三十一話
「やっぱり、ゴ◯ラは偉大だね。シナリオもアクションも、あの時代にあのクオリティはねー」
「そーっすよねー! いや、でも、俺はガ◯ラも好きですよ!」
何故だか、怪獣映画の話で、富岡さんと浩次が盛り上がり始めて、約3分が経過した。浩次がこんなに昭和の怪獣映画を語り尽くせるヤツとは思わず、驚いていたら、話がガッツリとそれていた。
いつもなら、神子川が僕の代わりに止めてくれそうだが、神子川も興味があるらしく、二人の話を熱心に聞いていた。
「その……二人とも。怪獣映画の話もいいとは思うけど、今するべきではないと思うから、うん」
「あ、これは失礼しました。つい、盛り上がってしまいまして」
「そーだな。で、何の話してたっけ?」
浩次に一発蹴りか何かをくらわせたかったが、グッと堪えた。
何だった? と聞いてくる浩次をスルーして、富岡さんの方を向く。
「富岡さんって、人以外にも憑依できるんですね」
「はい。意志を持っているものであれば、どんなものにでも憑依できますよ」
「なるほど……って、え? 鎧に意志とかあるんですかっ!?」
「はい。どんなものも意志は持っているんです。あなたの着ているその服にも、電子機器にだって、あるんですよ」
「そうなんですか……」
「すげえなっ! でも、ケータイに憑依しても何もできないような気がするんだけど」
「そうですね、大したことはできませんね。頑張っても、個人情報を流出させたり、勝手にメールや写真を覗き見たり、ブルーライトの威力を上げて失明させるくらいしかできませんしね」
いや、それは充分凄いと思うんですが。ってか、ある意味、一番怖いんですけど。
特に写真を覗き見られるのだけは勘弁だ。僕の秘蔵の写真が見られると思うとぞっとする。
浩次を見ると、「そうなのか〜」と能天気に言っている。今だけはその能天気さが羨ましい。
「ってか、富岡さんの言ってた忘れ物って、何ですか?」
浩次が思い出したように言った。浩次らしくない真面目な質問に驚いたが、それは僕も聞きたい。
「ああ、それはですね……」
そう言って、富岡さんは浩次の方を見た。
「言いにくいんですが、私先ほど運転させて頂いた際に、浩次さんの体の中に『終幕の記憶』をうっかり置いて来てしまったんです」
「終幕の記憶?」
「ええ」
そう言うと富岡さんは甲冑の頭を恥ずかしそうにガチャガチャと掻いた。終幕の記憶ってなんだろう?
ピンと来ない僕は少しだけ顎を捻ったけど、浩次は自分のことだからなのか、目をキラキラさせて「なんだそりゃ、かっけえ!」と喜んでいた。
その横で神子川が「なるほど」なんて言って頷いている。流石はオカルトオタクと言ったところだろうか。
「つまり、このままじゃ富岡さんは成仏出来ないって事ですね」
「そうなんですよ。だから浩次さんと仲良くなってなんとか心を通じ合わせる事で『終幕の記憶』を戻せると思うんですが、これは時間がかかりそうです」
成仏が出来ないっとことは、つまり富岡さんはしばらくこの甲冑に乗り移っているという事だろうか。怪獣話で結構仲良くやってるように見えたが、これでもまだ心が通じ合っていないとなると、富岡さんが成仏するのはまだまだかかりそうな気もする。
まさか学校までついて来たりしないだろうな……。
僕の周囲はぶっ飛んだ人が溢れているので、可能性としては十分にあり得る事が悩ましい。
「終幕の記憶が無ければ、私あの世までの道に遭難してしまうんですよ」
自分のうっかりミスなのに、腰に手を当てて仰け反り気味で笑う怪しい鎧。
まあ富岡さん自身、暴走運転でうっかり死んだんだから、やはり三つ子の魂百までと言ったところだろう。
「まあそのうち何とかなるだろ!」
「そうですね!」
楽観度100%の二人はケラケラと笑いながら再び変な話をしながら歩き出したので、僕と神子川は大きなため息を彼らの後ろ姿に向かって吐き出した。
僕らは通路に出て歩く事約15分。富岡さんとカタツムリの話をしていた浩次が突然足を止めた。
「くんくん。待て待て」
「浩次。匂い嗅ぐ時にくんくんって口で言うヤツ初めて見たぞ」
「そんな細かい事どうでもいいんだよ京。そんな事より、こりゃとびっきりのディナーにありつけそうだぞ!」
そう言うと浩次は犬みたいに自分の嗅覚を頼りに通路の先頭を歩いて行った。
何も匂いなんか感じなかったが、確かに集中してみると何だか焦げ臭い匂いがしてくる。
まあ食い物の類いの匂いではない。
……浩次よ。お前普段、どんなもんを食ってるんだ?
僕らは一人で突き進む浩次の後ろをついて行く。するとだんだん臭いがキツくなり、ついには煙まで発生し始めた。
もしかしたら何かしらのトラップか。もしくは緊急事態か。
煙で視界の悪くなった通路の中、浩次が扉の前で立ち止まる。
「おいおい、こりゃかなり豪勢なディナーの気配だぜ! ただ焼くのちょっと下手だな」
そう言って浩次はゆっくりと扉を開けた。
中から立ち上った匂いはジューシーなお肉……ではなく、焦げ臭い煙の匂いだった。
「うわあ、室内でバーベキューなんて粋ですね!」
ガチャガチャと鎧を揺らし、富岡さんは実に楽しそうに言った。




