10.ピクニック
「エミリア、少し良いかな」
サンルームでお茶をしているエミリアに私は声をかけ、彼女の向かいのソファに座った。
「いかがなさいましたか?フリードリヒ様」
「明日急に休みが取れたんだ」
「それは良かったです」
「庭でピクニックでもどうかな?」
「それは、えっと、私と、フリードリヒ様ででございますか?」
「うん、そうだけれど…ピクニックは好きではなかったかな?あぁ、予定があるならそちらを優先してくれて構わないよ」
「……」
「…エミリア?」
「ぴ、ぴくにっく…」
ピクニックという言葉を始めた聞いた人間のようにエミリアは口を動かす。
ピクニックは一般的なイベントだと思ったが、違っただろうか。
「1日しか休みが取れなかったら、場所はうちの庭になってしまうのだけれど…他のことがしたいかな?」
「い、いえ!いえいえいえ!ピックニック!ピックニックがしたいでございます!」
「ピクニック、だよね?」
エミリアが壊れてしまった。機械が故障して熱を持ったようになっている。先日のパーティで無理をさせてしまったから、少しでも労ってあげたかったのだが。
「本当に、ピクニックでいいかい?無理をして付き合わなくてもいいよ」
「フリードリヒ様こそ、大切なお休みを私と過ごすのでよろしいのですか?!?」
「エミリアと過ごそうと思って、休みを取った、のだけれど……」
「……へ……?」
ルル嬢の言葉を間に受けすぎただろうか。やりすぎてしまったか。
「私が夫婦として役割を求める気はないと言ったのに、おかしなことを言ってしまったね、忘れてくれて…」
「し、します!ピクニックしますっ!」
彼女の必死な様子に、無理を言ってしまったかと思った。しかし、踊り出しそうに瞳が煌めいていた。
「では、楽しみにしているよ」
*
「エミリア様、しっかりして下さい。旦那様と敷地の庭でピクニックするだけですよ。子供でも男女でピクニックくらいしますよ」
「リカ、あなたは何も分かっていない……」
フリードリヒ様がいなくなった瞬間私の体は力が抜け、ソファでひっくり返っていた。
それを何とか起こす。
「今私がまともにフリードリヒ様とディナーを取れているのはどうしてだと思う?」
「テーブルの端と端で食事をしているからですか?」
「その通りよ。さっきまでまともに会話できてたのはどうしてだと思う?」
「短時間だったからですか?」
「さすがヴォルトブルグ家のメイドね。正解よ。そして、ピクニックとはどういうもの?」
「中距離で長時間会話を楽しみながら食事をするイベントです」
「私の身体が耐えられるとでも?」
「しっかりなさって下さい、エミリア様…仮にも奥様なのですよ?」
「これでも頑張っているのよ……」
さっきだって、美しい声に意識を持っていかれないように必死だったんだから!
「でも、行きたいんですよね」
「……フリードリヒ様のお邪魔じゃなければ……」
私の挙動不審っぷりに嫌気が刺さないかしら。あぁ!もっと私がまともな令嬢であれば!このままでは美味しいものも不味くなってしまって、ご迷惑では……?!
「ややややっぱり止める!ガタガタきょろきょろしてたらフリードリヒ様が落ち着かないわ!せっかくの休みなのだから、1人で過ごされた方が……」
「エミリア様、フリードリヒ様はエミリア様のためにお休みを取られたのですよ?1人で過ごせなどと、酷なことをおっしゃるつもりですか?」
私のために休みを…?そ、そんなことが……???
「断ったら、フリードリヒ様の努力が水の泡ね…何とかしなくては……」
「努力というか、普通に振られて悲しいだけかと思いますけど……エミリア様?聞いておられますか?」
何としてでもフリードリヒ様にピクニックを楽しんでもらわなければ!!!
「エミリア様?どちらに?」
「部屋よ。フリードリヒ様の情報メモを見返すの」
「な、なるほど…」
部屋に着いて私はメモを見返した。もうほぼ記憶しているけれど、間違いがあってはいけない。
「どんな会話なら楽しんでくれるかしら…趣味は絵画…イーゼルを持ってフリードリヒ様に絵を描いてもらいましょうか?以前絵画展で入賞した経験がおありのはず……リカ、地図を」
「は、はぁ……」
庭の地図を見返して、植生を確認した。今の時期まだバラは咲いている。湖を見に行ったついでにバラを見れる。
「フリードリヒ様のご要望がなければ、このルートにしましょう」
「エミリア様?!」
私は馬主のいる馬小屋へ向かい話を付けた。
次に厨房へ向かう。
「ディナーの準備中に失礼します!明日のピクニックについてご相談があります!料理長はどちらに?」
「奥様、いかがいたしましたか?」
「明日のピクニックのメニューを考えて欲しいのです」
「承知しました」
「決まり次第すぐに教えて下さい」
次に行くのはメイド長の部屋だ。
「あら、奥様いかがなされ……」
「マリー、明日ピクニックがあります。汚れても良くて、動きやすく、できれば可愛らしい服と靴を見繕ってもらえますか?」
「承知いたしました、奥様」
私は最後にリカにお願いすることにした。
「会話の練習をお願い」
「かしこまりました、奥様」
ヴォルトブルグ家の庭:二話目に出てきた通り、庭と言ってもほとんど森です。狩ができる森を森番が管理していたり、湖があったりして涼みながらボートに乗れたりします。社交の場でもあります。




