第十二話 事件の痕跡 上
地獄のような空気の歓迎会を終えた後、ホノカ達はミロクと共に桜花寮の応接室へと向かった。
隊の事や間内キヨコの事件、怪異因子などについて報告が聞きたいとの事だ。
隊長に就任した日にしては、色々と起こり過ぎだったなぁと思いながら、ホノカは自室へ立ち寄って黒猫を連れて来た。重要参考猫的な扱いをせよ、との事なので、一応は連れて行った方が良いだろうと思ったのだ。
そうしてやって来た応接室で、四人は向かい合って皮張りのソファに座る。
「しっかし、初日から飛ばしたなぁお前ら」
一番最初に口を開いたミロクは、にやっと笑ってそう言った。双子は揃って「うっ」と軽く仰け反る。
「……少々反省中です」
「ちょっと感情的になっちゃってた」
元々、ああいった事を彼らに伝える算段ではあったのだ。けれども、もっと言葉を選ぶ予定だったし、あそこまで突き放すつもりもなかった。
だけれど彼らの言い分を聞いて、どうしても我慢ならなかったのだ。
ミロクとシノブはそんな二人に優しい眼差しを向ける。
「まだまだ子供だからな、お前らも。人付き合いってのは積み重ねと経験だ、そうそう完璧にゃあ出来ねぇさ。気にすんな気にすんな」
「そうですよ。大人になっても、どうしようもない人はいるんですから」
「もしかして俺の話か?」
「ご自覚があるようで何よりです」
シノブはため息を吐いた。恐らく双子の配属をこっそり逆にした事を言っているのだろう。
「ほれ見ろ、怒られちまった」
「ふふふ」
冗談めかして肩をすくめて見せたミロクに、双子は小さく笑う。それを見てミロクは軽く頷いた後、
「……で、だ。お前らから見た隊の印象はどうだ?」
と聞いてきた。
ホノカとヒノカは少し考えてから、
「怪異因子討伐の隊と考えると、能力は十分にあると思います。ただ他所から来た人間に対して警戒心が強いですね」
「隊同士の仲も悪いから連携が難しいのは課題だけど、そこさえなければ、仕事の面でお互いの相性はさほど悪くないと思うよ」
と答えた。客観的な印象を述べた二人の言葉を、シノブは手帳にメモする。
それから、ヒノカは思い出したように「そうそう」と続けた。
「月花隊の方は、自分達の役割分担については納得しているけれど、それが周囲に実力差によるものだからと思われている事を不満に思っているようだね」
「と言うと?」
「さっきの怪異因子討伐の任務中に、基本的に自分達は裏方だから実力を見せる場がない、と考えている節があったよ」
「月花隊はそんな感じでしたか。裏方がしっかりしている事こそが、何よりも重要なんですけどね。支えがなければ帝国守護隊だってボロボロですよ」
「本当、そうなんだよねぇ。ホノカの方は?」
「日向隊は隊員各自の能力は高いと思いますが、個人プレーが目立ちますね。連携の穴を突かれたら総崩れになるかと」
日向隊は個々の戦闘能力は高いので、低級から中級くらいの怪異因子であれば、よほど数が多くなければ一人でも対応可能だろう。ヒビキと、恐らくウツギがフォローする形で、今まで連携が何とかなっていたのだろうが、大量の怪異因子や上級の怪異因子を相手にする事になった場合、連携の薄さが致命的になるだろう。
逆に月花隊は情報収集能力やサポート能力が高く、連携も十分に取れているとヒノカは言う。しかし戦闘能力は平均的で、実践となれば各個撃破が厳しい。低級の怪異因子であれば問題なく倒せるが、こちらも大量の怪異因子や中級以上の怪異因子を相手にした場合、だいぶ苦戦する事になりそうだ。
「……という感じですかねぇ」
「お二人はこの短時間でよく見ていますね」
ホノカ達が話し終えると、シノブが感心したようにそう言った。ミロクも満足そうに口の端を上げる。
「なるほど、なるほど。お前らの前の隊長達には一人で両隊を任せていたんだが、どうも指揮のバランスが上手く取れなくてな。思い切って二人にして良かったよ」
「全員合わせても八人だもんね。隊長が一人でも問題なさそうな数だったし」
「だからって、こっそり書類を逆にするのはどうかと思いますよ、ミロクさん」
「ハハハ。適材適所って奴だ。日向隊はヒノカの、月花隊はホノカの適正に良く似ているからな。逆の方が、それぞれの足りない部分を埋めやすい」
「それは確かに……」
今回、初めて日向隊と一緒の実践を経験して、ホノカもそう感じた。
地方で怪異因子討伐に当たっていた時、ホノカはサポート寄りで、ヒノカは攻撃寄りで役割文体をしていた。言うなればホノカは月花隊、ヒノカは日向隊の役割を担っていたのだ。
だから同じ役割を担っている隊であれば、自分だけの仕事はスムーズに行う事が出来るだろう。
だけれど、それが隊長となると話が変わって来る。
隊長としての役割の比重は自分の仕事をこなすより、隊員の能力をどう活かすかが優先される。
日向隊の欠点は連携不足。月花隊の欠点は攻撃力不足。そこを補おうと考えると、ホノカが日向隊、ヒノカが月花隊の方がちょうど良いのだ。だからミロクは二人はそう配属させた。
配属先を逆にした事を直前まで黙っていたのは、単純に性別的な話だろう。何せ日向隊は男性、月花隊は女性ばかりの隊だ。事前に正しい配属先を伝えておけば、双子はともかくとして両隊から余計な不満が蓄積していたかもしれない。
それらを考慮してミロクは敢えてこうした。
双子の保護者で上司の、飄々としたこの男は、やはり一枚も二枚も上手である。
「話を進めるぞ。次は間内キヨコと怪異因子の件だな」
「はい。間内キヨコさんの殺害現場にはこの黒猫がいましたね。重要参考猫」
「そ、重要参考猫。……ずいぶん懐いてんな?」
「元々人懐っこいんじゃないかな。でも僕には全然懐いてくれないけれど……。」
「お前、何で猫に好かれんのだろうなぁ」
「僕もそれ知りたーい」
ヒノカはため息を吐いてそう言うと、机の上に持っていた箱を置いた。
「それはともかくとして。これも重要参考資料だよ。帝都駅の怪異因子の残した媒介だ」
そしてフタを開けて見せる。箱の中にはナイフが数本収められていた。
「こいつは……」
ミロクはその中に一本――蜘蛛の意匠がついた大振りのナイフを見て目を細くした。




