第26話:隣国の姫と、僕の護衛(※逆指名は受け付けておりません)
ロボットを「賢者タイム」に追い込んだ翌日。僕たちが街道を歩いていると、地平線の彼方から凄まじい土煙が迫ってきた。
現れたのは、黄金の甲冑に身を包み、身の丈ほどもある大剣を担いだ女性――隣国サンバルトの第一王女、シルヴィア様だった。
「貴様が『ため息一つで城を落とす』と噂のカノンか! 私は強い男しか認めぬ! さあ、私と立ち合い、勝ったならば私を妻にする権利をくれてやる!」
「……はぁ。なんで勝ったらペナルティみたいな義務が発生するんですか。お断りします」
僕は頭を抱えて深くため息をついた。しかし、シルヴィア様は聞く耳を持たず、大剣を地面に突き立てた。
「問答無用! 我が国の掟では、王女に勝った者こそが次期国王……すなわち私の夫となるのだ! さあ、構えろ!」
「……パパ、なんとかして」
僕が助けを求めると、いつもなら優雅に微笑むパパの顔が、今までにないほど冷徹に引き締まった。
「……主殿。申し訳ありませんが、こればかりは看過できません。私の至高の主殿を、どこの馬の骨とも知れぬ筋肉女に差し出すなど……。お嬢様、いかがいたしますか?」
「決まってるじゃない、パパ。この女、カンちゃんを『景品』扱いしたわ。……ミンチにして、魔界のサボテンの肥料にしてやるわよ」
アビィの周囲にどす黒い魔力の渦が巻き起こる。……珍しく、二人の意見が完全に一致している。
「ちょっと二人とも、やりすぎだよ! 相手は一国の王女様なんだから!」
シルヴィア様が「ふん、取り巻きから片付けてくれる!」と大剣を振り上げた瞬間、僕は二人の暴走を止めるべく、そして王女様の暑苦しい熱意を削ぐべく、全力のため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・冷却期間』!!」
スゥゥゥゥ……ッ!!
僕の吐息がシルヴィア様を包み込む。
すると、彼女の全身から溢れていた「戦う気満々のオーラ」が、急速にシュン……としぼんでいった。
「……あれ。私、なんでこんな重い剣持ってるのかしら。結婚……? 別に一人でも楽しく生きていけるわよね。最近、ヨガとか始めたかったし……」
シルヴィア様はその場に座り込み、大剣を放り出して、遠くの空をぼんやりと眺め始めた。
「流石は主殿。燃え上がる恋心(?)すらも、一瞬で『独身貴族の穏やかな日常』へと変換してしまうとは。これぞ究極の縁切り魔法ですな」
「……はぁ。恋心じゃなくて、ただの闘争本能だったと思うけどね。……さあ、気が変わらないうちに隠れよう」
僕は、すっかり毒気が抜けて「悟り」を開いた表情の王女様を後に、二人の過保護な護衛に左右を固められながら、逃げるようにその場を去るのだった。




