第二十三話 白椿館で得た情報 上
ホノカ達が桜花寮に戻ったのは午後の二時を回った頃だった。
近場の大衆食堂で軽く食事を済ませて帰ると、
「もー、アカシさん!? いつもいつも何なんですの、あなたは! 邪魔ばっかりして!」
「別に邪魔なんてしてねーだろうが! つーか、お前達こそこっちの邪魔すんな!」
なんて、なかなかの剣幕でユリカとアカシが口喧嘩をしていた。この数日間でよく見る光景である。これだけ遠慮なく言い合いが出来るなら、本当は相性が良いのではないだろうかとホノカは思った。
さて、そんな二人だが、今日はウツギとトウノ、それからイチコとスギノの四人が宥めている。
「今日も元気だよねぇ」
「元気ですねぇ。とりあえず止めないと」
「そうだね」
双子はそんな話をしながら彼らに近付き声を掛ける。
「何の騒ぎだい?」
「あっ隊長!」
するとトウノとウツギがこちらを振り向いて、顔をパッと明るくした。
僅かに遅れてアカシとユリカもこちらを向く。それから二人は同じ速度で双子に駆け寄って来た。
「聞いてくださいな! この男、わたくし達が調査をしているところに、勝手に割り込んできたんですのよ!」
「割り込んでねぇよ。まどろっこしい聞き方をして、話が全然進まねぇから俺が代わりに聞いてやったんじゃねーか!」
「まどろっこしい!? あれは駆け引きと言うんですのよ! 常々思っていましたが、アカシさんはやり方が強引すぎるんです!」
「はーん!? ちょっとくらい強めに行かねぇから、のらりくらりと躱されて終わりだろうが!」
二人はまるで猛犬のように睨み合っている。
それにしても感情に任せて怒鳴っているため、喧嘩の原因がいまいち分からない。双子がどうしたものかと困っていると、イチコが軽く手を挙げた。
イチコこと五十嵐イチコ。月花隊に所属する隊員で、歳はその中でも一番上の二十七歳。月花隊のお姉さんというような立ち位置だ。柔らかな笑顔と、どこか包容力を感じる振る舞いに、シノブに似ているなとホノカは思っている。
そんなイチコは困り顔で、事情を教えてくれた。
「私達は白椿館で、間内キヨコさんのお客さんについて聞き込みをしていたの。でも、守秘義務があるといって、なかなか教えてもらえなくて」
「まぁ、商売柄、顧客の情報を守るのは当然だし、仕方がない事だろう。だからユリカが金を積んで聞き出そうとしたんだが……」
イチコの言葉をスギノが細くするように引き継ぐ。
「だが?」
「それを見て、アカシが脅し混じりで聞き出そうとしたんだ」
「あらまぁ」
双子は目を丸くした。
ユリカのやり方もよくないが、アカシのやり方も少々問題がある。
ホノカ達だって時と場合によっては似た手段を取る事があるが、事件に関係のない一般人を脅すのは褒められた事ではない。
これは後で帝国守護隊にクレームが入りそうだなとホノカは思いながら、
「アカシさんとスギノさんはどうして白椿館に?」
スギノにそう尋ねた。そもそも白椿館の捜査は月花隊の担当のはずだ。協力している風でもないし、何故彼らがそこに参加しているのか気になったのである。
「捜査線上に高畠の名前が出ただろう? なので奴の友人だと言う男を探して話を聞いたら、白椿館の名前を聞いてな。それで確認のために向かったんだが……」
「なるほど、そうでしたか」
スギノの言葉にホノカは軽く頷いた。
確か高畠は、友人の付き添いで白椿館を訪れたと言っていた。スギノ達が会ったのは、その友人だったのかもしれない。後で詳しく聞いておこうと思いながら、ホノカは「それでどうしました?」と続きを促す。
「方向性の違いで口喧嘩になって、お店にも迷惑が掛かっていたのでスギノ君に二人を外へ連れ出してもらったわ。その隙に私が話を聞いたの」
イチコは頬に手を当てて、小さく息を吐いてそう言った。イチコもスギノも疲れた顔をしている。
「そうでしたか。ありがとうございます、イチコさん、スギノさん」
「止めてくれて助かったよ。ありがとね」
双子がお礼を言うと、イチコとスギノは少し驚いた様子で目を丸くしていた。
さて、そんな話をしている間、件の二人はどうなっているかと言うと――まぁ元気に口喧嘩を続行している。
見かねてヒノカが少し強い口調で二人を止めに掛った。
「はいはい、ストップストップ! この件での喧嘩は不毛なのでやめましょう」
「ですが!」
「ですがも何もありません。お店側に不審な点があって止むを得ない状況であれば考慮するけれど、話を聞く限り、やり方にだいぶ問題がある。明日、白椿館へ謝罪に行くから、二人は僕と一緒に来るように。いいね?」
「だけどよぉ……」
「だけどもありません。そもそも営業妨害は駄目ですよ」
双子にきっぱりとそう言われ、二人はがくりと肩を落とした。
しょんぼりと元気を失くしたアカシとユリカを見て、双子は苦笑する。
「……けれど、何とか捜査を進めようとしてくれた気持ちは嬉しいですよ。ありがとうございます」
「うん、そこはね。もしも切り裂き男が犯人だとしたら、被害者が増える恐れがあるから早めに解決したいしね。次からは気をつけてね」
やり方こそ問題はあったが、仕事を頑張ろうと言う意思は感じられた。
なのでそこを双子が褒めると、アカシとユリカは面食らった顔になって、ややあって少し照れた様子で指で頬をかいたのだった。




