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第1話 社畜の神様ちゃん

目が覚めたらそこは異世界ではなく、わりと見慣れた日本だった。


この平行世界っぽい2045年における俺の名前は来栖三太と言うらしい。新入社員研修をばっくれて公園のトイレでタバコ吸ってたら、10歳の体でこの世界にいた。こっちに来るときタバコ没収されたっぽいけど、若返る過程でニコチン中毒も治ってたからラッキーってかんじだ。研修行かなくていいし。


どうして俺の物分かりがこんなにいいのかというと、今隣を歩いているこの少女がぜんぶ説明してくれたからだ。紫色のツインテールで、見たかんじ高校生くらい?ジト目だしさっきからずっとこっち見ないし、こえー。この美少女が自称、神様だそうだ。


「たくさん説明した。内容を、理解している?」

「バッチリ。俺の名前は来栖三太で、××小の5年。そこの角曲がって右が俺の家」

「そう。概ね間違いではない。ただし、少々飛躍している。私が何の目的であなたをこの世界に連れてきたのか、どのような弊害があるのか――など、覚えている?」

「なんだっけ」

「致し方ない。脳に直接、要約版を転送する」


神様は俺のおでこに人差し指を当て、目を閉じて高速呪文を唱え始めた。ビビビビ、という軽い衝撃と共に情報が一気に流れ込んでくる。ああ、なるほど、ふむふむ。復習バッチリになってきた。神様っていうかお前、有機アンドロイド?ヒューマノイドインターフェース?


『来栖三太。今私は、あなたの脳に直接応答している。

 その答えは、ノー。私はただの神であってそういうSF的な機械ではない』

「ちょ、勝手に思考読むのやめて」

『それと、私のことは、マツリと呼んで』

「おっけ。マツリ」


マツリはようやく俺の額から指を離して、ちょっと照れたかんじでツインテを手でもてあそんだ。人間と目を合わせることってそうそう無いことだから恥ずかしいとか?まあ、かわいいとこあんじゃんってことで。


俺がこの世界に呼ばれたのは、今宮鏡花という女の子が願ったからだそうだ。マツリ曰く、俺は彼女が理想の幼馴染としてイメージした存在に近く、その上、元の世界線から急にいなくなっても不自然でない者、という意味で最適。Amazonで取り寄せられたクリスマスプレゼントみたいな存在が俺というわけ。考えたらゾッとした。


そして、今宮鏡花は幼馴染を手に入れただけでは飽き足らず、今後は俺の「アップデート」を願ってくるかもしれないとのこと。なんてこった。この世界の俺に人権ってないのか。鏡花は、俺を気に入らなければマツリにアップデートの要請をするらしい。その後のことは詳しく聞いていない。ただ、「備えて」と言われた。不穏すぎる。


「どうしてマツリは、その鏡花って子の言うことを律儀に聞いてやるんだ?」

「最近の神事業は、衰退の一途。故に、神はお金になる新事業を始めた。たくさん願いを叶えて、途中から有料プランを勧めてサブスクリプション収入を得る」

「今どきすぎんだろ。腰抜けそう」


「まだ試験段階。だから私の祀られていた神社の娘で試しているところ。それが、鏡花」

「手近な人間使いすぎな」

「そう。そのことは私も後悔している。鏡花の件で今月の超過労働時間はすでに40を越えている。彼女の願いは際限が無い。今回の来栖三太転移のため、私は3日寝ていない」


マツリは歩きながら、ふら~っと俺の方に倒れかかった。俺の転移という一大プロジェクトに成功して、緊張の糸が切れたのだろう。俺は彼女をおんぶして自宅に連れ帰り、休ませてやることにした。神も睡眠不足とかなるんだ。てか、この人たちも俺らと同じように稼ぐシステムを考えないとやってけないんだな。なんか世知辛い。




用意された俺の自宅は、閑静な住宅街にある一軒家でありながら一人暮らしというめっちゃ贅沢なスペックだった。家族まるごと転移させてこっちで生活させるのはさすがのマツリもめんどくさかったんだろう。両親は共に海外赴任中という設定だそうだ。むしろ少女漫画とかラブコメにありがちかも。


ソファに寝かせたマツリを今さらじっと観察してみる。セーラー服着てるのは、近くの高校の生徒と思わせるためのカモフラージュかな。出会ってすぐ「私に実体はない。これは仮の姿」と言っていた。仮の姿ってことは、このまな板系お胸もたわわな感じに変化させることが可能なんだろうか。ぜひ試してみて欲しいんだけど。


「はっ。仕事」


マツリが上半身をほぼ直角に起こして起床した。人間業じゃないな。


「私、寝ていた?……ありがとう。来栖三太」

「いえいえなんも」

「今日中にやらなければならない仕事を忘れていた」


なんかやけに顔が近い。俺の顔をじっくりと観察しているようだ。

そして唐突に、彼女の唇が俺の唇に重なった。どうして。


「来栖三太、あなたがこの世界において魅力的であることを確認した」

「ん?」

「私は、とてもいい仕事をした」


何を言ってるか分からんが、神の社会には神にしか分からん事情もあるんだろうな。

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