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24.彼の仮面と私の気持ち

 フリードリヒ様が部屋を出て言ってからも、私達は結婚の話に花を咲かせていた。

 

「ん?でもよく考えたらなんか変な気がする」

「何が?」

「エミにとって幸せなのって、フリードリヒ様と仲良くすることでしょ?」

「そうだけど……」

 

「それなら、夫であるフリードリヒ様はエミを幸せにするために、ガンガン会いに来るんじゃない?なんか一線引いた感じに見えたよ?」

「それはフリードリヒ様にとって子供みたいな私といても、話が合わなかったりしてつまらないのではない?」

「でもそれって分からないじゃん」

 そう思い続けてきたが、確かに想像でしかない。

 

 夫としてのフリードリヒ様は、私が結婚前に想像していたのと概ねその通りだ。

 けれども、そうでないところも見た。

 怒ったところ、可愛らしいところ。

 綺麗な笑顔を浮かべている、穏やかなフリードリヒ様以外の顔が彼にはあった。


「もしかして、フリードリヒ様って、エミがフリードリヒ様といると天にも昇るほど幸せなのに気づいていないんじゃぁ……!」

「まさか!フリードリヒ様といたら幸せになるなんて当たり前……」

(過ぎて気づいていなかった!!!!そうか!!!!フリードリヒ様は私がどう思っているか知らないかもしれない!)


「でも、私がこんなキモいファンみたいだって知らない方がフリードリヒ様のためでしょう?一緒に住んでいるのがキモいファンなんて知りたくないでしょ」

 

「いや!フリードリヒ様の希望を叶えるためにも、キモいファンであることは少しは知っておいてもらった方がいいんじゃない?フリードリヒ様はエミを幸せにしたいみたいだし」


 そうかなぁ……でもフリードリヒ様が私のことをどう思っているかは気になる。

 無理されていて大きな負担を強いていたら申し訳ないし、逆に私のことを好意的に思ってくれていたら、いや、最初に「妻としての役割を求めない」って言われてるからないと思うけど。


 万が一、気持ちが変わっていたら、なんて。

 それだったら、私から話しかけたりお出かけに誘うのもありなのかも……


「エミもフリードリヒ様を幸せにしたいって気持ちはあるんじゃないの?」

 私の役に立ちたいという気持ちは、幸せにしたい、喜んで欲しいと同義なのかもしれない。

 それなら、フリードリヒ様の私への気持ちを確かめて、身の振り方を考えるべきかも!


「フリードリヒ様とまともにお話できるかしら……」

「え?さっきのエミ、フリードリヒ様と普通に会話できてたけど」

「ほ、本当?!」

 確かに、体感でもそんなにおかしくなかった気がする。


「が、頑張る!フリードリヒ様に私が今思っていることを伝えてくるわ!」


 *


 ルルはフリードリヒ様からの励ましによりどうやら元気を取り戻したらしく、父親と話すために帰るとのことだった。


 フリードリヒ様と並んでルルを見送る。

「あ、あの、お時間ある時で構わないのですが、少し、フリードリヒ様とお話したく……ふ、二人で!」

(この屋敷に来た時からは考えられないセリフ……結婚してたった7ヶ月だけど私って成長したんだ)


 勇気を出して言った言葉。思わず下を向いてしまったが、フリードリヒ様の表情を確認すべく上を向く。

「……あぁ、いいよ」

 フリードリヒ様にしては声に穏やかさがなかった。


 表情もどこかぎこちない。

 常に穏やかで、緩やかな口調でゆっくりと優しく話す、その話し方はやはり半ば作られたもの。

 人間なのだから、そんないつでも穏やかでいられるはずない。

 

 だから、今のこの反応はフリードリヒ様の仮面が剥がれたのだ。

(何が琴線に触れたのだろう)


 分からない。分からないが、彼の素顔に迫りたいと思った。

 必死に見ていると目を逸らす。やはり彼らしくない。

「ディナーの後はどうだろう」

「分かりました!よろしくお願いします!」


 *


 フリードリヒ様が別棟に帰って行くのが見えなくなると、どこからともなく使用人がわらわらと集まってきた。

「奥様!私、久しぶりに感動いたしました……!」

 マリーがハンカチで目を押さえている。

「エミリア様、やるじゃないですか」

 リカがうんうんと頷いていた。

 

 他のメイド達も「奥様!」「素晴らしいです奥様!」「自分のことのように嬉しいです!」と口々に言う。

 こんなにも注目されていたのね、私達……


「それでエミリア様、どんなことをお話に?」

「リカ!それは奥様自身が考えることです。いらぬお節介をするものじゃありません!」

「ですが、エミリア様から旦那様に話を振ったことなどほとんどありませんよ?」

「ありがとう、リカ。でも私、なんとか自分でやってみたいの」


 リカはひどく驚いていた。



 ディナーの時間がやって来た。

 私はエミリアから何を言われるのだろうと気になって仕方がなく、仕事に全く集中できなかった。


 ルル嬢と話をした後、エミリアが私といてどう思っているのか気になっていた。

 さらに近づいて良いのか、これ以上踏み込むべきでないのか。

 それが、エミリアから踏み込まれて、私は戸惑ってしまった。


 (急になぜ)

 最近のエミリアは、私と普通に話せるようになっていた。

 近くで話しかけるとどこか緊張しているように見えるが、話し続ければ緊張もほぐれていっている。

 たまに、目が合うこともある。


 持ってきてくれた絵を一緒に見た時の笑顔はキラキラしていて愛らしかった。

 それでも、彼女から積極的に私に関わることはなかった。初めてのことだ。


 コーヒーが運ばれると、従者達が退出して行った。

 

「あの、私フリードリヒ様に聞きたいことがあります」

 意外にもエミリアが口火を切った。いつもだったら「どうしたの?」と私が聞くはずなのに。


「フリードリヒ様は、私といて楽しいですか?」

「楽しいよ」と、優しく返そうとした。けれども、エミリアの目は必死だった。

 本当の気持ちを教えて欲しいと訴えていた。


 なんて返すべきか分からなくなった。

 楽しいが、常に不安でもあった。彼女を楽しませられているか、自分以外と過ごした方が楽しいのではないか。

 この接し方が合っているのか。


 彼女を不安にさせてしまう。早く返してあげなくてはいけないのに。

 仮にも外交の仕事をしているのに、言葉が出てこなくなるなんて。



「私は、フリードリヒ様と結婚できてとても幸せです!!!」



「いつも、とてもお優しくして頂いて、守ってくれて、尊重してくれて!とてもとても感謝しています!」


 真っ直ぐ目を見て言われた言葉に、私は心を射抜かれた。


「フリードリヒ様は、どう思っていますか……?」


 今度は口から自然と言葉が出てきた。

「私も、エミリアと結婚できて幸せだよ。ありがとう」


「本当ですか……?」

「うん。君と私は15歳も離れているから、正直不安だったところもある。けれど、君からその言葉をもらって本当に幸せを実感したよ」

 ぱっと顔を輝かせたエミリア。

 あぁ、私は本当に間違えていなかったんだな。


「これからも、よろしくね。良かったらまたどこか出かけよう」

 

「はい!またデートしましょう!」

 はっと自らの手で口を塞いだ彼女の顔が赤くなり、白くなり、青くなり。


「エミリア?!?」


 そのまま椅子ごと後ろに倒れた。

 バターン!という音を聞いて、リカが走って来る。

「エミリア様ーーーー!!!!」とまた揺さぶっていた。


 *


 私は一人部屋の中でメソメソと泣いていた。

「ばか、私のばか……何よデートって、調子乗って恥ずかしい……きっと困らせてしまったわ……」

「大丈夫ですよエミリア様。旦那様は気にしておりませんよ」


 はぁ、とリカがため息をついた。

「それより、先ほど届いた手紙があります。急ぎでしょうから早く開けて下さい。エミリア様以外開封禁止のようです」

 ハンカチで涙を拭きながら受け取った手紙の筆跡を見て、私の涙が止まった。


 実家からの手紙だった。いつもはエリーゼ姉様から送られてくる。

 しかし、今回はお父様の字だった。


 (先日のニコラの査察結果だ……)


 良い報告なわけがない。開きたくない。

 だが開かなければもっと最悪な事になることは想像に難くなかった。

見直したら執事の人物紹介がなかったので、今更ですが。


アルブレヒト・メルツ:仕事などの手伝いもするフリードリヒの執事。優秀なのだが、マリー様が凄すぎるので押され気味。フリードリヒより少し年上だが年が近いので、フリードリヒとは気の置けない仲。


おまけ

マグノリア:ルルのメイド。ルルの問題行動を諌めるのに苦労している。

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