第12話 簡単な攻略法
鏡花による最初の大規模アプデが起きた日、俺はまあなんとかなるっしょ、と思っていたけど、結果なんとかならなかった。あの日から1か月、鏡花は毎日のように改変を起こしていて、そのたびに俺は疲弊し、ナギは目の下にクマを作って対応した。
1日ずつ振り返っているとキリがないので現在の状況から説明するんだけど、俺はマツリと交際することになった。流れに身を任せていたらそうなった。俺は悪くない。そう思いたいけどこの男は反対意見を唱えてくると思う。
「愚行です」
やっぱり。
「愚行というかもう、愚の骨頂というか、とにかく愚かな選択です」
愚が3つも。ナギの言い分はこうだ。彼は俺に、鏡花の機嫌を損ねないよう行動してなるべくアプデの発生率を下げろと忠告した。それなのに、俺はほぼ毎日大規模なアプデを引き起こしたあげく、マツリと交際するという選択をした。
ナギが怒るのも無理ない。1つ、鏡花の意思に反して他の女の子と付き合い、彼女に刺激を与えたから。2つ、大好きなマツリを俺が寝取ったから。うん、無理ない。
「お前もちょっとは休めよ」
「こんな状況でよくそんな呑気なことを言えますね」
「だって仕方ないだろ。ちょっとは俺の気持ちも考えてくれ」
ここまでの流れだと俺はめちゃくちゃ悪人に見えるだろうけど、実際わりとそんなことない。本当に仕方なかったのだ。
まず鏡花は俺を理系に変更。その後文芸部を廃部にして、なぜか俺の視力を回復。俺は眼鏡じゃなくなった。俺は裸眼の理系になったわけだが、成績優秀にもかかわらず課外活動に精を出さない俺を見かねた先生が生徒会へ勧誘。俺は生徒会に入った。
生徒会に入ったらなんとそこにはマツリがいた。俺は会計、マツリは庶務だったので一緒に作業することも多く、放課後は主に彼女と過ごすようになっていった。それで鏡花は俺を生徒会から脱退させた。正しくは、俺がもとから生徒会に入っていない世界にアプデした。
その後、俺の運動パラメータが爆上がりしたので鏡花と同じ陸上部に入部。すべての種目で学校新記録を叩き出し、顧問の先生に目を付けられる。放課後俺だけ残って練習する日々が続いた。生徒会の残業終わりで帰宅の遅くなったマツリと顔を合わせることが増え、自然と仲良くなる。
などなど。鏡花は俺とマツリを遠ざけようと無意識にアプデを続けたが、どんなルートを辿っても俺はマツリに近づいてしまう。俺だって、鏡花と一緒にいる時間を増やそうと努力していた。でも、無理だった。無理なもんは無理なんだ。
うわ、ナギがすごい形相で睨んでくる。
「そこまでは擁護できますが、さすがにマツリと交際してしまってはいけませんね」
「それも仕方なくてだな……」
もう何度もアプデを繰り返し、疲弊しきっていた頃のことだ。俺はマツリを心配させないように、鏡花の暴走については黙っていた。それを勘づかれてしまったのだ。
「今は何回目の世界改変?」
「25回かな」
「ごめんなさい。あなたとナギに負担をかけてしまった」
「まあ否定できないが、気にすんな。俺はともかくナギは本望だろ」
「……そう」
「なんかアドバイスとかないか。アップデートを止められる、何か」
「とっておきのがある」
マツリは前に文芸部室でそうしたように、俺の手を取って振り向かせ、キスをした。
「あなたが好き」
言葉はそれだけだった。俺は返事代わりにもっかいキスを返した。
「なんかロマンチックに説明してますけどそれが大失態と言っているのです」
ナギの言葉で急に現実に引き戻される。確かに俺は失敗したような気もするけど、マツリの助言に従っただけだもんな。悪くない悪くない。マツリの唇、柔らかかったな。
「浮かれてんじゃないんですよ」
「すまん」
「マツリ、何を考えているんでしょうか。あなたがマツリと交際することは、さらに激しい世界改変を生みかねません。修復不可能なアップデートが起こり得ます」
「ショック療法みたいなもんじゃないの?鏡花に、これ以上お前の思い通りにはなんねーよって伝えて、アプデを止めさせる」
「僕の考えうる限りでは危険すぎる方法ですね……」
マツリよりキャリア積んでるナギがそう言うんだから結構強引なやり方なんだろう。でもなんだか俺の中では好奇心が勝っていた。人生で初めて女の子とキスして舞い上がってるだけかもしれないけど、なんか悪いことは起こらない気がしている。
「舞い上がってますね」
「そろそろ思考盗聴やめない?てかちょっと寝ろよ。クマやばい」
ナギをオカ研の物置きから見つけた寝袋にぶち込んだら、速攻で寝た。本当に疲れてたんだな。こいつのおかげで世界は何事もなくアップデートされて、平和が保たれていたわけだから偉大だよ。今日はマツリとデートがあるから明日の朝くらいまで寝ててほしいな。
スマホを確認したら、マツリから連絡が入っていた。
『今日、うちに泊まりでもいい?』
今晩、世界が滅んだらどうしよう。




