三十三話
「大丈夫よ雪菜。あんな変態、雪菜が殺らなくてもアタシが殺ったわ。だから気にしなくてもいいのよ」
「いや駄目だろ!?」
雪菜さんのためを思ってのフォローなのは分かってるんだけど、最悪過ぎるぞそれ!?
わんわんと泣く雪葉さんももちろん助けてあげたいが、それよりも何よりもこの火を消すことが先決だ!
雪葉さんの言葉からすると、きっとこの大火事には意味があるんだろうけど、このままじゃ、館ごと全て燃えて、僕も火祭りになってしまう。
「神子川、雪葉さんを見といてくれないか? 他三人で火は消すから」
「火を消させてくれないんですか!? 呪います」
いや、火を消したかったのか!? お前って、そんな行動するキャラだったっけか!?
「いや、ティリアは先陣切るって言ってるし、異性が泣く女の子の面倒を見るのは、どうかと思って」
「なるほど。言われてみればそうですね。分かりました。ティリアによると、後で呪わせてくれるようですし、よしとしましょう」
今後が心配だが、引き受けてもらえたようでよかった。
僕は未だに地に沈んだままの浩次を引っ張りだした。
「浩次、火を消すのを手伝ってくれ」
「もちのろんだ」
イラッときたので、殴ってやりたかったが、今は抑える。
「浩次、別の部屋から何か火を消すものがないか探してきてくれないか?」
「OK」
浩次にしては珍しく、ネタのない受け答えだ。右手はグーサインをしており、満面の笑みだったが。
浩次は体力テストの時より速いんじゃないか? という速度で、走っていった。
「京、まだ用意できてないの?」
ティリアに少し怒り気味で言われる。いやいやいや、この短時間で水の通ったホースを見つけられたことの方が珍しいから!
すると、浩次が水の入ったバケツを四つ持って、帰ってきた。
「バケツ見つけて、その近くに水道あったから、そこで水汲んできた!」
「おおおー! バケツはどこらへんで見つけたんだ?」
「ここから二百メートルくらい先のところ」
お前、どんだけ走ったんだよ。
「それって、水汲みに行くの、すごくしんどいんじゃないのか?」
「……なんとかなるだろ」
間が気になるぞ、間が。
「交代で汲んできたら、いいでしょ! さあ、消火するわよ!」
ティリアがホースの栓を抜いた。ビシャアー、っと大量の水がホースから溢れ出てくる。
「おりゃあぁぁぁぁぁあー!」
ティリアはまるで、戦闘ゲームか、というような声を上げながら、火をどんどん消していく。僕と浩次は交代でバケツの水をかける係と水汲み係に分かれて、火を消していった。
火消しのめ組も度肝を抜くほどのスピードで僕らは燃え盛る炎をなんとか沈めた。
勿論だが、あれだけ火が出ればほとんどが真っ黒焦げなわけで、辺りは煤臭さと水と混ざってドロドロになった灰が溢れている。
僕は肩で息をしながら、同じくゼイゼイ言ってるティリアを見た。
「おい、一体何がどうなってんだよ?」
「本を探してたのよ……」
「待て待て。本を探して何で火事になってるんだよ!?」
絶対に僕の思った疑問は正確に的を射たはずなのに、「そんなのもわからないのコイツ?」的な目を向けて来たティリアに、僕は両手を突き出してWHY!? と外人サッカー選手並のジェスチャーで言ってやりたかったがここは冷静に。
つまり、ティリアと雪菜さんがここで本を探していた=火事になったと考えると、この放火は目的があるものだったという事になる。
しかし何で放火なんて……。暴君ティリアは別として雪菜さんが暴挙を働くはずがない。暴君ティリアは別として……。
「あんた今失礼な事考えてなかった?」
「気のせいだろ」
「ちなみにコレ、本当に雪菜がやったのよ」
ああ、ティリアも堕ちる所まで堕ちたか。雪菜さんのせいにするなんて。
「そ、そうなんです。私が……」
「いいんだよ、雪菜さん。ティリアに泥を被ってくれと言われたんだろ?」
「ちょっと京。あんたマジでぶっ飛ばすわよ?」
と、僕らが会話していると、未だにモクモクと煙の上がる奥の方から妙な男の笑い声が聞こえてきた。
「フフフ、まさか本当にやっちゃうとはね。本当にびっくりしたよ。びっくりし過ぎて君と結婚したくなっちゃったよ」
「ええ!? 俺!?」
「ちょっと黙れ浩次」
煙の中から現れたのは、煤で真っ黒けになったボンバーヘッドの男だった。
急にファンキーなボンバーヘッドが登場して来るものだから、僕は一連の全てがフィクションだったのかのような錯覚に襲われたが、ボンバーヘッドが指をバチンと鳴らすと、彼の周りに光の粒が飛び、もりもりのアフロは一瞬でストレートのロングヘアに変わり、体の煤は綺麗に落ちた。上裸だ。
これって……魔法?
それにしても新たな変態の登場か。どうなってやがる。
その姿を見て真っ先に声を上げたのは浩次だった。
「あ、お前はナイトスライサーのファン!」
「あれ? 君はあの時の侵入者じゃないか。どうしたんだい、こんな所で?」
「ちょっとバーベキューの匂いに誘われてな」
浩次のヤツ、この期に及んでまだバーベキューとか言ってるな。何か隣りで神子川がぶつぶつ言ってるけど呪詛じゃ無い事を願うばかりだ。
「残念。バーベキューじゃないんだ。今僕と彼女たちはゲームをしていてね」
変態はそういいながらティリアと雪菜さんの方を向くと、二人はハッとなった。
「で、君たち。『我、燃えず』は見つかったかな? もう残り時間も少ないよ」
何を言ってるのか僕にはわからなかったが、二人は突然慌て始めた。
「ゆ、雪菜!」
「はいっ!!」
二人は目をあわせると一度頷いてから灰の中に手を突っ込み何かを探し始めた。
と。その時である。
「おい、何かめっちゃヤバそうな本が落ちてたんだけど」
浩次がそう言いながら富岡さんに寄りかかってページをぺらぺらと捲っていた。
それを見たティリア、雪菜さん、変態が声を揃えた。
「「「あっ」」」
背表紙にはきゃぴきゃぴしたギャル文字っぽい字体で『我、燃えずッ♪』と書かれていた。表紙は眼鏡をかけた女の子がエプロンを着ている絵が書かれている。




