18.休憩
その後も私達は絵画や珍しい美術品達を見て回った。どれも美しく素晴らしかったが、何よりも素晴らしかったのはフリードリヒ様だ。
フリードリヒ様は博識で、その作品の技法から時代背景まで語る事ができた。
一方の私は、あまり美術に詳しくなかった。
実家があまり美術品に興味が無く、触れる機会はなかったからだと思う。お父様は美術品を買う金など無駄だと言っており、馬鹿にしている節さえあった。
フリードリヒ様の話が楽しかっただけかもしれないが、私は美術自体にも興味を持った。
どんな職人がどんな思いで作ったのだろうだとか、この作品にはどんな来歴あるのだろうだとか、絵画をもらった人はどんな思いでこの絵を見てたのだろうとか。
そういう事を作品を通して感じ取るのが楽しかった。
それをフリードリヒ様に申しあげたら
「そうなんだよ、エミリア。作品から見える人の気持ちを想像するのも楽しいんだ」
そう言って、フリードリヒ様は愛おしそうに絵画を眺めていた。
その横顔のなんと美しいこ…と……
「エミリア?!?」
「大丈夫です、フリードリヒ様…」
(あっっっっぶな!!!!気を抜いてた!!!ご機嫌なフリードリヒ様やば過ぎる…!!!)
一瞬で致死量のフリードリヒ様を浴び、即死するところだった。
しかし、何度も同じ失敗をしてフリードリヒ様にご迷惑をおかけする私ではない。
こうなった場合どうするか、事前に考えておいた。
「リカ……!!!」
最後の力を振り絞りリカを呼ぶと、素早く走ってきた。
私はリカに連れられ、銅像に裏に連れて行かれる。
(エミリア様!!!!しっかりして下さいませ!!!!)
小声で言われながら、気付け薬を飲まされる。
ものすごい苦さで意識が覚醒した。
「お待たせしました、フリードリヒ様」
「???」
何食わぬ顔で私が戻って来たことにフリードリヒ様は困惑していたが、前回のピクニックのように中止させるわけにはいかない。
このためにまたフリードリヒ様に休みを取ってもらっているのである。
私が貢献できるのが絵画をあげるくらいなのであれば、これ以上面倒をかけをかけ負債を積み上げれば返せるわけがない。
「少し疲れてしまいました。どこかお茶できるところはありませんでしょうか?」
「そうだね、長時間歩かせてしまって悪かったね。どこかで休憩しよう」
*
ヴォルトブルグ家御用達のカフェに私は連れられた。
特殊な事情を除き、フリードリヒ様レベルの人間が一般庶民と同じカフェなど行けるわけもない。
街の外れにある小高い丘のような場所に建てられた建物のバルコニーで休憩となった。
(多分この建物自体がヴォルトブルグ家の持ち物ね)
これからフリードリヒ様と街で行く場所は、全てヴォルトブルグ家の敷地と考えた方が良さそうだ。
「エミリア、実は聞きたいことがあって」
「なんでしょうか?」
私はホットチョコレートの甘さと美しい街の景色に癒されていた。
「パーティの時の様子を見た感じ、他の令嬢に虐められているのかな?」
「……」
「ごめんねこんな事を聞いて。でも……」
「大変申し訳ありません」
一気にホットチョコレートが冷めた。カカオの味が口を支配する。
「公爵家の妻として不甲斐ないと思っています。ご迷惑をおかけして……」
「そんなことは気にしなくて良いんだ。むしろ、気づかなくて悪い事をした。
伯爵家のエミリアが公爵家に嫁いだとなれば、嫉妬されたり根たまれたりもするだろうに……」
「違うんです!元々私は馬鹿にされているんです!」
「え?」
「学校にいた時から良いところのない私は利用されたり、馬鹿にされるばかりで…それが延長として続いているんです。なので、フリードリヒ様のせいではありません」
「……」
フリードリヒ様は驚いて私の方を見る。気まずくなって目を逸らした。
そんな懸念を抱かせているとは思わなかった。申し訳ない。ヴォルトブルグ家やフリードリヒ様のせいではないのだ。
単純に私が冴えない役立たずだから馬鹿にされているだけで。
「冴えな過ぎるので、仕方がないのです!ですが、やっぱり公爵家の妻としてよくないとは思っています!なんとか致しますので、少し待ってもらえませんか…?」
「エミリア、そうだったんだね」
「はい、すみません……」
「大変だったね」
フリードリヒ様は慈愛に満ちた目でこちらを見ていた。
「頑張っていたんだね、エミリアは」
「苦手なパーティに一緒に出てくれてありがとう」
「な、何をおっしゃってるのですか…?貴族なのですから、パーティに出るくらい」
「そうかもしれない。でも、物事には向き不向きがある。エミリアは苦手なのに一生懸命、勉強したり太公夫人として振る舞えるように頑張ってくれていた。それに対して感謝をしても良いと思うんだ」
なんと言えば良いか分からなかった。貴族として当たり前のことをして感謝されるなんて、信じられなくて。
むしろ、何も成果を持って帰れず役に立たないダメな妻だと思っていた。
「馬鹿にされて良いはずないよ。少なくとも、私は嫌だな」
役に立たなければ、存在価値がないと思っていた。
人には得意不得意があって、得意なことで人は価値を見出せば良い。
でも、私にはそんなものはなくて、だから価値がない。
存在価値がないのだから、蔑まれるようなことを言われても事実としか思えなくて、事実を言われて傷付いたらいけない。
なんでこの人はなんでもできてしまうのに、そんなことが言えるのだろう。
綺麗事なのだろうか?
それとも、フリードリヒ様にも苦手な事があって、傷つくことがあったのだろうか。
(そんな、フリードリヒ様が?まさか。そんな事……)
私が狼狽えていると、フリードリヒ様の困ったような小さなため息が聞こえた。
「少しでも嫌な思いをしないように、馬鹿にしてくる人がいれば言ってくれていいよ。この前のように言おう」
この前のようにと言うことは、ソフィア嬢に対してしたようにフリードリヒ様に怒っていただくという事だ。
それは無意味に恨みを買うことになるのでは?
フリードリヒ様にとってマイナスではない?
そして、私は庇ってもらって腫れ物は使いされるように気を遣われるので良いのだろうか。
それで、私は私らしくいられる?
「フリードリヒ様、お気遣いありがとうございます。ですが、遠慮させて下さい」
「気を使わなくて良いんだよ」
「いいえ。私は長年馬鹿にされて生きて来ました。それが私らしさ、アイデンティティなのです。らしさを無くしたくないのです」
「辛くない?」
「辛くないと言えば、嘘になります。ですが、マリーにそれは強みでもあると教えてもらいました。なので、私はこの強みを用いて生きてゆきたいです」
この強みを用いて、あなたのお役に立ちたい。
「…そうか。エミリアがそう言うならそうしよう」
「それに馬鹿にされるにしても、自分でなんとかできるように頑張ります!」
「あんまり無理しないようにね。一人で抱え込まないで。困ったら、いつでも私に相談して欲しいな」
(……あれ?なんかフリードリヒ様の瞳に翳りが見える、ような)
次の瞬間には、フリードリヒ様は輝きを取り戻した。
でも、やっぱりフリードリヒ様にも何か傷つくようなことがあったのかもしれない。
次回は他の公爵を出してみようと思います!
せっかく五人いる設定なので!(笑)




