4話(2)
あれほど暑かった空気も、今はひんやりと冷えている。あらゆる物が、やがて来る、本格的冬の訪れを予感させていた。今日は幸いにも、空は青一色に染まっている。その日は、朝食の後片付けが終わると、お母さんと子供二人でファロンの南にある広場を目指して歩んでいた。そこに行くのは初めてでは無かったが、今回は大切な仕事がある。広場にある祠の掃除である。目指す場所には、遠くからでも見える巨大な木が立っている。
巨木の下の広場は、あちこちに落ち葉が見られた。殆ど風は無く、人気は少なかった。茶色く変色した落ち葉の大きさと言ったら、私の顔よりも大きい。夏には緑色だった大きな葉が太陽を遮って、僅かばかりの涼を作りだしていたのを思い出す。この木が生み出すのは、落ち葉ばかりでは無い。大きく広がった枝の先には、茶色の毛玉で出来た実が、鈴なりになっている。これも夏は緑色だったが、今は茶色に変色しており、地面に落ちている物も多い。大変脆い綿毛で出来ており、地上に落ちるとバラバラになり、周囲に撒き散らされる。今日は風が無いから良い物の、これが沢山飛び散れば、さぞや近所迷惑だろう。そんな事もあり、持ち回りでの広場の掃除当番が決まっている。掃除の時に拾った、乾いている葉や綿毛は、持ち帰って焚き付けなどに使うのだという。湿っている物は、掘った穴に放り込み、土をかける。時々間違って子供が穴に落ちてしまうので、注意書きの札が立てられていた。これを繰り返す内に、広場の端にある小山が、いくつも出来ていく。この小山は、次の年には掘り起こされ、肥やしとして使われたりもする。
祠は広場の東の端にある。間口は大人が両手を広げたのより少し大きく、高さは人の背丈の一倍半程。奥行きは大人の足で五歩弱というところだろうか。木造の古めかしい建物で、なだらかな傾斜の屋根が付いている。本来は格子戸になっているのだが、葉などが入り込んで汚れてしまうので、外側に板を嵌め込んでいるため、普段は中身が見えないようになっている。奥には、水の涸れた井戸があるのだという。以前は井戸の傍らに石碑が建っていたが、水が出なくなる直前に突然姿を消したしまったという話だった。簡単に盗み出される様な大きさの物では無く、当時は皆不思議に思ったものだと聞かされている。涸れているにもかかわらず、今でも井戸が守られているのは、このファロンの歴史と関係がある。
ファロンは、昔はミキネスという名前の土地だった。運命の女神ミニムィ様が治めている土地だったという。凜とした美しい女神だったという。今この土地を治める女神テレイア様の友人であると共に、夫のテゥの前妻の妹でもあった。再婚するにあたって、新婦に土地を用意することにした。とばっちりを受けたのは、元々この土地にいた女神ミニムィ様だった。この女様が「運命の女神」と呼ばれるのは、未来を見る目を持っている神様だったからだ。自分の将来を知り、自力ではどうにもならない事が良く解っていた。加えて、新郎のテゥ神は浮気者という事もあり、自らの身の危険も感じていた。この地を離れざるを得ず、かといって遠くには行きたくない。そこで横暴なテゥ神の手の届かない地下へと、この井戸を使って逃れていったのだという。
暖かい日の光と別れを告げる日、女神様は
「テゥ神の浮気癖が落ち着いた時、私は地上に戻れるでしょう。でもそれには、私の力だけでは無理で、多くの者の助けが必要です。その日までは、地下で過ごします」
と涙ながらに語ったという。一方で、この地を貰った女神テレイア様も、友人を追い出してしまった事に心を痛め、別れの時には、一緒に泣いたという。
その話を聴いた時には、私も思わず泣いてしまった。とても、人ごととは思えなかったからだった。
(私も運命の女神様と同じ様に、自分が望んでいないのに、故郷を離れなくてはならなかったわ。故郷に想いを残して去って行った神様の気持ちが、私は解る気がする……)
そんな訳で、私はこの祠に特別な想いと親しみを感じていた。
その昔、ファロンの南側には、同じ様な井戸が全部で五つあった。その中で一番大きな物が、この井戸だという。井戸には元々「井戸神様」が住んでおり、女神ミニムィ様が陽の当たることのない地下に逃れる時には、これを助けたという話が伝わっている。全ての井戸の脇にも、同じ様に石版が建っていたが、この井戸と同様に、全ての石版は突然消えてしまった。それと同じくして、井戸は涸れてしまったのだという。水の出ない井戸は、単なる穴でしか無い。この町の心ない人達は、涸れた井戸に
「井戸神様に捧げるのだ」
などと言い訳をして、家の不要品を沢山投げ込んだという。これを耳にしたテレイア神は大変お怒りになったと同時に、非常に悲しまれた。そして、人が立ち入る事が出来ない様に、全ての井戸を隠す形の祠を作らせたのだという。時代と共に、殆どの祠は忘れ去られ、荒れ放題になってしまった。そんな中でも、ミニムィ様が地下に降りていったと言われている、この井戸だけは、ちゃんと手入れをして守られている。神様が井戸を通って、いつでも地上に帰ってくれるように、テレイア様が願っていると思われているからだ。そして、この祠を作ったのが、お母さんの祖先だった関係で、ここの管理を任されているという話だった。
入り口の板戸を外すと、中には格子戸がある。戸が開かないように縄が掛けられ、粘土で出来た封印がなされている。表面には文様のついた割印が付けてある。その印は、我が家しか持っていない文様だった。
封印を割り縄を外して、祠の中に入る。暗がりの奥に、危険防止の為に木の板で囲まれた井戸がある。私は、井戸に落ちると怖いので近づいたことは無い。扉が閉じられていても、やはり落ち葉や綿毛は、沢山舞い込んでる。細かい土なども、小山になっている所が有り、それも三人がかりで綺麗に取り除く。一通り掃除が終わると、格子戸の縄を結び直して粘土で封をして、印を押してから、板戸で蓋をする。続いて祠の周囲を片付ける。出てきた塵をまとめて、葉を埋める穴に放り込み、掃除は一通り終えることが出来た。
封をした祠の前には、大人の片腕程の横幅で、膝丈ほどの大きさの石が置いてある。その上部に親指が入る程の穴が五つ開いていた。お母さんは、その五つの穴に、持ってきた小瓶から液体を注ぎ込んだ。リンゴの皮で香りを漬けた水で、私達は「りんご水」と呼んでいた。昔は食べ物を供えていたが、それを餌とする虫や鼠が群がってしまい大変な事になったので、今はこの形になったらしい。五つの穴に注ぐのは、全部で五人の井戸神様に捧げるためだという。
全てが終わると、近くに置かれた石に、三人で腰掛けた。広場にある大きな木を見上げていると、お母さんは、この広場の由来を話してくれた。
「大昔はここに、ミニムィ様のための、木造の神殿があったの。古くなったので解体をして、建て直しの工事が始まる直前に、女神様は地下に逃げてしまわれたのね」
結局の所工事は中止になってしまい、そのままとなってしまった。今腰掛けている石は、工事の為に運んできたのに、使わないまま放置されてしまった物らしい。
「前の神殿を壊す時に、一枚の石碑だけは残されていたらしいんだけど、突然消えてしまったの。しばらくして、その後から芽が出て来たのが育って、あの大きな木になったという訳ね」
三人は大木を仰ぎ見た。
「そんな事が有ったの……」
と私が言えば
「いつ聞いても、不思議な話だなぁ」
と、アリジスも頷いている。
「そういえば、ネイの故郷のコーミーにも、ミニムィ様をお祀りしているしている所があるのよ。あなたが火事の時に避難していたところが、そうなのよ」
それは初めて聞いた話だった。
「え、あそこが?」
「テレイア様は、ミニムィ様の神殿の面倒は見る約束をしたの。ファロンの神官が手伝いに行くこともあるのよ。それでアイサー様がコーミーに行ってたのね。火事になった時に、お父さんが痛み具合を調べに行ったのも、ミニムィ様の祠を守っているのが、我が家だったって理由からなのよ」
「それで、お父さん出掛けてったのかぁ」
アリジスは、足をブラブラさせながら、納得したという様に頷いた。
(遠く離れた二つの離れた土地が、そんな縁で繋がっているのね……)
今は地の下におられる女神ミニムィ様。その繋がりが無ければ、不幸のどん底から救い出されなかったのかもしれないと思うと、本当に不思議な事があるものだと思う。それだけでなく、その縁に感謝をする必要があるなぁとも感じていた。
「そうそう、定期的にこの広場に市がたつのよ。賑やかで楽しいから、今度一緒に来ましょうね。この間の人形は、その市で買ったのよ」
話し好きのお母さんは、続けて説明をしてくれる。その店には錆びた道具や、今は使えない古いコインなんかが並んでいたという。およそガラクタの様なものしか無い中に、あの人形があった。
「でもね、不思議な事に近所の人は、そんな店は無かったと言うのよ。人形は残ってるし、お店は絶対あった筈なのにねぇ」
多くの人がいる市の中で、誰も見ていないなんて事があるのだろうか?私の事を予言した人形は、家に来た経緯もまた、とても不思議な物だったのには、とても驚いた。お母さんは、広場の真ん中に天高くそびえる大きな木を指さす。
「そう言えば、あの木の名前は知ってる?あれは『すずかけの木』っていうのよ。なぜ、あの木が生えて来たのかって言う事を、テレイア神殿の神官様の一人が、夢でお告げを受けたの」
ミニムィ様の住む地下世界は、陽が当たる事の無い、真っ暗な世界。行き来する事が出来ない閉じ込められた世界の中では、地上でどんな事が起きているのかを知る術も無い。すずかけの種を蒔いたのは、そんな孤独に負けず、地上との繋がりを持つためだったのだという。大きな葉は日光を沢山集めると、枝や幹、そして根を通じて、暗い地下に光を届けているらしいとの事だった。そして広場に一杯散らばってる、丸いタンポポの綿毛みたいな種。これは、風に乗って遠くまで種をお使いに出し、世の中で起きている事を見聞きしては、女神様にお知らせするらしい。望まぬ形で地下に行った女神様にとって、それはせめてもの慰めになっているのだろうと思う。
「そんな訳で、テレイア様も木を大切にしなさいっておっしゃられているんですよ。まあ実際は、近所に住む人からは、落ち葉や種が沢山飛んでくるので、掃除が大変って言われてしまってるのも確かだけどね」
そう言って、お母さんは笑った。祠の中に貯まっていた綿毛や枯れ葉は、この「すずかけの木」の物だった訳だ。
「この木は別名『愛情の花咲く樹』とも言われているの。あそこの木の枝に少しだけ残ってる毛玉があるでしょう?」
お母さんは木の枝を指さす。
「ああやって実は出来るんだけど、林檎の木みたいに、綺麗な花が咲くって事は無いの。でも、この木の下で誓いを交わすと、自分の代わりに、綺麗な恋の花を咲かせてくれて、それが実ると言われているのよ」
恋とか、それが実ると言われても、それが何なのか解らない。私は小首をかしげる。
「あら、まだネイには早い話だったわね。落ち着いてるから、つい……それは、それぞれ別の家の男の人と女の人が、お互いを好きになって、結婚して幸せになるって事だと思ってね」
なるほど、そういう意味なのかと思った。
「お母さんとお父さんは、あの木の下で誓いをたてたの?」
「ええ、そうよ。今の話だと、ネイから見ても、私たち夫婦が結婚して幸せに見えるってことかしら?」
お母さんは、いたずらっぽい目で私に尋ねた。私が笑顔でうなづくと
「そう言っても貰えると、私も家で頑張っている甲斐があるというものね。嬉しいわ!」
そう言って、にっこりと笑った。
「私の生まれた家も宮大工だったの。でも女の子しかいなかったのね。でもお父さんが結婚して、後を継いでくれたの」
お母さんは照れくさそうに付け加えた。
「僕は男の子だから、お父さんの後を継ぐから大丈夫だよ!」
話を聞いているだけだったアリジスは、得意そうに話した。
「ありがとう。とっても嬉しいわ」
お母さんは、彼の頭を撫でる。その後で今度は、私とアリジスを両腕で抱きしめた。
「二人が居てくれて、本当に幸せよ」
私も本当に幸せだと思った。「愛情の花咲く樹」の下で咲くのは、親子の愛情もそうなんじゃないかと思った。
しばしの間三人で過ごすうち、太陽は随分と高く登っており、もうじき昼という時間になっていた。広場には、近所の人の顔も、ちらほら見かける様になっていた。
「ちょっとした用事があるんで、ほんの少しだけ、ここで待っててくれる?急いで帰ってくるから」
お母さんは、私達に御願いをしてきた。どうも折角のお出かけという事で、ついでの用事も済ませたかったのだと思う。
「うん、大丈夫だよ」
アリジスが笑顔で答え、私がうなづく。
「じゃあ、御願いね!すぐ戻ってくるから」
そう言って母さんは、小走りに出掛けて行った。
アリジスと二人きりでのお喋りは、楽しかった。彼も七才だから、お父さんの手伝いを少しばかりしているが、まだ建築現場には行っていない。自宅にある道具や材料について教えて貰い、その数を数えて報告すると言った簡単な手伝いをしている。その時の話や、習い事で教えて貰った事を、よくを話してくれた。私は聞き手に回ることの方が多いが、食べ物の事などは私の方が詳しいので、彼も時々話題を振ってくれる。本当に楽しい。一片の大きな葉が木から離れて落ちていくのを見つけると、それに歓声を上げたりもした。その時は、この幸せな時間が打ち壊されるとは、考えもしなかった。
笑って話をする私達の前に、三人の男の子が現れた。私より背が少し高く、少し年上に見える。三人とも綻びの無い服をきているが、全体的に土埃がついており、顔も少し薄汚れている。恐らく遊んでいるうちに、汚してしまったのだろう。良く見ると膝小僧に、古くないすり傷を作っている子もいる。ちょっと見ただけで、腕白な乱暴者なんだと解った。私は見た事が無い顔だったが、アリジスが少し嫌そうに顔をしかめているのを見ると、恐らく、相性の悪い顔見知りなのだろう。男の子達は私たちの方に大股で近づいてくると、アリジスを野次り始めたのだった。
「おい、お前は女としか遊べないのかよ!本当に、情けない奴だな」
「俺たちは、子供達だけでも木登りも、沢遊びも出来るぜ。お前何にも出来ないじゃん」
等と言いたい放題だ。しかし、アリジスは何を言われても動じている様子は無かった。強い意志で、我慢をしているのが私には解る。何故彼が、子供達だけでは危険がある遊びをしないのか、その理由を知っていたからだ。こんな乱暴な遊びをして、万一怪我をすれば、両親が悲しむのを理解している。亡くなったお姉さんの事を、どれだけ両親が大切にしていたのかを彼自身も知っているから、同じ想いをさせたくないのだ。
「お前はいつも黙ってるだけだよなぁ!このチビが!」
三人組はニヤニヤと笑い、更に汚い言葉を投げつけてくる。それでも、アリジスは平然とした顔をして、何も言わない。
(私は、アリジスの事解ってるからね!)
そう心で呟きながら、彼の服の裾を掴むと、私の方を振り向き、微笑んでくれた。
アリジスをからかっても、ちっとも手応えが無く面白くないと思ったのかもしれない。三人は私の方に視線を向けた。
「あいつは見た事ある?」
「そういえば、家に新しく子供が来たって聞いた事があるから、そいつかもよ」
最初は、私が誰なのかを三人で話していたが、やがて言葉の矢は私に向かって来た。
「おい!お前は図体がでかい癖に、チビの後ろに隠れてるのかよ」
そう野次られても、アリジスが我慢している以上、私も耐えなければと思う。
「なんだ、お前も口きけないのか?」
そう言って、品の悪い笑みを浮かべている。それに続いて放たれた言葉は、私の心に大きな傷を付けた。
「お前は貰われっ子だろ」
「あ、解った!。何にも出来ない奴の遊び相手になるように、どこかで捨てられた子を拾ったんだぜ、きっと」
「あはは!そんな奴と一緒に遊んでるのか。本当に情けねぇな!」
どんな言葉にも耐えようと思ってはいた。でもそれは、私にとっては、猛毒に等しい物であった。
(捨てられた?拾われた?)
自分は家族として受け入れられている確信がある。親類の家で酷い目にあった事から、今の家族がどれだけの愛情を注いでくれてるのかを、身に沁みて解っている。でも、自分の家族以外から、そんな目で見られているとは、思ってもみなかった。そんな事はあり得ないと自分では思っていても、面と向かって大声で言われると、心にある傷はうずく。自分の力ではどうしようも無い事だけど、心が張り裂けそうだった。
「まあ、腰抜けにはお似合いだろう!」
私のせいでアリジスまでが、そんな悪口を言われてしまっている。私は力は弱いし、貰われ子である事だけは事実だから、何も言い返す事が出来ない。唇を噛み、涙を溜めてうつむく事しかできなかった。
(私は一緒にいちゃいけないの?)
一体どうしろと言うのだろう。自分のせいで傷つけられる人がいるという事が、耐えられない。胸が締め付けられる想いと、悔し涙がこみ上げてくる。それでも、左手の拳を握りしめ、肩をすくめてうつむき、涙を堪えた。三人組の前で泣くのは悔しかったからだ。と突然、アリジスは私を抱き寄せた。驚いて顔を上げると、彼が心配そうに見つめて、優しく微笑みかけてくれているのが解った。口で言わなくても
(安心して、自分はそんな事思ってないから)
そう告げていることを、私は理解した。一緒に暮らした日々は短いけれど、心は互いに寄り添っている。私を気遣う心が、本当に嬉しい。我慢していた涙を止める事は出来なかった。それは悔し涙ではなく、嬉し涙だった。もう、何を言われても我慢が出来ると思ったが、三人組の目には、そうは映らなかった。
「へえ、泣いてやがるの。情けない奴だな」
一層酷い言葉を投げかけてくる。
「まあ、捨てられた物を拾ったって、たいした事ないよな」
と彼らが口にした時だった。突然私から手を離した話したアリジスは、背筋を伸ばして大声をあげたのだ。
「いい加減にしろ!ネイは捨てられたんでも、拾われたんでもないぞ!元々昔から僕らの家に来る事になってたんだぞ。何も知らないくせして、人の悪口を言うな!」
今まで彼が、どのように思ってくれているのかを、直接聞いた事はなかった。。
(来ることが決まっていた……そんな風に思っていてくれるの?)
私を大切にして守ろうとしてくれている事が、心の底から嬉しかった。思わず彼の腕にしがみつく。自分より小さな体が、今は大きくて頼もしく思えた。
「何も知らないくせに、大勢で虐めるなんて、一番卑怯だ」
彼は再度大きな声を出した。彼らは少し驚いた様で、一瞬ひるんだ。しかし、背の低いアリジスが口答えしたのが気に障ったのだろう。彼らは恐ろしい剣幕で怒り出したのだ。
「何も出来ないチビのくせに、生意気だ」
等と口々に罵り始めた。
「捨て子なんて、誰もいらないよな」
突然少年の一人が大声を上げるや否や、あろう事か、私を狙って蹴りを入れて来たのだ。思わず目をつぶり身をすくめる。鈍い音がしたが、痛みは無かった。目を開けると、アリジスが土の上にばったりと倒れている。
「あっ!アリジス!!」
相手の足が私に届かぬうちに、彼は身を呈して私を庇ってくれたのだ。それが気にくわなかったのだろう。ならず者たちは、更に倒れているアリジスを足蹴にした。そんな中で、背の一番大きな子が脇腹を再度蹴りあげた。聞いたこと無い嫌な音がして、アリジスは仰向けに飛ばされる。そして背を丸めたかと思うと、痛みに顔をゆがめてしまった。もう口も聞く事どころか、息をするのすら苦しそうな状態だった。
「ちょっとマズいよ……」
流石に三人組も動揺してる。それまで恐怖に固まって何も出来なかった私だったが、悲しみと怒りが爆発した。
(大切に思ってくれている人を傷つけるなんて許せない。どうにかしなくちゃ!)
私は今まで出したことの無い大きな声をあげた。
「助けて!誰か助けて!」
私の叫びに驚き、一瞬たじろいだ少年達は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出してゆく。
「アリジス!アリジス!」
痛みにうめく彼の傍らで泣き叫ぶ事しか出来ない。その声に気が付いて、少し離れた所にいる人が駆けつけてくれた。間をおかず、慌ててお母さんが駆け寄ってくる姿が見えた。




