4.エミリア嬢との結婚
離婚してこの方、私は悲しみを埋めるように仕事をしてきた。
離婚理由は恥ずかしながら妻の不貞行為だった。表向き貴族の間で他の異性と関係を持つことは良くないとされているが、パートナー公認で不倫をすることはないことではない。私の父も母以外に他に女性がいた。
しかし、私は許せなかった。
私の父はいわゆる亭主関白で、母は下に見られていた。
「私が家長なのだから口出しをするな!」
それが父の口癖で、他の女性を屋敷内に連れ込むこともあった。
私の前では仕方ないと笑っていたが、母が不倫相手を見てひっそり泣いていたことを知っていた。
母は父のプライドを満たすために常に笑顔で褒め称え、好きでもない派手なファッションに身を包み社交界へ出ていた。
本来母は内向的な性格なのだ。家で1人刺繡をするのが好きで、私に可愛らしいハンカチや小物を作っては「貴方には可愛らしすぎるわね」と言った。私は必ずそれを誉め、机の中に鍵をかけて仕舞っていた。
長年の気を張った生活が母の精神を蝕んだのだろう。私が18歳の成人になる年に亡くなった。成長を見届けるように。
私は父を反面教師とするように、女性には紳士的であろうとした。
元妻にも精一杯優しくしてきたつもりだ。
元妻は父の選んだ良家の娘だったが、何となく母と顔が似ていて嫌いではなかった。家へ帰ると、彼女は品の良い服装と柔らかな笑顔でいつも迎えてくれた。
よくサロンを開催し客をもてなしたり、社交パーティでもヴォルトブルグ家の妻としてしっかりとやってくれていた。できた妻を持ったと言われ私も誇らしかった。
夫婦仲も良かったと思っていた。
しかし、それは彼女の表の顔だった。
元妻は若い男に走った。同い年だった妻がまさか若い男に走るとは思わなかった。
私達は上手くやっていたのではなかったか?私の思い違いだったのか?なぜだ?
妻の気の迷いだと思いたくて私は聞いた。しかし気の迷いではなかった。彼女の不貞行為の相手は複数人いたのである。しかも、3年も前から続いていた。
女性達の間では有名な話だったそうだ。恐らく私は裏で笑いものにされていたのだろう。
なぜそのような行為をしたのか聞くと、元妻は言った。
「貴方といるのがつまらなかったの」
私はつまらない男だった。
彼女が欲しいと言ったものは何でも買ってあげたし、したいと言ったことはほとんど叶えた。
しかし、優しくするだけではダメだったのだ。
では私はどうすればよかったのか?
父には「甘やかしすぎだった。厳しく躾けるべきだった」と言われたが、母の事を思い出しそんなことは出来なかった。
優しくするだけではダメだ。女性を楽しませる男でいなければならない。
私は女性との接し方が分からなくなった。
私と元妻の間には子供がいなかったので、父は新しい妻をもうけると言った。
私もそれには賛成だった。社交界に出るにあたって、それなりの地位のある者にパートナーがいないのは恥ずかしいことだ。
しかし、もう妻に裏切られるのは耐えられない。
私は結婚しても夫婦としてやっていく自信がなかった。妻を夫として満足させられないと思った。
なので、結婚相手の選定は父に全面的に頼んだ。どんなに気の合わない相手でも、一定の距離を保っていれば問題ないだろうと思ったのだ。
「いくら興味がないとはいえ、何かないのか?子供が必要なんだ。夜伽の相手として不快な女とはできないだろう?」
「では、物静かな女性を」
仕事が忙しいこともあり、父へ投げやりな返事をした。エミリアと会うまでそんなリクエストを忘れていたほどだ。
そうしてエミリアが来る前日に釣書を見て私は酷く後悔をした。
若すぎる!いくつだ?19?!
そんな若さで34のおじさんの結婚相手にされたのか?!
父は若い女性を選ぶとは思ったが、常識的に考えてせいぜい5歳下までだと思っていた。
なぜ選ぶときにきちんと見なかったのだろう。肩書や経歴は見ていたのに年齢を見るのを失念していたなど、ひどいミスだ。
いくら興味がないとは言え、私は何をしていたのだ。
だがしかしその頃にはすでにあらゆる事が決まってしまっていて、私の意見は通らなかった。
初めて会った時、その若さに驚いた。
上手く私と話せず、泣き出してしまった。可哀そうで仕方がない。
気の弱そうなところが母と重なり申し訳なくなった。きっと、これから辛い思いをさせてしまう。友達にもひどく馬鹿にされるだろう。
私といても楽しくないだろうから、なるべく顔を合わせない方が良い。好きなように過ごしてもらおう。不自由な生活をさせるのだから、好きにお金を使って楽しく過ごして欲しい。
恋人のような男性ができるのも黙認すべきだろう。若い女性は若い男と恋をしたいに決まっている。私のことは年の離れた兄くらいに思ってくれたらそれでいい。
妻さえ満足させられなかった私が、あのような若い女の子を楽しませることなどできるわけがないのだから。
仕事が忙しいふりをして、私は彼女となるべく接触をしないようにすることにした。
フリードリヒの独白です。




