第7話 ゲーム開始
「とりあえず、分かった」
ということにする。
賽河原マツリはこの神社に祀られている神様で、今は世を忍ぶ仮の姿として女子高生をやっている。俺の幼馴染の鏡花は、彼女が天界の社畜だった頃の顧客という繋がり。そして俺は、鏡花が賽河原マツリに注文したことで並行世界からやってきた存在。なるほど。よーく分かった。
真面目に理解しようとすると頭が爆発しそうだから、ここは流すのが正解。
「話が早くて助かる」
「仮にその話が本当だとして、どうして俺だけに本当のことを話すんだ?知られてちゃまずいから俺たちの記憶を消して、一部改ざんしたんだろ」
「……葛藤。人間がそう呼ぶ感情の結果」
「葛藤ね」
やっぱこの人、中二病が完治してないだけだと思う。むしろ成長に伴って悪化してるかも。
「来栖三太、SNSというネットワークを利用する?」
「やってるけど。どうしてだ」
「人間は、SNSのアカウントを衝動的に削除することがある」
「ああ、あるな。いきなり恥ずかしくなるとか、黒歴史を消したいとかで」
「そう。そして不合理なことに、またアカウントを作り直す」
「あるあるだな」
たとえ話にしてはやけに限定的だ。ようは賽河原マツリも、中二病前回の黒歴史アカウントを恥ずかしくなって消した経験があるってとこか。
「今回あなたに真実を伝えたのは、私にこのような人間的感情が芽生えたから」
「えーと……もう少し具体的にお願いしたい」
「そのための前置きだったのだけれど。仕方ない。
私が来栖三太に真実を伝えたのは、未来を変えたいと思ったから」
「未来を変える?どんなふうに」
「それは、これから分かること」
俺は返す言葉が見つからなくて、アホ面で突っ立っている。賽河原マツリはと言うと、そんな俺のアホ面をジト目で見つめていて、俺のほうが観察対象の宇宙人みたいだ。
賽河原マツリが迫ってくる。なんだ?人差し指を立てている。立てた人差し指がどんどん俺の額に近づいて、触れる。触れた途端、電流が流れるような軽い衝撃。
「来栖三太、あなたは私の話を信じていない」
「あ……ああ」
「思考を読み取ってみた。結果――賽河原マツリは思春期特有の妄想性疾患を罹病していて、荒唐無稽なおとぎ話を創作している――と、あなたは考えている」
「申し訳ないがその通りだ」
思考を読んだ?……まさか。
「まだ信じられないようなら、問題を出す。ランダムな単語を1つ思い浮かべて」
「オッケー」
えーと、タコ?
目を閉じると、またおでこに電流のような衝撃。
「タコ」
「正解」
どうやら賽河原マツリという少女はただの人間ではないらしい。仮に人間だったとしても、超能力者か占い師かメンタリストか、そういう属性であることは確か。
目が覚めると、見覚えのない和室の敷布団で横になっていた。俺、気絶してた……?そしてなんか隣があったかい。どうしよう、誰かいる。賽河原マツリだ。その少女が、俺と同じ布団にくるまって寝息を立てている。なんてこった。
「ん」
起きた。
「ええとこれは、どういう状況で」
「耐性が無いことを知りながら思考盗聴を行ってしまった。そしてあなたは意識を失った。様子を見ているうちに私も眠ってしまったみたい。ごめんなさい」
お茶を淹れてくる、と言って彼女は和室を出て行った。
スマホを確認する。19時か。鏡花から連絡が来ていたので、俺は「遅くなる」と返事をして画面を閉じた。さて、どうしよう。神様かアンドロイドか超能力者の女の子と床を共にしてしまった。鏡花に冷やかされた手前、これはとても気まずい。
お盆を持って戻ってきた賽河原マツリは煎茶を湯呑に注ぎながら、ここが自分の家であること、一人暮らしであることなどを語った。あと、「マツリと呼んで」と言われたので従うことにした。もうすっかり親しい仲になってしまってこれまた気まずい。
「昨日あなたは、あるアプリをインストールした」
「ああ、これか。どうして知ってる」
昨日の謎のウイルスアプリ(仮)。俺は開いてマツリに見せる。
「私が文芸部室のPCをハッキングして、あなたがインストールするよう促した」
「どうしてわざわざそんなことを」
「……声をかける勇気が、無かった」
お前の仕業だったのか。てか、いきなりかわいいな。
「それで昨日、俺の後をつけてたんだな」
「そう。アプリの説明くらい自分でしなければと思った。けれど失敗した」
「なるほど」
マツリはアプリについてこう語った。俺は恋愛ゲームの主人公としてこの世界に存在している。このシステムはマツリが社畜時代に開発したもので、本来登録されているヒロインは顧客の鏡花だけのはずだ。しかし……
「私もこのゲームに参加することにした」
「はい?」
「システム管理者としてチートするわけにはいけない。だから、管理権を委託した」
「つまり、どういうこと?」
「来栖三太、あなたと青春がしたい」
答えになってないんだけど。そういうことなら……仕方ないか。




