第27話:海底の神殿と、僕の生贄祭り(※カナヅチは関係ありません)
次の『清流のオーブ』が眠る海底神殿へ向かうため、僕たちは海岸沿いの小さな漁村に立ち寄った。しかし、神殿へ続く海路は猛烈な渦潮に閉ざされている。
「……はぁ。パパ、僕、金槌なんだ。渦潮なんて見ただけで溺れそうだよ……」
僕は波打ち際で頭を抱えて深くため息をついた。すると、村人たちが血相を変えて僕を囲んだ。
「お、おおお! 今、ため息をつかれたか!? 完璧な絶望の響きだ……! あなたこそ、100年に一度、海の魔物を鎮めるために選ばれる『嘆きの聖子』にふさわしい!」
「……えっ、いけにえ?」
「いいじゃない、カンちゃん! 生贄になれば、豪華な神輿に乗って海底まで運んでもらえるんでしょ? 泳がなくて済むわよ!」
「お嬢様、妙案ですな。主殿、村の伝説によれば、生贄が『最高のため息』を捧げることで海底への門が開くとのこと。……これぞ主殿の天職ですな」
「……はぁ。天職の使いどころを間違ってる気がするけど……」
数時間後。僕は花飾りを全身に付けられ、クリスタル製の巨大な棺に入れられた状態で、海へと投げ込まれた。
棺は魔法で守られてはいるが、周囲は狂ったような渦潮。そして、その中心には巨大なクラーケンが待ち構えていた。
「グルゥゥ……! 100年ぶりの生贄か。……どれ、我が空腹を癒すほどの『嘆き』を聞かせてみよ!」
巨大な触手が棺を締め上げ、ミシミシと音が鳴る。
僕は棺の中で、揺れの気持ち悪さと、村人たちの勝手な期待に対する怒りを込めて、本日最大級のため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・海神の沈黙』!!」
ゴボボボボォォォォ……ッ!!
僕の吐息が水中を突き進むと、激しい渦潮が嘘のように凪ぎ、泡となって消えていった。
クラーケンは、僕のため息に含まれる「もう、どうにでもしてくれ感」をダイレクトに浴び、全身の力が抜けてフニャフニャと海底に沈んでいった。
「……お、重い。自分の触手が重すぎる……。獲物を襲うなんて、なんて非生産的なんだ……。今日から私は、海藻を食べて静かに暮らすよ……」
「流石は主殿。海の暴君に『ベジタリアンへの転身』を決意させるとは。これでもう、この海域に波が立つことは二度とないでしょう」
「……はぁ。波がない海なんて、それはそれで不気味だよ……」
僕は、やる気を失って海底で丸まっているクラーケンの頭を神輿(棺)のまま通り過ぎ、静まり返った海底神殿の入り口へと滑り込んでいくのだった。




