三十二話
「いや……これはバーベキューっていうか……」
「火事ですね、呪います」
僕と神子川は、音を立てて燃え盛る部屋を前に立ちすくむしかなかった。
これも、館の主の罠なのか……?
そこまで考えて、ハッと僕は気付いた。
「み、神子川……!」
「私も同じことを考えていました」
「俺も俺も!」
馬鹿浩次が、突如割り込んでくる。
「お前もやっぱそう思うのか……!?」
「ああ。 やっぱバーベキューは、バターコーンが無いとな」
「……」
僕は浩次を全力で地に沈めると、失ってしまった時間を取り戻すかのように神子川に向かってまくしたてた。
「この火事も、主の仕業じゃないのか!? 雪菜さんとティリアは、まさかこの中に……?」
「可能性はあります」
「ど、ど、どうしよう……?」
「確かめてみましょう」
神子川はそう言って、携帯を取り出して雪菜さんの番号に掛けた。僕は祈る様な気持ちで、目を閉じて耳に集中した。
──プルプルプル。 プルプルプル。
神子川の携帯のコール音が鳴り響く中。
──ダダダダーン。 ダダダダーン。
突如、炎の中から無情な音楽が流れ始めた。
「う、嘘だろ……」
僕はふらふらと、音のする方に歩き出した。
「行っては行けません、矢賀野君!」
「放せよ神子川!」
「危険過ぎます! 残念ですが、ここは……」
「この人でなし! 雪菜さんが、ティリアが──」
「ちょっと、人の名前を大声で呼ばないでよね」
「あ、皆さん丁度良いところに!」
「……え?」
信じられないことに、炎の中から雪菜さんとティリアが、ひょっこりと現れたのだった。
「よ、よかった……二人共、無事だった──」
「話は後よっ!」
「痛っ!?」
ティリアからデコピンを喰らった。
……こっちは気が気じゃない程心配していたというのに、何て仕打ちだ。
「このままだと、丸焦げになるわ! 全員、水か何か、火を消せそうなものを持って来なさい!」
「ちょっと待て! 何がどうなってこんなことになってるんだ!?」
「まずはこの火を消すのが先決! いいからあんたはバケツに水を汲んで廊下に立ってなさい!」
「あ、ああ。分かった──って何でだよ!? 僕は宿題を忘れた小学生か!?」
「あわわわ……! どこかに水か火を消せそうなものは……! ──はっ! そうですバッグの中に確かお茶が……!」
「おい京。バーベキューなのに肉がねぇぞ肉」
「おや、もしかするとこれは室内バーベキューではなく、室内キャンプファイアーでしたか? それならこの騒ぎも納得ですねー」
何か色々と混沌だった。
ギャーギャーと僕達がただ騒いでいるだけの中、神子川が息を荒くして壁に手をついていた。
……その手にはどこからか引きずってきたきたモノと思われるホースが。
「ほ、ホースを、持って、来ました……ちなみにもう、ホースに水は、通って、ます……」
「ナイスよ! 後で京を呪ってもいいわ!」
「なんでだよ!?」
「本当ですか!?」
「お前さっきまでゼーハー言ってなかった!? なんでそんな急に元気になってんだよ!?」
疲れなど吹き飛ばしたような神子川がキラキラと目を輝かせて僕の方を見た。
どんだけ僕の事を呪いたいんだ!
「アタシが先陣を切るわ! 皆は各自火を消せるモノを持ち次第、後に続いて!」
「は、はい! 頑張ります!」
「雪菜さん!? 流石にペットボトルのお茶ごときじゃどうにもならないと思うよ!?」
ペットボトルのお茶を片手に部屋に突入しようとする雪菜さんを慌てて僕は羽交い締めをして止める。
「話して下さい京君! 私は火をつけた張本人としてしっかりと責務を果たさないといけないんですっ!」
「雪菜さんがやったのこれ!? どうして!?」
「で、出来心だったんですうぅぅぅぅっ!!」
「いやこれ多分出来心で済まされないと思うよ!?」
「ちなみに屋敷の主はこの火事に完全に巻き込まれたわ」
「ゆ、雪菜さん。なんてことを……」
「わ、私、こんなつもりじゃなかったんですよおぉぉぉぉっ!! うわあぁぁぁぁんっ!!」
とうとう雪菜さんは泣き出してしまった。
雪菜さん、こんなになる程ストレス溜まってたのかな……?




