第44話 ため息の瓶詰めと、僕の著作権(※一滴も売ってません)
テオが「来週の自分に仕事を任せる」という高度なサボり技術を習得し、屋敷に静寂が戻ったのも束の間。近所の市場で、妙な噂を耳にした。
なんでも、吸うだけで「すべての悩みが消え、悟りが開ける」という魔法の瓶詰めが、金貨一枚という暴利で売られているらしい。
「……はぁ。パパ、これ絶対に僕の『ため息』のパチモンだよね。僕、いつの間に瓶詰め工場になったんだろう……」
僕は**頭を抱えて**、テオがどこからか入手してきた「その瓶」を眺めた。ラベルには『聖者カノンの慈愛の吐息・100%オーガニック』と書かれている。
「主殿、お察しの通り。悪徳商人が屋敷の排気口に網を張り、漏れ出した主殿の残り香を回収して薄めたものですな。100%の純度には程遠い、極めて質の低い偽物です」
「許せないわ! カンちゃんの神聖な(?)ため息を、勝手に薄めて売るなんて! アタシがカスタネットでその商人たちの鼓膜を爆破して、ついでに店の在庫を全部ポップコーンに変えてやるわ!」
「師匠! 著作権侵害です! 僕が修行で学んだ『効率的な踏み倒し術』を使って、売上の100%を慰謝料として回収してきましょうか!?」
外野が勝手に盛り上がる中、僕は一番の被害者として、重い腰を上げた。自分の名前が「開運グッズ」のように扱われるのは、二度寝を邪魔されるのと同じくらい我慢ならない。
「……はぁ。自分たちで解決しなきゃ。パパ、その市場へ連れて行って。……本物の『絶望』ってやつを、その瓶に詰め直してあげなきゃいけないから」
僕たちは市場の裏通りにある、怪しい露店へと向かった。そこでは商人が「さあさあ! これを吸えば明日から働かなくて済むぞ!」と大声で偽物の瓶を売っていた。
「……あの、すみません。それ、僕のため息じゃないですよ。……というか、ため息を吸って元気になろうなんて、考えが甘すぎます」
「あぁ!? なんだお前は。……って、お前、ラベルの顔にそっくりじゃねえか! 本物がわざわざ納品に来てくれたのか!?」
商人が下劣な笑みを浮かべて僕の腕を掴もうとした瞬間、僕の奥底で、自分の「静かな生活」を売り物にされた怒りが、ドロッとした黒い**ため息**となって溢れ出した。
「**『どん底ため息砲・著作権侵害差止』**!!」
**ズゥゥゥゥゥゥゥゥン…………ッ!!**
僕が放った「本物」のため息が市場全体を包み込む。
すると、商人が持っていた瓶は一瞬でパリンと割れ、中に入っていた「パチモンのやる気」が消滅した。さらに、商人は僕のため息の「本物の重み」を全身で浴び、その場に崩れ落ちた。
「……あ。……。……金儲け、とか……。人を騙すの、とか……。……そもそも、立って喋るのさえ、人生の無駄遣いな気がしてきた……」
商人は売上金を道端に放り出し、「……俺、これからは土に還る努力をするよ……」と呟きながら、這うようにして去っていった。
「流石は主殿。商魂という名の強欲を、根こそぎ『存在への疑問』に変えてしまうとは。……さて主殿、公式の『ため息グッズ』ですが、私が主殿の寝顔を刺繍した最高級枕を100%受注生産で……」
「……パパ。それ、一番やっちゃいけないやつだから。……はぁ。……テオ、そのお金、困ってる人に配っておいて。僕はもう、帰って寝るよ……」
僕は、偽物の瓶が割れた跡を横目に、自分のプライバシーを守ることの難しさを嘆きながら、パパの背中に負ぶわれて屋敷へと帰るのだった。




