31.さよならとただいま(エピローグ)
門の付近にもうニコラはいなかった。
彼女も他家に嫁いだ身だ。自らの家に帰ったのだろう。
「エミリア様?!!?」
門を出て緊張の糸が切れて、もう一歩も歩けそうになかった。
ニコラと戦って、お父様達と戦って、一生分の勇気を使い果たした。
リカが支えようとするが、彼女も色々あった後で疲れている。
他のメイドに応援を呼ぶのが聞こえた。
(あれ……知らない馬車が見える)
ぼんやりとした視界に見えた馬車。そのドアが開いて、誰かが走ってくる。
(なんで、そんなはず)
でも、私が見間違うはずがない。私はずっとこの人のことばかり考えてきたのだから。
「エミリア!!!」
崩れ落ちそうな私の身体をフリードリヒ様が支えた。
「フリードリヒさまぁ……」
強い力で抱きしめられる。
安堵で涙が止まらなくなった。この人の肩を涙で濡らしてはいけないのに、どうしようもなく止まらないのだ。
「わたし、頑張りましたぁ……」
「そうだね」
「ヴォルトブルグ家の妻として、大公夫人として……」
「私の妻として、よく、頑張ってくれたね」
思わず頷いてしまった。
私の身体を抱き、頭を優しく撫でる。
暖かくて、優しかった。
「帰ろうか、私達の家へ」
「帰ります、一緒に」
さようなら、リーベンタール。
*
あの事件から約一月後、リーベンタール家は破産した。
私は知らなかったが、私のいる時から贅沢な暮らしをし過ぎていたお母様やニコラのせいで借金まみれだったらしい。
お父様はそんな家のためにエリーゼ姉様を厳しく躾けて、財政を立て直そうとしていたようだ。
しかしその教育のせいでエリーゼ姉様はプライドが高く人にも自分にも厳しい性格となり、家の役に立たない人間や自らより下の人間を見下した。
農民達にひどい扱いをし、経営のことでお父様と揉めた。
リーベンタール家の領地は、他の貴族の領地に吸収されたようだった。
そもそもヴォルトブルグ家の領地なので、フリードリヒ様が近くの貴族にそこも納めるように指示したらしい。
彼ら3人は没落し爵位を剥奪され、庶民としてこのバーデン大公国のどこかにいるのだろう。
変に詮索して情が湧いたら困るので、私は何も聞かないことにした。
ニコラは資金援助をしたのにも関わらず実家が破産したので、嫁いだ家で肩身の狭い思いをしているらしい。
わがままな性格でそもそも親族と折り合いが悪かったようで、夫がいないと家に居場所がないとか。
私は変わらずバーデン大公夫人をやっている。
パーティは今だに得意ではないし、馬鹿にもされている。
趣味は写生で一般的な令嬢としては碌でもないのも変わらずだ。
けれど屋敷の人とは仲良くやっているし、友達もいる。
大公夫人として少し成長して、堂々とフリードリヒ様の隣に立てるようになった。
自分を責めることも減ったし、私の事を信頼してくれる貴族も出てきた。
「エミリア、行ってくるね」
「はい、フリードリヒ様」
私は今とても幸せ。
好きな人に愛されて、大切にされて。
お役に立てている。
フリードリヒ様を幸せにできて、私は今とても幸せです。
第一章31話にわたるエミリアの物語をお読み頂きありがとうございました。
第二章の連載を2026年7月17日より開始します。よろしくお願い致します。




