第4話 退職
~現在のパラメータ~
体調:60 文系:100 理系:5 芸術:70
容姿:90 運動:60 根性:80 やれやれ:0 ストレス:70
モテ:10000 鈍感力:500
前回のアプデから丸1日、まだ特に変化を感じることはない。モテ値の桁がアホだった頃と比べたら落ち着いたもんだ。それでも1万あるって怖すぎるけど。
それよりストレスと体力消耗をどこかで癒やさなきゃ。明日は土曜だから勉強休んで寝とけばいいか。この世界の体調管理システムってすごく単純で、毎日活動すればそのぶん体調悪くなっていく。ようは、何もしない日を作らないとダメってわけ。
明日の休みが恋しいところだが、今日は鏡花との約束を守って一緒に下校することにした。
「待った?」
いつ見てもすごい美少女だ。ここ数日で55人の女の子と戯れてきたが、鏡花は別格と言っていいだろう。10歳にしてこの完成度とは。もうちょっと素直な性格ならなあ。
「ねえ三太」
袖を掴まれた。
「なによ最近……あんた、調子乗ってんじゃないの」
「ああそれは、ちょっと事情があってというか」
君が、俺を55人に寝取らせようとしてやっぱやーめたって言った件ね。
「女の子に人気なのはいいけど……ちょっとは私の気持ちも考えなさいよ」
鏡花の目尻に涙が浮かぶ。こっちを見ていない。俺の袖を掴んだまま、顔を赤くしている。あれ、こういうシチュエーションって何だっけ?鏡花の気持ち?それはつまり、どういう気持ちだ?すぐ分かるはずなのに、核心に近付こうとすればするほど遠くなるような感覚。
絞り出せ。返事を――
「だよな。俺ばっかりモテるってのは不均衡だもんな。鏡花もかわいいのに」
「なっ……ちょ、そ、そういうことを言ってるんじゃなくて!」
「はて」
「だーかーら、私の、三太に対する気持ち……っていうか」
「は、はて」
ダメだ。頭のネジがどっか飛んでるんだろうけど、どこのネジか分からない。急にIQ下がった。今回のアプデ効きすぎてる。たぶん。
「……もう、知らないっ!!」
鏡花は走って行ってしまった。なんだかすごく悪いことをした気分なのに、具体的な反省点が思い浮かばなくてまずい。これが鈍感力……なのか?恐ろしい。
その夜、俺は悪びれることもなく爆睡していた。午前2時。
寝室の窓ガラスを叩く音がして目を覚ます。ここ2階だぞ。マジでお化けかも、と思って目覚めと同時に覚悟を決めた。覚悟を決めて、窓のカーテンを開けるとマツリがいた。つるぺたツインテールが、直立で浮遊している。
「入ってもいい?」
「お、おう」
直立姿勢のまま頭からぬるりと部屋に侵入してきたマツリは、何やら怪訝そうな面持ちである。
「単刀直入に言う。仕事を辞めた」
「えらい急だな……例の、天界の営業職?」
「そう。私の退職に伴って、今宮鏡花との契約関係も解消した」
「それはいいことだ」
「したがって、後処理をしなければいけない」
そう言ってマツリはいつものように俺のおでこに人差し指をくっつけた。ビビビビの感覚。今回は少し長い気がする。
終わった、と言われて、念のためパラメータ表示を確認。
体調:?? 文系:?? 理系:?? 芸術:??
容姿:?? 運動:?? 根性:?? やれやれ:?? ストレス:??
モテ:?? 鈍感力:??
このゲームもサ終か……。
「そのデバイスは預かる。もうあなたには必要の無い物」
俺はマツリにスマホを渡す。
マツリが仕事を辞めた。ってことは、俺は用済み?彼女が今宮鏡花の願いを叶える必要がないなら、俺に存在意義は無いはずだ。元の世界に戻って俺は社会人か……仕方ない。
「来栖三太。あなたには選択権がある。この世界に残るか、この世界に残るか」
「ん?」
「何か疑問が?」
選択権があると言いながら選択肢1つしかなかったぞ。俺の聞き間違い?
「もう一度言う。この世界に残るか……それとも、この世界に残るか」
マツリはそう言って視線を逸らす。頬を染めるな!神様のくせに。どうやら確信犯だ。
「残るよ、この世界に」
「本当。良かった。それは最良の選択。素晴らしい。統計学的にも風水的にも六星占術的にも良いとされている。もちろん私の計算からも、その選択が良いと導き出された」
必死かな?
「どうして俺に消えてほしくないんだ。鏡花の願いを叶える必要が無いなら、俺はもう用済みだろ。もしかして元の世界に戻す方法が分からなくなったか?」
「違う。それは容易い」
「じゃあなんで」
「強いて言うならば、私がこの姿でいられるのはこの世界線だけ……ということ」
「人間の姿でいられるのが?」
「そう」
マツリは続ける。
「あなたと、もう少し話してみたくなった」
なんか照れるな。この脱サラした神様はどうやら俺と友達になりたいみたいだ。前職の関係者と友達ってどうよ。それに、私情を挟んで俺をこの世界に残留させるとは。とんだコンプラ違反。
「そのために、あなたの記憶を消去する」
「はい?」




