第45話 国境線の引きこもりと、僕の平和条約(※領土問題には興味ありません)
「ため息の瓶詰め」騒動から数日。ようやく静かになるかと思いきや、今度は屋敷の周りを、二つの国の軍隊が完全包囲していた。
右からは「鉄の王国」、左からは「魔法の連邦」。両国の将軍が、拡声魔法で僕の屋敷に向かって叫んでいる。
「カノン殿! 貴殿の存在はもはや一市民の枠を超えている! 貴殿を我が国の『特別戦略守護聖人』として迎えたい! 拒否すれば、この地を我が国の領土として強制編入する!」
「……はぁ。パパ、これ、僕が『土地』扱いされてるってこと? 僕、いつから人間じゃなくて不動産になったんだろう……」
僕は頭を抱えて、窓の外で睨み合う大軍勢を眺めた。第35話で建てられた僕の黄金の銅像が、なぜか国境線の目印として勝手に移動させられている。
「主殿、お察しします。両国とも、主殿の『ため息』という最強の脱力兵器を手に入れた方が、戦わずして世界を支配できると気づいたようですな。……アビィ、この軍勢を100%の力で『消去』ではなく『移動』させましょうか?」
「いいわねパパ! アタシのカスタネットで、全員のパンツのゴムだけを切り裂いて、戦意喪失させてあげるわ!」
「師匠! これはチャンスです! 両国から莫大な『不戦勝手当』をむしり取って、一生遊んで暮らせるサボり資金にしましょう!」
外野がまたもや物騒な提案をする中、僕は「国家の道具」にされることへの最大の嫌悪感を抱き、パジャマのまま玄関の前に立った。
両軍が固唾を飲んで見守る中、僕は、国境争いなんていう「世界で一番エネルギーの無駄遣い」な行為に向けて、魂を削るようなため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・非武装中立地帯』!!」
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン…………ッ!!
僕のため息が波紋のように広がり、国境を挟んで対峙していた数万の兵士たちを飲み込んだ。
すると、将軍たちの顔から険しさが消え、兵士たちが持っていた槍や杖が、重力に逆らえず地面に落ちた。彼らの頭の中にあった「領土拡大」という野心が、一瞬で「……っていうか、この境界線とか、どっちでも良くない? むしろ、みんなでこの線の上で寝れば、どっちの国にも属さない『自由』が得られるんじゃね?」という、極めて身勝手な平和主義へと書き換えられた。
「……あ。……。……領土、とか。……。今日からここは、国じゃない。みんなの『二度寝広場』だ……」
両国の将軍が手を取り合い、その場にレジャーシートを広げてピクニックを始めた。数万の軍勢が、瞬時に「ただの観光客」に変貌したのだ。
「流石は主殿。国境という概念そのものを『無意味』という名のため息で溶かしてしまうとは。……さて主殿、ここはもうどの国にも属さない『独立ニート国』となりました。私が100%の管理体制で、入国審査(昼寝の邪魔をする者の排除)を行いますぞ」
「……はぁ。国なんて作らなくていいよ。……パパ、とりあえずあの将軍たちから、お弁当の唐揚げだけ分けてもらってきて……。お腹すいちゃった」
僕は、黄金の銅像の影で平和に昼寝を始めた元兵士たちを横目に、領土問題すらも「面倒くささ」で解決してしまった自分の力に、さらなる深い、深いため息をつくのだった。




