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15.パーティ再び②

パーティで頑張るエミリア。

しかし、また前回虐めてきたソフィア嬢が現れて…

「奥様、以前のパーティより顔色がよろしいですね」

 リカが嬉しそうに言う。

「うん!マリーにアドバイスを貰って、私らしくいればいいと言われたの」

「はい。エミリア様はエミリア様らしくいればよろしいのです」


 リカにメイクを施された。ドレスも美しい。

 (堂々と馬鹿にされてもいいって、なんて気楽なの!)


 *


 会場に着くと、既に多くの人達が集まり歓談していた。

 やはり緊張するが、前回よりマシだった。

「エミリア、今日はとても美味しい食事が出るそうだよ。後で取りに行こう」

「はい」

(あっっっっぶな!失神するところだった!)


 何よりも気にしなけらばならないのは、フリードリヒ様のご尊顔を直視しないようにする事だった。

 灯りに照らされていつもより数倍キラキラなのだ。

 パーティへの緊張が薄れたことで、フリードリヒ様のキラキラを意識できるようになってしまった。


 フリードリヒ様と挨拶をして回る。

 侯爵家の貴族と会話が始まった。

(私らしく…と言うことは、こう言う時何も話さず、ニコニコとしながら適当に頷き、合いの手のように褒めるだけ)

 少しだけいつもより大きなアクションをとってみようか。

 それと、いつもの通り相手貴族の情報を頑張って頭にインプットする。

 これで良いなら私でもできる。


「大公夫人はご趣味は何かな?」

(絵とか言ったらみんなに引かれるからいつもこう言っている)

「流行の恋愛小説を読むことです」

「そうですか。うちの娘も好きでね」

「どういったものが?」

(あ、会話ができた)

 私の趣味の話は相手からして至極どうでもいい。適当に振られただけなので、2ラリーで終わった。


 *


 何人かフリードリヒ様と会話すると、私はまた一人になった。

「あら?エミリア?……じゃなかった。大公夫人?」

「あ、ご機嫌よう…」

「ご機嫌よう、ですって。私がご機嫌に見えるのかしら?」

 くすくすと三人組の令嬢に笑われる。ここまで馬鹿にされる大公夫人は史上初だろう。

 ソフィア嬢が噂を流したに違いない。


「えっと、違いましたか?」

「馬に泥をかけられて、最悪の気分ですわ」

 ホラ、とドレスの裾を見せてきた。

「お気の毒に…」

「新しいドレスが欲しいわ〜こんなのもう着られないもの。お下がりでいいから、一つくれないかしら?あぁ、あなたのお下がりは嫌。前の奥様のものをね!」


 あははは!と笑われた。いつものことだ。

 この三人の爵位は子爵。断らなければ。

「すみません。前の奥様のものはもうございませんので、私のお下がりになってしまい……」

「じゃぁいらないわ!」

「エミリアのお下がりなんて最悪」


 そういって三人は消えた。

 すごいなあの三人。私がフリードリヒ様に言ったら家が取り潰されるかもしれないのに…

 と言っても、簡単に取り潰すことをフリードリヒ様はしないだろう。

 色々とお考えがあるだろうから。


「大公夫人、ご機嫌よう」

 伯爵家の令嬢が現れた。この方とは顔見知りだ。

「ご機嫌よう」

「大公様はお元気?」

 公爵家と直接関わりがあるからか単純に品がいいのか分からないが、上位貴族の方が私に対して態度がマシだった。


「相談なのだけれど」

「何でしょうか」

「〇〇侯爵家の令嬢に贈り物をするの。何かいい案はないかしら」

「え……」

(何その無茶振り。〇〇家の令嬢なんて会ったこともないんだけど)

「どんな方ですか?」

「はぁ、知らないなら良いわ」

 ここで諦めようかと思ったが、少し食いついてみようか。


「どんな方か分かれば一緒に考えますが……」

 伯爵家の令嬢は少し眉を動かした。

 恐らくだが、侯爵家という自分より上位の貴族に何を渡したら良いか悩んでいたのだろう。

 話を聞いてもらうだけでもして欲しいのかもしれない。


「……私もよく存じ上げないの」

「それは困りましたね」

「お父様が家のために仲良くなっておきなさいって言うの。確かにうちは〇〇家に世話になってはいるけれど……」

「もしよろしければ、フリードリヒ様から〇〇家のご令嬢について聞いておきます。知っている方であれば、何かヒントになるかもしれません。それと」

 ゴクリ、と私は唾を飲む。


「どういうことでお世話になっているのでしょうか……その、そういうのも何かヒントになるかもしれませんので…」

 我ながら言い訳が下手だった。

 変なことをすべきじゃ無かったか。余計なことを言ってしまったかもしれない。

「えっと、ごめんなさい。失礼なことを聞いてしまいました。私ごときがそんなことを知っても仕方がないですよね!」

 笑って誤魔化そうとした。しかし、伯爵令嬢はポツリと言った。


「……――ってことなの。結構お世話になってしまっているのよ」

「それは下手なものをお贈りできませんね!」

 ひ〜!なんか大切な情報かもしれませんフリードリヒ様!私お役に立てるでしょうか!?!

 これ以上は挙動不審になりそうなので、連絡先を交換して私は立ち去った。


 一旦バルコニーに出て息を整える。

(社交の場で皆さんこんなにもすごいことを平気でなさっているのね…!)

 このようなパーティは情報交換の場だ。いつもはうまい返しをしなくては、変なことをしてはいけないと力を入れていたが……


(別にうまい返なんてしなくて良いんだ。ただニコニコしてれば良い。今日はこれ以上頑張るのはやめよう。ボロが出てしまいそう)

 飲み物を取って、何か食べようと会場内に戻る。

 食べ終わったらしばらく存在感を消していようと思っていたが


「あら?エミリアじゃない?」

(ソフィア嬢ー!)

「綺麗なドレスねぇ。さすが大公夫人。化粧もちゃんとしてもらって。以前はひどいものだったものね!」

「あはは、お陰様で……」

「まともなものを着たから、少しは良くなってるわよ!服に着られてるとも言うけれど!」

 基本的に私と他の令嬢との会話はこんな感じだ。ナチュラルにディスられている。


「ところで」

 ソフィア嬢は私に耳打ちするように言った。

「以前言った聖騎士エガントスの舞台の場所、行けるようにお願いしてくれた?」

「え……」

「まさか忘れたの?!これだからエミリアは!このパーティが済んだらすぐ大公様にお願いしてよ?大公様の了解を得ればすぐに入れるのだから」

「でも、あそこは危険地帯なので馬車で通るのも危ないですし。やめておいた方が……」

「私がこんなにお願いしているのに聞いてくれないのね」

「えっ、いや、その……」


 ソフィア嬢は伯爵令嬢だが、この依頼はどう考えても無理だ。

 フリードリヒ様のお手を煩わせてしまうから断らないと。

「ソフィア嬢に危ない目に遭って欲しくないのです。怪我でもされたら……」

「そういうのはいいから!ちゃんと大公様に伝えて!それで了解をもらって!」

「それはちょっと難しいかなぁ…と……」

 だが、ソフィア嬢には今まで色んなことをお願いされ、断れた試しがない。


 大公夫人としてここは強気で行くべき?!

「できません。やはり危険過ぎますし、そのような事をフリードリヒ様がお許しになるとはとても……!」

「言うだけ言うくらいできるでしょ?!結果が分かったら手紙で伝えて!待ってるから。一応妻なんだから、大公様にお願いするくらいすぐ……」


「こんばんは、ソフィア嬢」


 優しい声が聞こえた。

 だけど、毎日フリードリヒ様と会話している私には分かる。


(怒って、らっしゃる……)


「た、大公様、ご機嫌麗しゅう…」


「えぇ」

「……」


 ソフィア嬢は何も言えなくなった。


「私に何かお願いしたい事があるようですね?」

 全部丸聞こえですよ、と言われ嫌な汗をかいているソフィア嬢。

「い、いえ……」

「妻ではなく、私に直接言って構わないですよ?」

「大公様になんて、とても……」

「お父様とは前回のパーティから仲良くさせていただいてまして。今日もお話しして、ご活躍を労ったところです。これからも我がヴォルトブルグ家に尽くして下さると」


(完全にソフィア嬢のお父様をこちら側に引き込んだんだ。それで忠誠を誓う仲になった。つまり、はっきりとソフィア様の家は、ノイブルク家は…)


 ヴォルトブルグ家の家臣となった。


「これからも我が妻とも仲良くして下さい」

 ソフィア嬢はガクガクと震えていた。

 フリードリヒ様は完全に立場を分からせようとしていた。


「エミリア。こちらにおいで」

 そっと腰を抱かれ体を寄せられた。親密だと言うアピールだ。

 私は先ほどのフリードリヒ様とソフィア嬢のやり取りで頭がパンクしかけていた。

 だから、耐えられた。バルコニーで休むまで。


「エミリア?!」

「ご、ごめんなさい。ちょっとこちらを見ないでくださ……」

 私は座り込んでしまう。


 腰を抱かれてしまった。身体が密着してしまった。

 動悸が止まらない。


 でも、何かがいつもと違う。

 熱くて、熱くてたまらない。


「水を持って来よう」

 迷惑をかけてしまっているだとか、役に立っていないだとか。

 多分私はこのパーティを終えたら考える。

 けれども、今はそんなことを考えられなかった。


 私はフリードリヒ様を初めて近い存在だと感じていた。

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