第十話 歓迎会 上
怪異因子討伐の事後処理を終え桜花寮に戻って来た頃には、帝都の空が赤く染まりかけていた。
まだ勤務時間だし、報告書でも作ろうかと双子が考えていると、ウツギに声を掛けられた。
「ホノカ隊長、ヒノカ隊長。少しお時間よろしいですか?」
「構いませんよ。どうしました?」
「ちょっとこちらへ」
そう言ってウツギは歩き出す。何だろうかと思ってついて行くと、到着したのは食堂だ。中へ入ると、
「えー、それでは歓迎会を始めたいと思いまーす!」
ウツギとトウノが明るい声でそう言った。
どうやら彼らはホノカ達の歓迎会を企画してくれていたようだ。
これにはホノカ達も驚いた。今回の事だけではなく、ホノカ達はどこへ異動してもあまり歓迎されない方だからだ。
同じ階級の同僚――特に年上からの受けが悪く、異動になった時もぞんざいな態度を取られる事はあっても、歓迎会を開いてもらった事はない。
なので少し感動していたのだが、それはそれとして会場の雰囲気は『歓迎会』という雰囲気ではなかった。
何というかギスギスしている。理由は日向隊のアカシと月花隊のユリカだ。歓迎会を開始して直ぐに、二人が喧嘩を始めたのである。
「あなた、瓦礫の撤去作業をもっと丁寧に出来ませんの? あれでは他を傷つけてしまいますわよ!」
「どうせ修繕するんだから別にいいだろうが。それよりも早く撤去した方が良いだろーが!」
喧嘩の内容は怪異因子討伐の事後処理についてだ。言い分としてはどちらも正しいので、喧嘩をするのではなく冷静に話し合って欲しいものである。
一応、双子が仲裁に入ったので落ち着いたが、とてもではないが歓迎会の雰囲気ではない。
ウツギとトウノが頑張って盛り上げてくれようとしているものの、その姿を見てホノカ達は逆に申し訳なくなってきた。
「あの、開いて頂いた側が言うのはアレなんですが、無理せずとも……」
「いえ。こういうのは大事なことですから。せっかくお二人が来て下さったんですもの!」
ホノカがおずおずとそう言えば、トウノが両手にぐっと拳を作ってそう言った。言葉の節々から「今度こそは」という気持ちが感じられる。やって来た新しい隊長に辞めて欲しくないのだろう。
「本当は桜花寮をご案内した後に行う予定だったんですよ」
「それが怪異因子でしたから……。日程をずらす事も考えたんですが、料理の事もあって」
ウツギとトウノは申し訳なさそうにそう言った。
歓迎したいし料理も無駄にはしたくない。そんな二人の考え方や気持ちが嬉しくて双子は、ふふ、と小さく笑う。
「ありがとう。……本当の事を言うとさ、ちょっと嬉しいんだ」
「私達はいつもあまり歓迎されない方ですから。こういうのは初めてです」
「そうなんですか?」
「ええ。何度か異動した事はありましたけどね。確か……配属初日の大乱闘、とかありましたねぇ」
「あー、あれねぇ。巻き込まれ半分だったけど、さすがに大変だったなぁ。手は出してないけどねぇ」
「いやあの、何をどうしたら初日で大乱闘になるんです……?」
トウノが口に手を当てて目を瞬いた。
内容としては異動初日に、双子を煙たがる年長者と、双子を庇う若手との間で喧嘩が大きく鳴り、全体を巻き込んでの大乱闘になったというものである。
詳しく話せば他の隊の隊員達に話が飛び火するので、双子は「まぁ、色々と」と言って誤魔化した。
「…………」
「…………」
そんな話をしていると、不意に、ウツギとトウノが目くばせしたのが見えた。
先ほどの柔和な表情と変わって真剣なものになっている。
「――隊長。聞きたかった事を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「お二人は御桜ミハヤ隊長と、何かご関係があるのでしょうか?」
トウノとウツギの言葉に隊員達の視線が集まるのを感じる。
なるほどこのタイミングで来ましたか、とホノカは少しだけ目を細めた。




