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帝都怪異事件簿~双子の隊長と帝都の化け物達~  作者: 石動なつめ


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第三十話 異常事態 上


 桜花寮の窓から見える帝都の空が夜の色に染まり始めた頃。

 ホノカが時計を見上げると、針が間もなく午後五時を指すところだった。


(そろそろ定時連絡の時間か)


 そう思いながらホノカは左耳につけたままの通信機に触れた。

 ホノカとヒノカは毎日、昼の十二時と午後五時にお互いに連絡を取り合っている。

 これは帝国守護隊に入隊を決めた時からずっと続けている事だった。離れている時も、傍にいる時も、必ずお互いに状況を報告し合う。


(ヒノカが言い出した事だったんですよね)


 自分達が切り裂き男に攫われたせいで父の命が奪われた。二度とあんな事が起きないように、どんなに些細な事でもお互いに話をするのが二人の習慣だった。

 ホノカの双子の弟は、自分以上にあの時の事を悔やんでいる様子だった。自分に力があったらきっと父もホノカも守れたと、傷を負って霊力をほぼ失ったホノカに、ヒノカは泣きながらそう謝ってくれたのだ。

 あの日からヒノカは少々過保護なくらいホノカの事を気に掛けてくれている。


(……ヒノカのせいじゃない)


 あの時、ミハヤがまだ生きている時にホノカは目を覚ました。なのに怯えて叫ぶだけ何も出来なかったのはホノカだって同じなのだ。

 当時の事を今も夢に見て魘されたり、高畠ソウジの手が顔に近付いた瞬間に動揺するくらいに自分は精神的に弱い。


「……偉そうなことを言ったって、まだまだ全然出来ていない」


 六年前からずっと、戦いの腕は磨けても、中身が追い付いていない。 

 もっと強くならなければと思いながら、ホノカは通信機を操作した。この時間ならヒノカも桜花寮への帰路についているだろう。

 そう思って呼び出しを掛けるが応答がない。


「…………?」


 違和感を感じながらしばらくそのまま待つが、呼び出し音が聞こえるだけでホノカの双子の弟の朗らかな声は返ってこない。もしも誰かと話し中だった場合は、一度繋げて直ぐに切る、くらいの事はしてくれる。それが何もない。


(ヒノカの身に何か……)


 そう理解したとたんホノカはぞっとした。

 サッと顔色を変えて、今度はヒノカと行動を共にしているはずのアカシとユリカに順番に通信を飛ばす。だがそちらも同じだ。呼び出し音が聞こえるだけで応答はない。


(――――やられた。やられた、やられた!)


 頭の中に警鐘が鳴り響く。

 ホノカは隊長室を飛び出すと、走りながら通信機でウツギを呼んだ。


『はい、ウツギです。どうしました、隊長』

「ウツギさん、至急、白椿館に連絡を取って、ヒノカ達がまだそちらにいるか聞いてください。すでに発っているなら何時頃に店を出たのかも」

『隊長達が? 何かあったんですか?』

「ヒノカ、アカシさん、ユリカさん。三人に通信を飛ばしましたが、応答がありません」

『!』


 通信機の向こうから、息を呑む声が聞こえた。


『承知しました、直ぐに!』


 そう言って通信が切れる。ホノカは次に高畠邸を監視しているスギノに連絡を取った。


「スギノさん、高畠氏の動きはどうですか?」

『今日はまだ屋敷の外へ出ていないな。何かあったのか?』


 そう問うスギノのウツギと同じ言葉を告げると、彼からも驚いた様子の反応が返って来た。


「まだ確証はありませんが。また連絡を入れますので、そのまま監視をお願いします」

『了解した』


 真剣さを帯びた声と共に通信が切れる。ホノカは軽く頷くと、自室へと向かった。

 そして蒸気装備の長銃を手に取って、


「…………」


 少し考えてから机の引き出しにしまった一丁の自動拳銃を取り出す。ホノカは自動拳銃の弾倉を確かめてから、上着を脱ぎ、ホルスターを装着して自動拳銃を仕舞った。

 これは蒸気装備ではない普通の銃なので怪異因子に対してはほとんど効果はないが、生身の人間であれば話は別だ。頭に一発でも弾を撃ち込めば相手の命を奪える。

 切り裂き男は人間だ。もしもの時は殺してでも止める。


(……大丈夫。何度も練習して来たじゃない)


 ホノカは自分自身にそう言い聞かせながら上着を羽織った。そうしていると足元から「みゃう」と猫の鳴き声が聞こえる。黒鋼丸だ。黒猫はくりくりとした目で、どこか心配そうにホノカを見上げている。

 ホノカはしゃがんで黒鋼丸を撫でた。


「大丈夫ですよ、黒鋼丸。あなたの仇も一緒に取ってきますから」


 そう言ってホノカが立ち上がると、何故か先に黒鋼丸が歩き出した。

 黒鋼丸はドアの前に座ると「にゃーう」とホノカに向かって鳴く。そしてドアを爪でカリカリと引っ掻き始めた。 


「…………?」


 何だろうかと思いながらドアを開けると、黒鋼丸は外へ出る。そしてもう一度「にゃーん」と鳴くと、まるでついて来いとでも言うようにトトト、と軽やかな足取りで歩き出した。

 ホノカが見ていると、途中で振り返り「みゃう」と自分を呼んでいる。やはりついて来いと言っているようだ。

 寄り道をしている時間はないが、黒鋼丸は何かを自分に伝えようとしているのだろう。ホノカは焦る気持ちを押せながら黒鋼丸について行く。

 そうして桜花寮の玄関まで辿り着いた時、


「おう、ホノカ」


 そこにはミロクとシノブの姿があった。


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