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帝都怪異事件簿~双子の隊長と帝都の化け物達~  作者: 石動なつめ


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第三十四話 切り裂き男 下


「月花隊の位置情報と合致しますね。……怪異因子ですか」

「あれが……!? あのタイプは見た事がありませんよ!?」


 ホノカの言葉にヒビキが吃驚する。

 確かに珍しい形だ。ホノカも似たような姿の怪異因子は、地方勤務の際に一度か二度見たくらいである。


「あのタイプの怪異因子は自走が出来ない分、獲物(・・)を捕まえる方法が狡猾です。気を付けて」


 ウツギとヒビキにそう注意を促すと、高畠がくつくつと低く笑う。


「ええ、その通りですよ。樹木子ってご存じです? 人の血を吸う妖怪。これね、それを模した怪異因子なんです。良く出来ているでしょう? しかも桜の木なんですよねぇ。いやぁ、作るの大変でしたよ。でもねぇ、ホラ。あなた達みたいだなって思ったら頑張れました」


 そして聞かれてもいないのに高畠は饒舌を振るう。

 高畠の言葉が真実であれば、あの怪異因子に囚われているヒノカ達は血を吸われているという事になるだろうか。

 そう考えてひやりとしたが、それにしてはヒノカ達の顔色はまだそんなに悪くない。


「ああ、でもね、安心してください。贖罪の血を流させるのは私の役目なので。あれが吸っているのは霊力です」


 ホノカの疑念を高畠は先回りしてそう答えた。

 本当に、聞かれてもいないのに良く話す男だと思いながら、ホノカは蒸気装備の銃口を高畠へ向ける。


「あなたがあの怪異因子を作り操っていると」

「ええ、そうです。ヒノカ君達を解放して欲しいですか?」

「そうですね。ですが『欲しい』ではなく――今すぐに解放しなさい(・・・・・・)


 ホノカは鋭い口調でそう言った。すると高畠は至極嬉しそうに顔を歪める。


「アァ……いいですね、本当に、あなたは穢れていない。真っ直ぐだ。美しい!」

「隊長! 聞くに堪えません、直ぐに黙らせて怪異因子を討伐しましょう!」

「フフ。構いませんよ? まぁ……」


 高畠はそこで一度言葉を区切って、


「できるものなら」


 とせせら笑った。

 その瞬間、白椿館が大きく揺れ始める。


「地震!? こんな時に……!」


 ヒビキが目を剥くが、自然に発生したものだとすれば、高畠の言葉とあまりにタイミングが合い過ぎている。


(ただの地震じゃない……!)


 そう判断したホノカは周囲に視線を走らせる。


(どこかに原因が……あっ!)


 すると自分達が立つ床が、怪異因子と同じ色でうっすらと光っている事に気が付いた。

 床全体ではなく、床の色と似せて何か線のようなものがあちこちに張り巡らされている。


(樹木……細長い線……床……)


 頭の中に思い付く単語を並べていく内に、疑問の答えが浮かぶ。


(――根!)


 そう判断したホノカは蒸気装備のダイヤルを素早く回し<炎弾>に合わせた。そして銃口を床に向けて躊躇いなく撃つ。

 すると光の線はジュワッと音を立てて燃え、ヒノカ達を取り込む怪異因子が悲鳴を上げた。


「ウツギさん、ヒビキ君! 床に怪異因子の根が張り巡らされています! 対処を!」

「床っ!? あっ!」

「了解です!」


 ホノカの指示にウツギとヒビキも自身の蒸気装備に技能効果を付与する。

 ウツギの太刀が雷を、ヒビキの軍刀が氷を纏う。二人はそれぞれの武器を床に思い切り突き刺した。怪異因子の根を伝い雷と氷が部屋中に広がる。

 それを見て高畠が感心したように口笛を吹く。


「良い判断です。さすが、その年で銀壱星になっただけの事はある。優秀ですねぇ」

「それはどうも」

「ヒノカ君もそうでしたよ。白椿館の人達を守ろうとしなければ、あの怪異因子も簡単に倒せたかもしれませんねぇ。無駄な事をするものです」


 理解出来ないと言わんばかりに高畠は肩をすくめた。


「そうですね。ヒノカならそうするでしょう」


 淡々とそう返しながらホノカは床の根を排除して行く。

 植物を模した怪異因子にはホノカの炎が最も効果的だ。そしてその炎が建物に燃え広がらないよういん、ウツギとヒビキが雷と氷で的確に防いでくれていた。


「信頼されているんですねぇ。双子ってそういう感じなんでしょうか? 面白いですね。まぁ、彼以外はオマケのようなものですが」

「だいぶ勘違いをなさっているようですが、日向隊・月花隊(うちの隊)の隊員達は皆優秀ですよ」

「そうですか。ま、私はホノカさんとヒノカ君さえ来てくれれば、それで良かったんですけどね」


 ホノカの言葉に高畠はウツギ達へちらりと視線を向けたが。さして興味もなさそうにそう言った。実際にこの男が関心を持っているのは自分(ホノカ)達なのだろうという事は分かる。


「隊長達に何の用事があるんだ、お前は」

「六年前の続き」


 ウツギの問い掛けに高畠はそう答えると、懐かしい思い出話をする時のように目を細めた。


「汚いものに満ちたこの国に生きているのにも関わらず、彼女達は穢れていない。けれどこれから先、どうなるかは分からない。だから穢れたりしないように、私がしっかりと導いてあげたいだけです。綺麗に手入れをして、ガラスケースに飾ってあげたい。私の招待状(・・・)に気が付いて頂けた時は実に心が躍りました……!」


 うっそりと笑う高畠の言葉を最後まで聞く前に、ホノカは彼に向けて<炎弾>を撃った。

 炎の弾丸が高畠の頬を掠め、その奥にいる怪異因子の本体に当たり、パチパチと燃え始めた。


「……そんな事のために間内キヨコさんの命を奪ったのですか」

「ああ、キヨコさんね。だって彼女は私を裏切ったのですよ? こんな場所で働いているのにも関わらず、彼女は聡明で穢れていなかった。だから大事にしてあげようと思ったのに、私を拒絶して、飼い猫の足元にも及ばないなんて言うんですよ。酷いと思いませんか?」

「そうですか」


 怒りを滲ませ同意を求める高畠に、ホノカは素っ気なく返事をする。ここまで冷たい声が出るのかと自分自身でも驚くくらいだ。

 その声のままホノカは高畠を挑発する。


「ですが私も分かりますよ。あなたなんかよりも、猫の方がずっとかあいらしくて愛しいですから」

「……何ですって?」

「だってそうでしょう? あなたはただただ気持ちが悪いクソ野郎ですよ。最低」

「…………」


 ここ最近で聞いた罵詈雑言の数々を記憶からかき集め、高畠にぶつける。

 そうしている間にヒノカ達が囚われている怪異因子が徐々に燃えて行く。


(あと少し)


 その様子を見ながら、ホノカはありったけの言葉で高畠を罵った。高畠の顔からは先ほどまでの笑顔が消えている。

 突然そんな事を言い始めたものだから、ウツギとヒビキも怪訝そうな顔になった。だが背後で燃える怪異因子を見て、直ぐにホノカの行動の意図が時間稼ぎだと気付き、彼らもその作戦に乗った。


「あー、そうですよねぇ。どれだけ拗らせているんだって話ですよ、本当に。自惚れるのも大概にしたら?」

「頭の中が昔っから破廉恥なんですね、あなたって!」

「……お前達」


 すると高畠の言葉遣いがここに来て初めてぶれた(・・・)

 余裕ぶっていた表情に、事態を楽しんでいた目に、どす黒い怒りの炎が浮かぶ。


「よくも私の事をッ、汚い言葉で馬鹿に――――!」


 そしてその怒りは爆発した。目を吊り上げ、顔を歪め、高畑がそう怒鳴ったその時。


「相違ないだろうさ、このクソ野郎が!」


 怪異因子の拘束から抜け出したヒノカが、高畠に向かって太刀を振り下ろした。炎に照らされて光りを帯びた刃が高畠の背を広く抉る。


「……ッ!」


 高畠は驚愕の表情を浮かべながら床に倒れ込んだ。


「ホノカ、ナイス時間稼ぎ! なかなか良い言葉選びだったよ!」

「ここ最近、色々と耳にする機会がありましたので。三人共、大丈夫ですか?」

「ふらふらするけどねぇ」


 へらりと笑って答えるヒノカの背後には、顔色の悪いユリカと、彼女を支えて立つアカシの姿があった。

 霊力を吸われているため、その顔には疲労の色が濃いが、目立って大きな怪我は負っていなさそうだ。


「良かった……」


 ホノカはほっと息を吐いてから高畠を見下ろした。まだ諦めていないようで、腕を動かして立ち上がろうとしている。

 その頭にホノカは牽制のため蒸気装備(長銃)の銃口を当てた。


「…………」


 このまま引き金を引けば<炎弾>が飛び出してこいつは焼け死ぬ。

 一瞬、頭の中にそんな考えが浮かんだ。浮かんでしまった。

 高畠はうつ伏せのまま、目だけでホノカを見上げた。


「なるほど……挑発でしたか。ええ、分かっていましたよ。……あなたは穢れていないって」

「ずいぶん良く(・・)見えているようですが、私も汚い言葉は使いますよ。そして本心です。――あなたは最低です」

「フフ……ハハハ……」


 高畠はくつくつ笑った後、


「ァア、悪く、ない……」


 そう言って意識を失った。


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