第29話:忘却の雪山と、僕のコタツ(※冬眠する権利をください)
パパの次なる欠片『凍てつくオーブ』を求め、僕たちは標高八千メートルを超える「忘却の雪山」に来ていた。
視界は真っ白。気温はマイナス五十度。
「……はぁ。パパ、もう無理。指が動かない。僕、このまま雪像になって、来年の春までここで寝ててもいいかな……」
僕は雪の中に膝をつき、頭を抱えて(というより耳を塞いで)震えた。
「主殿、弱音を吐いてはいけません。……ですが、確かにこの寒さは主殿の柔肌には毒ですな。お嬢様、あれをお願いします」
「任せなさい! パパの魔力とアタシの創造魔法の合体技よ! ――暗黒魔導炬燵、起動!」
アビィがパチンと指を鳴らすと、雪原のど真ん中に、漆黒の天板と禍々しい髑髏模様の布団がついた「コタツ」が出現した。
「……えっ、コタツ?」
「左様です。私が内側から魔力を放出し、常に摂氏四十度をキープしております。さあ主殿、この中へ。私がコタツごと背負って山頂までお運びしましょう」
パパは燕尾服のままコタツをひょいと担ぎ上げ、僕はその中に潜り込んだ。……暖かい。天国だ。
「止まれ、愚かな侵入者よ!」
山頂付近で、巨大な氷の塊――「氷のゴーレム」が立ちふさがった。
ゴーレムは、コタツを担いで登ってくる執事と、その中から顔だけ出している僕を見て、凍りついた目で(文字通り)見下ろした。
「神聖なる雪山を、そのようなヌルい家具で汚すとは……! 万物を凍てつかせる我が吹雪で、そのコタツごと永遠に眠るがいい!」
ゴーレムが両手を広げ、絶対零度の吹雪を放とうとした。……が、その瞬間、コタツの中でミカンを剥いていた僕の逆鱗に触れた。
「……はぁ。せっかく暖まったのに、隙間風が入ってくるじゃないか。……もう、静かにしてよ」
僕はコタツの布団から身を乗り出し、吹き荒れる極寒の空気を「さらに冷ます(冷めさせる)」ための、極限のため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・絶対零度』!!」
ピキィィィィィィン…………ッ!!
僕の吐息が放たれた瞬間、ゴーレムの吹雪が「寒さ」を通り越して「虚無」へと変わった。
あまりの温度低下(精神的な冷え込み)に、氷のゴーレムですら「……あ、自分、ただの氷の塊だったわ。頑張って動くの無駄だわ」と悟りを開き、そのまま粉々に砕け散って、ただの綺麗なカキ氷になってしまった。
「……流石は主殿。吹雪の『熱意』すら奪い去り、雪山そのものを沈黙させるとは。これでオーブ回収も容易ですな」
「……はぁ。パパ、オーブ取ったら、このコタツのまま宿まで運んでね。一歩も外に出たくないんだ……」
僕は、再びコタツの奥深くへと潜り込み、パパに揺られながら、山頂に輝く『凍てつくオーブ』を片手間で回収するのだった。




