかな?やっぱりエミリア早く寝た方が良い、熱が酷くなっている。マリーを呼んでくるよ」
「分かりました。くれぐれも……フリードリヒ様もご無理はなさらないよう……今回のことは、あなたの……」
「わかった、わかったから」
そそくさと消えていく後ろ姿。
入れ替わるように、どたどたと入って来るマリー。
「なんて大胆な事を仰っているのですかエミリア様!」
「マリー、もう、限界……」
頭に響く声を聞いて、私は本当に意識を無くしたのだった。
***
今回のことで、私は私の取り柄を発見した。
翌日には熱が引いたのだ。
すごく元気!
「おはようリカ!良い朝ね!」
「エミリア様!おめでとうございます!ドアのそばで聞き耳を立てていたマリーメイド長から聞きました!」
興奮した様子のリカ。
「何のこと?」
「エミリア様が旦那様に気持ちを伝えたと!」
「……」
ん?
「ごめんなさい、覚えがないわ……」
「嘘ですよね?」
「本当。私なんて言ってた?」
「お慕いしておりますと明言しておりました」
それを聞いて、私は胸を撫で下ろした。
「あぁ、良かった。もっとすごい事を言ったかと思ったわ。フリードリヒ様のことは大体の人間が慕っているでしょう」
「そういう意味だったんですか?」
「うん?うーん……でもフリードリヒ様もそういう意味で取ると思うわよ?」
輝きに照らされて失神しかけていたとか、毎晩枕元で写真を見ながら話しかけていたとか、寝顔を見てニヤニヤしてたとか言ってしまったかと思ったわ。
「エレオノーレ様から手紙か何か届いていないかしら。彼女も外を出歩いて怒られてしまっていたらと思うと、気が気ではなくて」
「そういえば、そろそろ手紙が来る時間ですね……」
「リカ?この手紙は何?」
マリー様が朝食と一緒に一通の封筒を持って部屋に入って来た。王家の紋章の入った手紙だ。
「王家の紋章付きのお手紙でしたので、旦那様が誤って読んでしまいました」
さっと顔を青くする私とリカ。
「先日、街に連れて行ってもらったことのお礼が書かれていたのですが、どういうことですか?旦那様が卒倒しそうでしたよ?」
(うわーーーーーー!!!ごめんなさいフリードリヒ様!!!)
その後、私はマリー様とアルブレヒトとから散々お小言をもらい、絶句したフリードリヒ様からは
「……エミリア、今度から何かするときは私を巻き込んでくれ。惜しみなく協力するから……」
と言われた。
結局、今回の行動はフリードリヒ様とこの家のためになったのか。
役に立たないどころか、邪魔をしている気がする。
次回よりヴィルヘルミーネ編です。
攻略難易度が一気に上がります。




