第30話:最後のオーブと、僕の退職願(※伝説の勇者は呼び出してません)
パパの最後の欠片『至高のオーブ』が安置されているのは、世界で最も太陽に近いと言われる「聖騎士の神殿」だった。
そこには、かつてパパを封印した伝説の勇者の末裔、レオンが眩い黄金の鎧を纏って待ち構えていた。
「よく来たな、魔導師カノン! そして忌まわしき魔神とその娘よ! この私がいる限り、魔神の完全復活という大罪は断じて許さん! 我が魂は正義に燃え、悪を断つ光となるのだぁぁぁ!」
レオンから放たれる「正義のオーラ」があまりに眩しくて、僕は頭を抱えて深くため息をついた。
「……はぁ。パパ、あのアツ苦しいの、なんとかならない? 見てるだけで目がチカチカするし、なんか……お腹いっぱいだよ」
「申し訳ありません、主殿。あの一族は代々、話を聞かずに光り輝くのが仕事でして。……お嬢様、少々お掃除を」
「オーケーパパ! あのピカピカの鎧、傷一つ残さず粉砕してあげるわ!」
アビィが戦闘態勢に入るが、レオンの聖剣から放たれる「不屈の闘志」が、パパたちの魔力を弾き飛ばす。正義感が強すぎて、魔法すらも「説教」されているかのように霧散してしまうのだ。
「無駄だ! 邪悪な魔力など、我が『絶対に折れない心』の前では無力! さあカノン、お前も目を覚ませ! 正義のために共に戦おうではないか!」
「……はぁ。……もう、本当に、いい加減にしてほしい……。正義とか、悪とか、そういうの、もうお腹いっぱいなんだよ……」
僕はコタツ(まだ入っていた)から這い出し、レオンの眩しすぎる笑顔に向かって、これまでの人生のすべての「面倒くささ」を凝縮した、最大級のため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・賢者の休息』!!」
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン…………ッ!!
僕のため息が放たれた瞬間、神殿を包んでいた黄金の光が、急速にセピア色へと変わっていった。
レオンの「絶対に折れない心」が、僕のため息に含まれる「まあ、明日で良くない?」という圧倒的な妥協の波動に飲み込まれたのだ。
「……あ。……あれ? なんで私、こんなに頑張ってたんだっけ。正義って……意外と肩が凝るな。……ちょっと、横になってもいいだろうか」
伝説の勇者の末裔は、その場に大の字になって寝転がり、あんなに大切にしていた聖剣を枕にして、スヤスヤと眠り始めた。
「流石は主殿。勇者の魂を『日曜日の昼下がり』のような脱力状態に追い込むとは。……さあ、これで最後ですぞ」
パパが祭壇に安置されていた『至高のオーブ』を手に取る。その瞬間、神殿全体が震動し、パパの姿が眩い紫黒の光に包まれた。
「――全オーブ、完全同期。出力100%。……主殿、お待たせしました。これこそが、私の真の姿です」
光の中から現れたのは、もはや神々しさすら感じる究極の執事。……だが、開口一番、彼は言った。
「主殿、100%の力で、まずは主殿のコタツを最新式にアップグレードいたしました」
「……はぁ。そこは世界征服とかじゃないんだね。……まあいいや、帰ろう。パパ、おんぶして」
全オーブを揃え、ついに「完全体」となったパパ。しかし、カノンの平穏(という名の怠惰)への執着は、それ以上に強大だった。




