第5話 高校デビュー
俺、来栖三太はこの春高校生になった。入学早々うるさいのはこいつ、今宮鏡花だ。
「私も今日から華の女子高生よ!見なさい!このセーラー服」
高校デビューとはよくできた言葉だ。中学では内向的だった彼女だが、高校は元気系でやっていくらしい。ずっと伸ばしていた髪を肩あたりで切って、カチューシャつけてる。鏡花が好きなアニメキャラにそっくりだ。これが新たなる黒歴史の幕開けとならなければいいんだが……。ま、美人だから大丈夫か。
俺と鏡花は幼馴染だ。赤ん坊の頃からの付き合いらしい。らしい、というのも俺には10歳までの記憶が無い。この年に両親と乗った飛行機が墜落、家族で俺だけ助かったけど、記憶を失ってしまった。病室で目を覚ましたとき、見舞いに来ていた鏡花から全てを聞いた。
それから俺はずっと、今宮家にお世話になっている。鏡花は幼馴染というか、もはや兄妹みたいなもんだ。
「やれやれ、ご機嫌でよいこと」
「三太!高校と言えば何かしら」
「いきなり何……受験勉強?」
「しけたこと言ってんじゃないわよ。部活でしょ、ぶ、か、つ」
「何部に入るんだ?」
「教えなーい」
腹立つな。俺がせっかく話に乗ってやってるのに。まあこいつがどの部活に入ろうと知ったこっちゃない。俺は……どうするかな。まあ無難に文芸部とか。
「三太は文芸部でしょ」
「なっ。読心術?」
「いや明らかに文芸部顔でしょ。ダサメガネー」
いや本当に腹立つな。ダサコスプレめ……。
否、悲しきかな。かわいいから憎めない。
入学してしばらく経った。俺が今びっくりしているのは、鏡花の男人気がとんでもないからである。俺たちの中学から進学してきた生徒はごく少ないということもあって、鏡花の高校デビュー作戦は無事成功。その容姿端麗さと、警戒心のなさがウケているらしい。俺から言わせてもらうと、ただの破天荒なKY。
はあ。憂鬱。放課後も実に憂鬱だ。入部した文芸部はそこそこの部員数だが、部室は4分割されており、実質的な文芸部は4分の1。あとは手芸部(自称)とパソコン部(自称)とクイズ研(自称)が占拠している。部員数が少なすぎて認められなかった部活たちのたまり場になっているのだ。
鏡花といえば、全ての部活に仮入部したあと気に入った上位3つの運動部に在籍しているらしい。それ、両立できるのか?……とか文句を言いながらも、鏡花の陸上着を見にこっそりグラウンドまで足を運んだのはここだけの秘密である。
文庫本を開いて目を滑らせていると、自称パソコン部の男子生徒に声をかけられた。
「君、文芸部?普段パソコンとか使う?ちょっと不具合でさ、見てほしいんだけど」
「ああ……いいけど。俺に分かるかな」
自称パソコンの達人に分からんことは俺にも分からんだろう。そう思いながら、一応手伝うフリでも。
「エラーメッセージみたいなんだけど、文字化けしちゃっててさ」
「ふむふむ」
“Need_Install_App”
“Need_Install_App”
“Need_Install_App”
「ただの英語じゃないか?」
「え、読めるの!?」
え、なんか俺がたまたま解読できちゃってるかんじ……?
アプリをインストールする必要がある……か。警告文の横にはご丁寧にQRコードもついてる。これをスマホで読み取れってことだと思うけど。PCのエラー対処で、別の端末にアプリをダウンロードすることってまず無いよな。つまり――
「ウイルスだな」
「え~~~~」
「触らない方が、いいな」
「え~~~~困るよ、今日更新しなきゃマズいサイトがあるんだ」
男に上目遣いで懇願されて乗せられたわけではない。なんか謎に能力者扱いされてちょっといい気分になったのだ。俺はPC画面のQRコードを読み取って、アプリのインストールボタンを押す。……絶対ウイルスだろ。感染したらこのパソコン部員に責任取らせることは了承済み。
俺のスマホ上でアプリのインストールが終わると、PCのエラーは消えた。パソコン部員くんはめちゃくちゃ感謝して、うちの部も兼任しない?とか言ってきたけどそもそも君も肩書きは文芸部だぞ。
さて。
俺のスマホに出現した辞書かノートみたいなアイコンの謎アプリ。絶対、罠だ。分かってるけど開いてしまった。
2050年×月×日 来栖三太
体調:70 文系:100 理系:5 芸術:70
容姿:90 運動:60 根性:80 やれやれ:20 ストレス:60
なんだこれ? パラメータ?
画面のいたるところをポチポチしてみると、もうひとつ新しいページが表示された。
▶今宮鏡花
▷賽河原マツリ
名簿みたいなものか。どうして鏡花の名前が?もう1人は知らない名前だ。試しに鏡花のページを開いてみたら、ありえないレベルで詳細に個人情報が記載されていてビビる。もしかして、個人情報を抜くためのウイルスアプリ?




