第8話 管理者
帰宅したのは21時過ぎ。鏡花に遅いと文句を言われ、線香の香りがするけど何をしていたのか、と問い詰められた。両親の墓参りだよ、とテキトー言っておいたけど普通に信じてもらえたのでこの子やっぱ根は素直だよなと思う。
噂の美人同級生と一緒に寝てました、なんてとても言えない。
長い1日だ。情報量が多すぎてついていけない。俺は恋愛ゲームの主人公で、幼馴染の鏡花か、自称神様のマツリか、最終的にどちらかと結ばれる運命にあるらしい。ゲームの管理者は他にいて、俺の物語がどうなるかはそいつしか知らない。
というのが、マツリから聞いた最後の説明だ。いやしかし、いちばん驚いたのは俺が鏡花の願いによって並行世界から連れて来られたってこと。何の疑いもなくこれまで一緒に過ごしていた鏡花にそんな過去があったなんてとても信じられない。
しかも、俺たちは同じタイミングでマツリによって記憶を消去、改ざんされているから鏡花を問い詰めたって今さら何も出てこないよな。……待てよ、揺さぶりをかけることはできるかも。俺という存在が、鏡花の好みストライクなら、今だってあいつは俺にときめきっぱなしってことになる。
「なあ鏡花」
俺は鏡花の部屋のドアを開けて声をかける。鏡花は横になっていじっていたスマホをさっとベッドに伏せた。驚異の反射神経。
「何よ!ノックくらいしなさいよ」
「この前のお返しだ」
「あんたと違って私には見られたくないものもあるの。
乙女の部屋に堂々と入ってくるとは呆れたわね」
見られたくないものって、どうせいかがわしい漫画とかそんなとこだろ。
「へえへえ。すまん。……なあ、鏡花」
「何よ」
「率直に聞くんだが。俺はお前のタイプか?」
「は、はあ……!?いきなり何よ。おかしくなったんじゃないの?」
「答えてくれ。真剣な悩みなんだ」
「どんな悩みよ……。まあ、顔は悪くないんじゃないの。目がきりっとしてるとことか、眼鏡も似合ってるし。細いけど意外とがっしりしてて男の子っぽいとことか……っていうのは、あくまで客観的な意見で、私の気持ちじゃないんだからね!!」
客観的な意見じゃなくて鏡花の気持ちが聞きたかったんだが、まあいいか。表情から察するに、ほとんど主観で答えてくれてるみたいだし。
「か、勘違いしないでよね。あんたがあんたである以上、そういう目で見るとかあり得ないから!てかなんでいきなりそんなこと聞くの?もしかして私のこと好きなの?まあ、土下座して懇願するなら付き合ってあげないこともないけど!」
聞いてないのにずっと語ってんな。
鏡花が俺を理想の恋人候補として生み出したというのは、どうやら本当かもしれない。
「遅い時間に悪かった。じゃあ、おやすみ」
鏡花はまだ何かしゃべっていたが、俺は気にしないふりでドアを閉じた。
自分の部屋に戻って、例のアプリを開く。
☆賽河原マツリ 電話:○△×ー△△××
誕生日:??
星座:??
血液型:⁇
BWH:⁇
クラブ:オカルト研究会
備考:アンニュイでミステリアスな美少女。ある秘密を抱えている。双子の兄である賽河原ナギと共にオカルト研に所属している。
マツリのプロフィール。この前まで全部はてなマークだったのが一部開放されている。誕生日とかスリーサイズとか、よく考えたらマツリって人間じゃないからそりゃ不明か。
備考に新情報が載ってるな。ある秘密……というのはマツリが神様だってことだろうか。双子の兄がいるというのは初耳だ。マツリは一人暮らしって言ってたし、そもそも神様だし、物語上の都合か?気になる要素ではある。
とにかく、俺は俺の目的を明確にしないといけない。あまりに不可解なことが起こりすぎているし。なんかいきなり恋愛ゲームの主人公になっちゃって、それには複雑な因果がありますって伝えられたけど、こんなのをすぐ吞み込めるほど俺って物分かりよくない。
つまり俺は何をするべきか――
それは、このゲームのレギュレーションを知ることだ。
マツリは俺に、ゲームの存在を教えることしかできなかった。なぜなら、他に管理者がいるからだ。そいつにプレイ方法を聞かなければならない。
さて、管理者をどうやって見つけるか。
マツリと布団を共にしたあの日から、俺は何日もこの部室の前に張り込んでいる。決して勇気が出なくてウロウロしてるわけじゃない。あくまで張り込み。
本棟の文芸部室からは遠い、旧部室棟の寂びれた一室。ここはオカルト研の根城だ。
「オカ研に何か御用ですか?」
階段を上がってきた男子生徒に声をかけられた。いやに爽やかな、作り物みたいな声。俺より少し低い背丈で、女の子受けしそうな童顔だ。
「ああ……ええと、俺は、賽河原ナギさんを探していて」
「僕がそうですが」
ビンゴ……!
「せっかくご来訪いただいたことですし、中へどうぞ」
そう言って賽河原ナギは俺をオカ研部室へ通した。後ろをついていくとき、マツリに似た線香の香りがして不覚にもドキッとしてしまう。
「どうぞ、おかけください」
「ああ、どうも」




