三十四話
「うっひょ! これ18禁だろ」
そう言って浩次は顔を真っ赤にしていた。
何故か鎧の富岡さんの甲冑まで赤くなって「ほほほ、これは参りましたなぁ」って……お前鎧だろうが。なんで赤くなってんだよ!?
「ああー! これだよこれ! 僕が探していたのは!」
「うお、ちょっとまってーー」
「危ない! 浩次さん!」
変態に飛びかかられた浩次を、富岡さんが守ろうとした。
「それだけは止めてくれーっ!」
僕は変態が鎧に抱きつくというシュールな場面を想像して思わず目を伏せた。しかし結果的に、その様な最悪の事態は未然に防がれた。変態の動きを予測していたティリアが、咄嗟に足を差し出したのだ。
「ぶっふー!?」
哀れ変態は、ティリアの細くて長い足に引っ掛かって傍にあった灰の山へとダイブした。
「グッジョブです、ティリアさん!」
「見事な足技です、呪います」
思わず胸を撫で下ろす、僕達。その間に無情の女ティリアは、頭を灰に突っ込んだままジタバタしていた変態の首をつかんで持ち上げた。
「さーて。 あんたの望み通り、時間までに本は見付けたわよ」
「うん、ありがと! だから早く読ませ──」
「約束は、覚えてますよね?」
汗をたらたら流す変態に、笑顔の雪菜さんが迫った。僕はこの時は初めて、この世で一番恐ろしい表情は笑顔であることを知った。純度百パーセントの怒りが産み出す、般若の様な笑顔だ。
「も、勿論、覚えてるとも……」
「あ、あのさ。 流石に可哀想かなーと」
「はあ!?」
「京くんは黙っていて下さい!」
「……すみません」
二人に同時に怒られ、僕はすごすごと引き下がった。
「青春ですねえ」
腕を組んで鼻を伸ばす、鎧こと富岡さん。……うん? 鎧なのにどうやって鼻を伸ばしてるんだ?
それはともかくとして、富岡さんは良い助け船を出してくれた。
「察するところ、この火事は何らかのゲーム、恐らくは浩次さんが持っている素晴らしいーーいえ、全くもってけしからん本を探すために起こされた物なんでしょう」
「ええ、そうよ」
浩次がちらちら本を読みながら、富岡さんスゲーと言っているのが気になったがそれはさておき。
「はぁ!? 危なすぎるだろ!?」
僕はあくまで、当然のことを述べたまでだった。それなのに。
「京はもう喋らないで!」
「京くんには関係ありません!」
二人は理不尽にも、僕にそう言うのだった。
「危ないかどうかは、ゲームの目的によりますね、呪います。 ティリアさん、雪菜さん、このわからずやに目的を教えてあげてはいかがですか?」
「……そこの変態がゲームに勝てば私達が欲しかった情報をくれるって言ったのよ」
「だから変態じゃないってばぁ。アノー、だよぉ」
「上半身裸のボンバーヘッドの男が何を言っても説得力はないわね」
「え? コイツ露出狂か何かじゃないの?」
「いや、違う。きっとコイツは『アーッ!!』な奴だ……そうに違いねぇぜ」
変態に襲われかけた事にショックを受けてるらしい浩次が自身を抱いて体を震わせている。
流石の浩次も男に襲われるというのはトラウマモノなのだろう。
露出癖に加えて『アーッ!!』な趣味まで持ってるなんて……かなりの危険人物だ。
放置しておく事は出来ない。
「ちょ、ちょっと待って君達? 絶対何か誤解してるよねぇ!? 自分はアノーって名前のティリアと同じ指輪の精霊で」
「変態なんですねそうですかよく分かりました。ええ、呪います」
「勝手に自己完結しないでよぉっ!?」
神子川は養豚場で戯れる豚達を見るかのような蔑んだ目でアノーを見下ろしていた。
かく言う僕達も同じような目で変態を見ているんだけど。
「それで、欲しかった情報とは何なんですか?」
不意に富岡さんが訊ねた。
全員がティリアの方を向く。
何故か当のティリアはあらぬ方向に顔を背けたけど。
「おいティリア、その情報って何なんだよ?」
「……」
ティリアは何も言わない。
僕から顔を背け、唇を固く結んでいる。
心なしか頬が赤く染まって見えるが一体どうしたっていうんだろうか?
と、その時。
くすくすと小さな笑い声が聞こえた。
雪菜さんだった。
「ティリアさん、もう正直に言っちゃったらどうですか? どの道わたしが言っちゃいますよ?」
「……ううっ、ああ、もうっ! 分かったわよ!」
「京!」とティリアがいきなり僕の名前を呼んだかと思えば変態を指差して言った。
「この変態はね、あんたをどうにかする方法を知ってるのよ! それでその方法ってのを知るために私達がゲームをしたのよっ! 分かった!?」
そのティリアの台詞に雪菜さん以外の全員がきょとんとした。
そしてから、皆で笑った。
「あ、あはははっ!」
「な、何がおかしいのよ! あんたのためにやったのよ!?」
「いや、ティリアにも可愛いところがあるんだなって思ってさ」
「んなっ……!?」
「ツンデレ、という奴ですね。呪います」
「いやぁ、青春ですねぇ」
「ツンデレは萌えるよねぇ」
まるで、仲間であるかのように話にノってきた変た……アノーを全員が白い目で見る。
発言も発言なために、ティリアは無表情だし、浩次は未だに震えている。
「……女だからって、油断しちゃいけないみたいですよ、ティリアさん」
「そうですね、雪葉さん」
戦闘態勢を取り始めるティリアと雪葉さん。
「いや、そういう意味では言ってないよ!?」
「……女子のツンデレではないということか」
「やはり、そうか」
「なんで、そうなるかなぁっ!?」
ますますガクブルな浩次。それをなだめる富岡さん。……変な絵なんだけど、うん。触れないほうがいいのかもしれない。
はあ、とため息をついたアノーは先ほどまでの焦った様子が嘘のように、何を考えているのか分からない、ただ笑みを浮かべた顔をした。
「まあ、ゲームは君達の勝ちなワケだし、その憐れな男子の救い方を教えてあげるよ」
露出狂で『アーッ!!』な趣味を持つ変態に、憐れな男子、と言われて身震いしたが、今はそんなこと、どうでもいい。
これから、この変態が言うであろう言葉は、僕の唯一の救いになるかもしれないのだから。
ゴクリ、と唾を飲む。
全員がアノーの言葉を待つ。




