第9話 三角関係
オカ研といえば謎の置物とかUFOの模型とかそういう物で溢れているかと思ったら、長机と椅子が置かれただけのかなり殺風景な室内でむしろゾッとする。
賽河原ナギはの隅にぽつんと置かれた電気ケトルへ水を注ぎ、スイッチオン。慣れた手つきでコーヒーの粉をドリッパーにセットし、湯が沸くのを待っている。
「この時期にここへやってきたということは……来栖三太さんでしょうか」
「ああ。その様子だと事情はよく知ってるようだな」
「ご名答です。簡潔に僕の自己紹介をさせていただきますと、この世界ではマツリの双子の兄。メタ的には彼女の元同僚で、このゲームの管理者といったところでしょうか」
俺が今こうしてオカ研に出向いているこの時間もゲーム中だというのに、メタ的な説明するとかこのキャラめっちゃ冷める。それを言ってしまうと昨日のマツリの言動もあまりいただけないが、男キャラでこれは見てらんないかも。双子の兄なら双子の兄として振舞ってほしかった。
賽河原ナギは俺にコーヒーカップを差し出し、質問があればどうぞ、と言った。管理者から説明してほしいんだけど。ここまで来て主体的な行動が求められるなんて酷。
「マツリと一緒に住んでるのか?」
「おやおや、そこが気になりますか。答えはノーです。僕とマツリでは祀られている神社が違うので。それに、僕はまだ例の会社の社員なのでね。寝泊りは天界でしています。彼女の道楽に、少しばかり付き合ってあげているだけですよ」
「ほう。マツリと、このゲームの目的は何だ?」
「さあ……元来は顧客の今宮鏡花様とあなたを結ぶための管理システムだったと聞いていますが。現在はそれを応用する形で運用しています。つまり、鏡花様とあなた、そしてマツリを結ぶためのプログラムに改修し、僕が管理している」
「それで、目的は?」
「焦らないでください、順を追って説明していますから。プレイヤーつまり、あなたの目的といえば、本当の愛を見つけること、ですかね。そしてマツリの目的は……人間としての感情を見つけること、でしょうね」
寒気がするくらいの爽やかイケメンボイスによる説明だが、嚙み砕いていくとなんとなく分かるような気がする。つまり、本来の筋書きでは俺と鏡花が結ばれるはずのシナリオに、マツリが無理やり参加しているのだ。何らかの心の動きがあって、彼女はこの世界に強引な三角関係を作り出した。
おそらく結果はどうあってもいいのだろう。俺がマツリを選ぼうと、本来の筋書き通り鏡花と結ばれようと。そこに至る過程、感情の動き、悲しみ、喜び――それを感じることが目的。マツリ、お前は青春がしたいのか?
「気付いたみたいですね。さすが並行世界の住人は頭の回転が速い」
「お前も思考盗聴できるのか。それも額に触れずに?」
「仮にもマツリの上司でしたから。そのあたりの技術は彼女より上ですよ」
よくよく考えると、こいつもほんと謎だ。天界で社会人やりながら、小遣い稼ぎの副業ならまだしもボランティアで元同僚の遊びに付き合っている。天界に結婚とかあるのかな?そしたら賽河原ナギって既婚者?だとしたら仕事以外の時間は家族と過ごしたほうが良い気がするけど。
「未婚ですよ」
そっか。思考盗聴されてるんだった。
「僕はマツリのことが好きなんです」
「えっ」
「あなたのご推察通り、僕もそろそろ結婚して家庭を持つ年頃なのですが」
「おいくつなんですか。……生まれてからどのくらい?って聞いたほうがいいか」
「3万年あたりですね、マツリは2万年と4千年くらい。年の差はありますが」
6千歳差の年の差恋愛ってビビる。てかよく考えたらマツリと俺は2万3千歳以上の年の差あるのか。なんかバグってきた。神のライフステージの価値観って謎すぎる。
「というわけで、なるべくマツリの好感度は得ておきたいんですよ。彼女はあなたにお熱かもしれませんが。そもそも人間と神の恋なんて、先ほどお伝えした通り寿命の観点からも難しいですからね。そのあたり、まだ彼女は子供なんです。いきなり仕事を中途半端に放り出して辞めたのも。まったく。僕がいないと何にもできないのに人間界で生活なんて。俺は反対しました。反対しましたよ……」
俺はいただいたコーヒーを飲み干してカップを洗って布巾に乗せて、それでも賽河原ナギはまだ話し続けていたので部室を後にした。この人、よほどマツリが好きなんだな。それならそれで、このゲームが終わったら結ばれたらいいと思うよ。うん。
というか、管理者ならマツリと俺が結ばれないルートを作っちゃえば良くない?そのあたり、やりたい放題できるのが特権でしょ。まあでもあの感じ、クソ真面目なんだろうな。今回も、マツリにお願いされたことを言葉通り実行してるだけ。マツリもそうだけど、天界のヤツって真面目なのが多いんだな。絶対ズルとかしない。




