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帝都怪異事件簿~双子の隊長と帝都の化け物達~  作者: 石動なつめ


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第三十五話 『大丈夫』


 その後、駆け付けてくれた四万十に高畠ソウジを引き渡し、白椿館の従業員達を病院へ搬送して、ようやく事態は収束を迎えた。

 もうすでに空が白み始めている。

 後始末を終えたホノカはヒノカと共に、白椿館の臙脂色の壁に背を預けて座って、ぼんやりと夜明けを眺めていた。


「終わりましたねぇ、ヒノカ」

「終わったねぇ、ホノカ。……本当にくだらない、ろくでもない理由だったよ」


 疲れを滲ませた声でヒノカは言う。

 父の仇である切り裂き男を捕まえる事が自分達の目的だった。

 ようやくそれが叶ったのだが、何故かホノカは胸がもやもやした。すっきりしないと言うか、今までに感じた事のない奇妙な感覚になっている。

 それはヒノカも同じのようで、二人揃って「何でだろうね?」と首を傾げる。

 すると、


「まー、人殺しですからね」


 とウツギの声が聞こえた。彼はホノカ達とは逆に穏やかな表情をしている。


「人殺しってのは、ろくでもないです。どんな理由があったって、人を殺して良い理由になりません」

「そうですねぇ。……その通りです」


 ウツギの言う通りだとホノカは頷く。

 ホノカ達も切り裂き男にまともな理由があるとは思っていなかった。その理由が想像以上にどうしようもないものだった事には少し驚いたが、その程度だ。


(なら、どうしてもやもやするんでしょう)


 そう思っていると、ウツギが小さく笑いながら指で頬をかいた。


「実はね、ホノカ隊長が銃口を向けた時、撃ってしまうんじゃないかって少し思ったんです」

「……え?」

「ヒノカ隊長もですね。お二人共、高畠ソウジに武器を向けた時、そう言う目をしていました」


 そう言われて双子は言葉を失った。

 確かに一瞬そう思ったのは事実だ。けれどまさか見抜かれていたとは思わなかった。

 ホノカとヒノカは思わず目を伏せた。心臓が嫌な音を立てて鳴り始める。


(彼らには殺すなと言っておいて、私は……)


 後悔でぐっと歯を噛みしめた時、


「だから俺、よく我慢したなって思ったんですよ」


 ウツギは明るい声でそう言った。双子は同時に顔を上げて「え?」と聞き返す。

 そんな自分達にウツギは優しい眼差しを向けていた。


「殺してやりたかったでしょう。俺だって思います。だから我慢してくれて、ありがとうございます」

「…………」


 それを聞いてホノカは、ああ、と心の中で呟く。そうか、とも思った。

 このもやもやの正体は、高畠の理由に憤りや呆れを感じて生まれたものじゃない。

 あの時、あの場で、高畠ソウジを撃たない選択をした事を、無意識に後悔していたのだ。


(……ああ、一緒なんだ)


 自分も高畠ソウジと同じで、自分の感情のままに相手を殺そうとしていた。

 それを理解したとたんにホノカの目から涙が零れた。ヒノカも同じように呆然とした顔で、ぽろぽろと涙を流している。

 それを見てウツギは目を丸くして焦り出した。


「だ、大丈夫ですか、お二人共!? どこか痛いところでもありますか?」

「い、いえ、あの」

「ちが……」


 そうじゃないと否定しようとしたが上手く言葉が出てこない。言葉の代わりに流れる涙に、会話どころではなくなってしまったのだ。

 それでも必死に嗚咽を堪えていると、ふと、頭に手が置かれる感触がした。見上げればウツギが困った顔で自分達の頭を撫でている。


「だ、大丈夫ですよ! ほら、えーと、ね! 大丈夫!」

『――大丈夫。ほら、大丈夫だよ、ホノカ、ヒノカ』


 ふと、ウツギに父の姿が重なった。

 ホノカ達が大好きな父親は、自分達が泣いているとこうして頭を撫でてくれたのだ。


「ミハヤ、とう、さん……」


 そう思ったら、ぽつりと名前を呼んでいた。

 ウツギは軽く目を開いたが、それについては何も言わず。


「大丈夫、大丈夫」


 優しい笑顔を浮かべて、双子が泣き止むまでそうやって、傍にいてくれたのだった。


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