第25話:追跡者と、僕の休日(※巨大ロボで来られても困ります)
天空城から(這うようにして)地上へ降り立った僕たちを待っていたのは、地響きと共に現れた、高さ10メートルを超える「鋼鉄の塊」だった。
それは、王立魔導師団が国家予算を注ぎ込んで開発した魔導兵器『ジャッジメント・零式』。
「ハッハッハ! 見つけたぞカノン! 君を追放してからというもの、我が団の予算は削られ、私は妻に逃げられた! 全ては君のせいだ!」
操縦席から拡声器で叫ぶのは、かつての僕の上司、団長だ。
「……はぁ。逆恨みもいいところだよ。奥さんに逃げられたのは、団長が仕事中に隠れてお菓子食べてたからじゃないかな……」
僕は頭を抱えて深くため息をついた。
「黙れ! このロボットには、君の『ため息』を分析して再現した『超高圧・絶望キャノン』が搭載されているのだ! さあ、本物の絶望を味わ――」
「ちょっと、そのボロ鉄。うるさいわね」
アビィがカスタネットをカチッと鳴らそうとするが、パパがそれを手で制した。
「お嬢様、お待ちを。……主殿、あれは主殿への侮辱です。主殿の気高くも切ない『ため息』を、あのような歯車とネジの塊が再現できるなどと……万死に値しますな」
パパの眼鏡が冷たく光る。出力60%の彼は、立っているだけで周囲の空間を歪ませていた。
「カノン閣下……いえ、カノン様。本物の『ため息』が、単なる空気の振動ではないことを、あのアホンダラに教えて差し上げてください」
「……えぇ。僕がやるの? ……はぁ。まあ、あんなのが街の方に行っても困るしね」
僕はロボットの前に立ち、大きく息を吸い込んだ。
団長が「くらえ! 絶望キャノン!」と叫び、ロボットの胸部から黒いエネルギー波が放たれる。
「……ふぅぅぅぅぅぅ…………っ!!」
僕は、団長への同情と、ロボットの造形センスの悪さへの落胆を込めて、渾身のため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・本家本元』!!」
ドォォォォォン……ッ!!
ロボットの放った「絶望キャノン」は、僕のため息に触れた瞬間、あまりの「本物の絶望」の濃さに圧倒され、エネルギーそのものがシュン……と消滅してしまった。
さらに、僕のため息がロボット本体を包み込む。
「な、なんだ!? 動かない! 動力炉の魔力が……『やる気』を失っているだと!?」
鋼鉄の巨人は、ガタガタと震えながらその場に膝をついた。
物理的に壊れたのではない。機械そのものが「自分、ロボットやってる意味あるのかな……」という実存的危機に陥り、機能停止したのだ。
「……はぁ。機械にまで悩みを持たせちゃったよ」
「流石は主殿。無機物にすら人生の無常を悟らせるとは。これぞ究極のデバフですな」
「もういいから帰ろう。……あ、団長。そこ、駐停車禁止だから、あとで罰金取られると思うよ」
僕は、完全に「燃え尽き症候群」になったロボットと、操縦席で泣き崩れる団長を放置して、夕食の献立を考えながら歩き出すのだった。




