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あなたの願いを叶えましょう  作者: 白提粉連合
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二十五話

 浩次の咆哮が響いた時には、僕は咄嗟に雪菜さんを抱きかかえ後ろに距離をとっていた。

 さっきまで僕と雪菜さんがいた地面が綺麗にめくり上がる。

 剣が振り下ろされたのだ。

 ということは、あのままあそこにいたら、僕も雪菜さんも死んでいた。

 ぶわっと汗が吹き出す。


 ガシャン!!


 鎧は依然として動いており、僕らを視線に収めている事は明白だった。


「今宵の……にえぞ」


 抱きかかえていた雪菜さんが、僕の腕から滑り落ちる様に足を地面に着けた。僕達は鎧から一歩でも離れようと、じりじりと後ずさった。


 鎧は特徴的な音を立てながら、機械的な動きで再び剣を構え直した。


「また来るわよ!」


 ティリアが大きな声で叫んだ。


「どうすりゃ良いんだよ!?」


 僕は目線を鎧から外さないまま、その声に叫び返した。


「一撃は強いですが、鎧自体の重さの分動きは鈍いです。 逃げ続ければ問題ありません」


 神子川がそう言った瞬間、鎧が僕と雪菜さんに向かって来た。


「逃げろ!!」


 浩次に言われるまでもなく、僕達はダッシュでその場から離れた。鎧は空振りに終わった攻撃の後、またすぐに次の攻撃に移っていた。


 次に狙われたのは、ティリアだった。こちらも軽やかな動きで鎧から逃れると、あまつさえその堅いボディに蹴りをいれた。


「──っ! 何よこれ! 堅いわねっ!」


「鎧ですからね、呪います」


 次の標的となった神子川が、無駄の無い動きで鎧を退けながら言った。


「でも、これって……いつまで逃げ続けたら良いのよ!?」


「もうじきの辛抱です、呪います」


「本当か!?」


 神子川はきっと、逃げながら対策を練ってくれていたに違いない。僕は心の中で、彼女に賛辞を送った。その時、その場の緊張感にそぐわない声が響いた。


「へへっ! 何だよ、ちょろいじゃないか!!」


 クレイジー浩次だ。調子に乗ったあいつが、事もあろうに、鎧を馬鹿にし始めたのだ。


「……」


 その瞬間、今まさに雪菜さんに向かって行こうとしていた鎧がピクリと動きを止めた。そして――。


「……あ?」


 ガシャン、ガシャンと鎧は向きを変え……。自分から一番遠い安全な場所でぬくぬくしていた、浩次に剣先を向けた。


「流石です横橋君、呪います」


 神子川はついに動き出した鎧を見ながら言った。


「え、嘘だろ、こっちくんな!」


 先程の余裕ぶった言葉とは裏腹に、浩次は目に見えて狼狽え始めた。


 ガシャン、ガシャン、ガシャン。


 鎧にはもう、浩次しか見えていない様だ。


「皆、浩次から離れろ!」


 唖然としていたティリアが、弾かれたように浩次から離れた。


「うわあああ!?」


 浩次は堪らずその場から走り出した。


「ちょっと、こっち来ないでよ!」

「助かりました……」

「横橋君、頑張って逃げて下さい。 呪います」

「頼んだ浩次!」


 僕達はホッと一息ついて、逃げ回る浩次を見ていた。


「本気かよ、無理だって!」

「大丈夫、大丈夫。お前、馬鹿だから」

「そうか! って、納得するか──危ねぇぇぇぇっ⁉︎」


 おおっ、ノリツッコミ。

 僕が感心する間にも、浩次は鎧が繰り出す攻撃をかわし続けていた。


「では私たちは、こちらの扉から出ましょうか」

「え、扉あったの!?」


 何食わぬ顔で出口を指し示す神子川に、僕は思わず突っ込みを入れた。


「ええ、先程の変化で出来た様です」


 じゃあ早く出ようぜと僕が言おうととした時。


「ど、どいてくれーっ!?」


 全力疾走の浩次が、僕達を押しのけてその扉から飛び出して行った。そのすぐ後を、鎧がガシャンガシャンと追いかけていく。


「……」


 僕達は鎧の足音が聞こえなくなるまで、その場に突っ立ったままだった。やがてティリアが、ポツンと呟いた。


「あいつ……良いやつだったよね」

「ええ。 本当に、勇敢な方でした」

「哀れ浩次、安らかに眠ってくれ……」


 僕達は手を合わせて、犠牲となった彼の冥福を祈った。


「では、少々遅くなりましたが私たちも行きましょう。 呪います」

「あ、ちょっと待って」


 次の部屋に先導しようとしていた神子川に僕は待ったをかけた。

 すると、神子川が少し不満気に頬を膨らませた。


「なんですか矢賀野君?」

「いや、さっき逃げ回ってる時に偶然、目に入ったんだけど……ほら、アレ」


 端の方にポツンと置いてある本らしきものを僕は拾いあげた。


「何よその本?」

「えっと、ちょっと待って……」


 本はあまりにも埃だらけでまともに表紙の文字も見ることも出来なかった。

 何度か本に付着する埃をはらうと、ようやく表紙の文字が確認することが出来た。

 ……英語だ。読めない。


「じょぉ、じょ?」

「『journal』ですね。……つまり日記です」


 困り果てる僕に雪菜さんが助け船を出してくれた。

 そうか。この英単語は日記って読むのか。

 あれ? でも日記って『dairy』の英単語じゃなかったっけ?

 その辺がよく分からなかったので尋ねてみると、


「ええ。『dairy』も確かに日記と読みます。ですが、『journal』も日記と読むんです」

「……違いはあるの?」

「あります。『dairy』は誰にも見せたくない時、つまり秘密性の高い日記のことを指します。逆に『journal』は人に見られても良いような日記のことを指すんです」

「じゃあ、この日記は誰かに見られても良いような日記って事?」

「そうなりますね」


 じゃあ、そこまで重要なものじゃさなそうか。

 あーあ、期待して損した気分だ……。

 考えてみれば重要なものがその辺に捨て置かれているわけないよなぁ……。


 溜息をつくと、横からひょっこりと神子川が顔を覗かせた。


「……矢賀野君。呪いますから、その本を見せてくれません?」

「出来ればそこは呪わないであげますから、とか言ってほしかったな。……ほら」


 中身も見る前に僕は神子川に本を渡す。

 すると、神子川は興味深そうに本を凝視し始めた。


「……ふむ。紙質からかなり古い本だという事が分かりますね」

「古いって……どのくらい前なんだ?」

「さぁ、そこまでは分かりかねますが……おや、名前らしきものがあります」


 本の下の方に目を向けた神子川はそれを読み上げた。


「……『にじ 新人あらと』。聞いたことはありませんが、名前からして男性のようですね」

「その虹 新人って人の日記がどうしてこんなところに?」

「虹 新人さんという方がここに住んでいたとか?」

「うーん……」


 どれにせよ、推測の域を越えない。

 正体不明の日記に僕達が頭を悩ませていると、


「……ん?」


 ティリアが珍しくぼうっとしているのが目についたのだった。

 僕はティリアの前でヒラヒラと手を振った。

 それに気が付いたティリアは一瞬、はっとした表情を浮かべた後、すぐにいつもように表情を繕った。


「ティリア? どうかした?」

「な、何でもないわ。ただ……」

「ただ?」

「何と無く懐かしいな、って思っただけよ」

「? 意味がよく分からないんだけど……」

「そうよね。ごめん、今のは忘れてくれる?」

「あ……うん」


 僕はティリアの反応に首をかしげた。

 スッと神子川の方を見ると、神子川は日記を色んな方向から傾けたりして、じっと見つめている。


「……神子川? それ、何してるの?」

「何か仕掛けられていないかを確認しているんです」

「仕掛け……?」

「はい。魔法とかそういったものです」

「え、でも、その『journal』は誰でも読んでいいんだから、何も仕掛けていないんじゃ?」


 僕がそういうと、神子川は日記に向けていた顔を僕の方に向け、はあ、とため息をついた。

 ……こっちを向く必要はあるのか!?


「それだから、矢賀野くんはダメなんです」

「……す、すみません」

「敵の裏をかくつもりでいないといけません。もしかすると、これは『journal』と書いておき、この本を開いた人物を倒す魔法がかけられているかもしれません」


 神子川がそう言うと、また、日記を調べはじめた。

 考えすぎな気もするが、神子川の言っていることも理解できないこともない。

 僕が打開策がないか、頭を捻らせていると、


「その必要はないわね」


 と、ティリアが言った。


「何故そう思われるんですか?」


 神子川が、ティリアを少し疑いの目で見る。


「その本から魔力は感じられないわ」


 ……なんで、もっと早く言わないんだよ!?

 神子川はティリアを数秒じっと見た。


「あ、そうなんですか。じゃあ、開けてもいいですね」


 ティリアの言葉に納得し、日記を開こうとする神子川。

 元精霊が言うから、信じるのは分かるけど、僕との反応の違いが心に刺さる。というか、魔力がないってだけで、開けても大丈夫と判断していいのか!?


「ちょ、ちょっと待って、神子川。仕掛けが魔法だけとは限らないかも……」


「言われてみれば、そうですね。でも、魔法以外のものなら、なんとかなるでしょう」


 さっきの過剰なまでの心配はどこへ消えてしまったんだ……。


「では、開けますね」


 神子川によって、日記が開かれた。


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