2-11.貴族2人のお出かけ
ルルのところへ遊びに行くと嘘を付き、私はまたもや王都へ向かっていた。
今月だけで王都に三回も行っているし、リーゼロッテ様のところへも行っているので疲れてしまい、私は馬車で眠った。
馬車の中で庶民服に着替えとある場所にリカと向かうと、そわそわとした様子の可愛らしい女の子が見えた。
目立つ白髪を金髪に染めたエレオノーレ様とその従者だった。
(可愛い……!なんて可愛らしい方なの?!)
「遅いです」
「申し訳……」
「そんな硬い口調ではダメです。ちゃんと変装して」
「あ、はい……」
「エミリアは私のお姉様なのだから、敬語はなりません」
「お姉……?!は……えぇ?!無理です!」
「ですじゃない!」
「分かりまし……分かった」
普段から私もそんな砕けた口調じゃないのだけど……でも、庶民に扮するならば丁寧な感じじゃない方が良いのかしら……
「早速プレッツェルを食べに行きますわよ、お姉様」
「多分、庶民の方々はお姉様とは言わないかと……」
「!そ、そうね。お姉……ちゃん?」
不安そうな目でこちらを上目遣いするエレオノーレ様。
(えー何この子可愛すぎる。なんでも買ってあげたくなっちゃう。彼女の方がなんでも持ってるけれど)
女の子にこんなにもキュンキュンした事はない。フリードリヒ様の次くらいに推せる。
「エレオノーレ……」
「エレーナでいい」
さ、案内して!と高飛車に言う妹……じゃなかったエレオノーレ様。明らかにワクワクした背中が愛しい。今だけでも姉でいられて幸せ。
「エレーナさ……ん、勝手に歩き出すのは……」
従者がカタコトになりながらエレノオーレ様を呼ぶ。
「子供扱いしないで。私もう18なのよ!」
「エレーナが可愛らしいから離れてしまうのが不安なのよ」
私がそう言うと
「……分かった」
と私の腕に引っ付いてくるエレオノーレ様。天使。
ここから近い店なので歩きだ。街をこんな感じで歩くのは私も初めてで、緊張する。
エレオノーレ様の従者も貴族の出身なのかもしれない。あまり慣れている風ではなく、キョロキョロと怯えた様子だった。
エレオノーレ様はどうやら恐怖よりも好奇心が優っているらしく、私の腕をつついては「お姉ちゃん、流行の恋愛小説の最新刊が売っているわ!エガントスの……!多くの人が読んでいるのね!」だとか「私が食べてた野菜や魚はこんな形をしているのね!」なんて可愛い顔と仕草で話かけてくる。
これだけ喜んでくれると、頑張る甲斐があるというものだ。
少し前を歩くリカはいつもの無表情で堂々としていて頼もしい。
「ぼーっと歩いていたらスリや痴漢に合いますよ」と言われて気を引き締める。ちなみに、お金は全てリカが管理していた。
「お嬢ちゃん達!アクセサリーはいかが?」
私?私に声をかけているの?オロオロと3人が立ち止まると、リカが私を無理やり引っ張った。
「声をかけてくる人間に反応したらダメ。ビクビクしない。堂々とする」
(心強い!さすがリカ!屋敷中の人間に自慢したいわくらいだわ!)
私が嬉しそうな顔をしたのを見て呆れたような顔をするリカ。「さっさとプレッツェル買って帰りますよ」と言った。
***
いくぶん緊張しながら街を歩いていると、人だかりのできている店があった。
(まさかあれ?!あの中に入って行くの?)
「さすが人気店」
リカがボソリと呟く。
ドアの外まで人が溢れていた。みんな顔見知りなのだろう。庶民の人達があれやこれやと楽しそうに話をしていた。
4人で入ろうと思ったが、エレオノーレ様をあんな人だかりに入れるなんて考えられない。
しかし、リカ1人で入れば残るのは頼りない3人。困り果てていると、リカが提案した。
「……こうします。お互いの主人はお互いの従者が責任を持って守る。その上で、私とエミリアがパン屋に行く」
「え?!」
信じられない提案に、私はリカの方を勢いよく向いた。
(無理無理無理無理)
涙目で訴える。しかし、リカは私を睨む。
(エミリア様がこんな提案をなされたのですよ!)
確かにここに行こうと提案したのは私だし、元皇女であるエレオノーレ様をその気にさせたのも私だけど……って、うわ、自業自得だ!
けれどもこれでも貴族なの!店に並ぶことなど初体験なのよ!はじめてのおつかいなの!!!
そこら辺で買い物をしている子供よりも役に立たない存在なのよ!?
あそこに入ると思うと、プレッツェルなんて諦めて帰りたい。
しかし背後にいるエレオノーレ様は目を輝かせている。私が行かないと言えば行くと言い出しかねない。元皇女を男性もいる人だかりに放り込むなんて、肉食獣の檻にウサギを放り込むが如し。
後には引けない状況。やるしかない……。
「リカ……お願いだから手を離さないでね……見失われたらもう一生会えないわ」
「離さないし、見失ったら私の首が飛びかねないから全力で探す」
はぁ〜と大きなため息を吐くリカ。ガタガタと震えながらリカの袖を掴む。
列なんてあってないようなものだ。横入りしてきた人に押し出されそうになるのを、リカが懸命に耐え押し返す。
明らかにイライラしているリカ。申し訳ない。彼女はとんでもない提案をした主人に付き合ってくれているのだ。まともな主人についていれば一生やらなくて良い苦労をさせていると思うと、何らかの形で報いてあげなくてはと思う。
***
パン屋から出て、私はやっと息をする事ができた。
リカはプレッツェルの入った紙袋を右手に持ち、左手を私と繋いている。逸れないように子供と手を繋ぐ親みたいだった。
エレオノーレ様達の元へ戻ると、たった二人きりで緊張しっぱなしだったのだろう。ひどく疲れた様子だった。
「……仕方ない。この先の小高い丘でプレッツェルを食べてから帰りましょう」
「そうね。持って帰ってバレたら困るし」
こくこくと頷く二人と小高い丘へ向かった。
そこは庶民の人達がのんびりとしている草原だった。いつものドレスだったら草の上に座るなんてありえないが、これは庶民のドレスだ。リーゼロッテ様もその辺はわかっているだろうと、4人は地べたに座りプレッツエルを食べ始めた。
「甘い!美味しい!!!」
従者が持ってきた水筒に入ったお茶を飲みながら感動するエレオノーレ様。
私も食べたが、大冒険の後だからかすごく美味しかった。
3人がキャッキャと楽しそうに頬張っているのをリカは無表情で見ていた。
風がそよそよと吹いてくる昼下がり。乾いた草がふわりと浮かぶ。草刈りをした後の庭の匂いだった。
遠くに山が見えて、すぐ下は賑わう町。草原に寝転ぶ男女。
別世界に来たみたいだ。戦争だとか、貴族間の争いだとか、そんなもの全部どこかへ行ってしまったみたい。
エレオノーレ様もそう思っているようだった。解放された顔をしている。
(考え過ぎていたんだわ)
もっと単純な事だったのだ。楽しいひと時をこの人と一緒に過ごすにはどうしたら良いかを考えれば良かった。
相手に気持ち良くなってもらおうだとか、策略をめぐらせて落とそうみたいなそういう事じゃなくて、私も一緒に楽しむのが、仲良くなるヒントなのかもしれない。
(それなら残りのお二方ともどうしたら仲良くなれるか考えられるかも)
光明が差した。皆さんと心を通わせる事ができるようにもっと頑張ろう。
「あら?もうなくなってしまったわ。でもさすがにもうあそこにいく気にはなれないわね……」
「私のを少しどうぞ」
食べていないところをちぎって渡すと「ありがとう」と眦を下げてエレオノーレ様が笑った。
従者が焦っていたが、気にしないようにと言った。元々エレオノーレ様のために買ったものだ。
「食べたら帰りましょう。日が落ちたら犯罪者がウヨウヨと出てきます」
「「「?!?!」」」
衝撃的な顔で3人がリカを見るとニヤリと笑った。
「冗談です、半分は」
半分は本当なの?!?!
エレオノーレ編終了です。
次回はフリードリヒとエミリア回です。
聡いフリードリヒには街歩きした事があっさりとバレて……




