第31話:実家からの手紙と、僕の仮病(※遺産相続に興味はありません)
パパが完全復活を遂げ、僕のコタツが「宇宙空間でも快適」なレベルに改造された翌日。一通の、やけに豪華で鼻につく香水の匂いがする手紙が届いた。
差出人は、僕を「無能」と呼んで家から追い出した実家、アステリア男爵家からだった。
「……はぁ。パパ、これ、開けずに暖炉に捨てていいかな。中身を見なくても『お前が必要だ(パパの力が)』って書いてあるのが透けて見えるよ」
僕は頭を抱えて、ベッドの中でミノムシのように毛布にくるまった。
「主殿、そう仰らずに。文面を読み上げましょう……『愛する息子カノンへ。お前の隠された才能に気づけなかった愚かな父を許してくれ。今すぐ屋敷に戻り、爵位と財産を継いでほしい』……だそうですな。フム、驚くほどテンプレ通りの手のひら返しです」
「カンちゃん、これって『殴り込みに行っていいわよ』っていう招待状でしょ? アタシ、あの高飛車な男爵の屋敷を、まるごと巨大なカスタネットに変えて叩き潰してあげてもいいわよ?」
アビィが指をパキパキと鳴らす。完全体になったパパの影から、禍々しい魔神のオーラが漏れ出している。
「やめてよ! 騒ぎを大きくしたくないんだ。……よし、決めた。パパ、『僕は謎の奇病にかかって、余命三百年だから帰れない』って返事書いて」
「……主殿、三百年もあれば普通の人間は十回くらい死にますぞ。……分かりました。では、私の100%の権能をもって、主殿を『概念的な病欠』状態にいたしましょう」
パパが指先をスッと動かすと、僕の周囲に「この世のあらゆる面倒事から隔離される」という、究極の引きこもり結界が張られた。
……が、その直後。屋敷の扉を蹴破って、僕の義理の弟であるエドワードが、騎士団を引き連れて踏み込んできた。
「兄上! 仮病は通用しませんよ! 父上は激怒して……っ、な、なんだこの部屋の空気は……!? 息をするだけで、やる気が削がれていく……!」
エドワードたちは、僕の結界内に一歩入った瞬間、あまりの「脱力感」に膝をついた。
「……はぁ。せっかく静かに寝ようと思ったのに。エドワード、実家の財産なんていらないから、僕のことは死んだと思って放っておいてよ……」
僕は毛布の中から顔だけ出し、欲にまみれた弟とその騎士たちに向けて、実家時代の嫌な思い出をすべてぶつけるような、冷え切ったため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・絶縁宣言』!!」
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ…………。
僕のため息がエドワードを包むと、彼の頭の中にあった「カノンの力を利用して出世する」という野心が、一瞬で「……っていうか、実家の手伝いとかマジだるいんだけど」という、かつての僕のような無気力へと書き換えられた。
「……あ。……兄上。そうですね。僕も……なんか、騎士団とかやめて、実家で一日中アリの行列とか眺めて暮らしたいです……」
「……えっ、エドワード様!? 目を覚ましてください!」
騎士たちが慌ててエドワードを担ぎ出し、逃げるように去っていく。
「流石は主殿。血縁関係すらも『無関心』で断ち切るとは。……さて、主殿。実家がまだ諦めないようなら、次は私が実家を『消去』ではなく『清掃』して、主殿の靴置き場に変えておきましょうか?」
「……パパ、規模が大きすぎるからやめて。……はぁ。これでしばらくは、静かになるかな……」
僕は再び毛布に潜り込み、完全体になったパパの過剰な警護に守られながら、二度寝という名の聖域に沈んでいくのだった。




