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終幕

 端末を折り畳む。竜二には最後の言葉を贈ったつもりだ。これで最後である。もう会うこともないだろう。だから呪いを解いた。

 これで彼が納得するとは思わない。きっとアドレスを聞いたのだって、これからも相談に乗ってやるという意思表示だったのだろうから。勝手に打ち切られて納得出来るはずはない。

「竜二くんは何も変わってなかったなあ」

 変わらない竜二。それは海樹子の望むところではあったが、彼は変われなかったが故に同じ間違いを犯した。

 何て皮肉。待ち望んでいた邂逅が自分の破滅を招くなど、海樹子は考えてもみなかった。

 マンションの自動ドアに自分が、ドッペルゲンガーが映る。嬉しそうな顔をしている。勝ち誇ったような顔をしている。

「駄目だったね」

「そうだね」

「もういいでしょ? 満足したでしょ?」

「うん」

 諦めるしかない。ようやく会えた思い人は、自分を救ってはくれなかった。最後の希望は打ち砕かれ、打ち破られ、打ち付けられた。

 きっと自分は勘違いをしていたのだ。竜二自身は変わっていなくとも、彼を取り巻く環境は変わっている。それならば入り込む隙など皆無。彼は新しい友人と新しい恋愛対象を見つけ、新しい人間関係を構築している。もう竜二の心の中に海樹子は居ない。


「あなたって私なの?」

 海樹子が訊く。

「私ってあなただよ」

 海樹子が答える。

 憎たらしい。右手で牛を模した拳を作ると、それをあちら側へと向ける。

 人を呪わば穴二つ。海樹子は海樹子を呪う。合計四つの穴の奥深くから海樹子を狙っているのは一体全体何者なのだろうか。ドッペルゲンガーだろうか。否、ドッペルゲンガーは自分に危害を加えない。ドッペルゲンガーでないならば、きっと自分だ。あの穴から自分を狙っているのは自分自身だ。自分自身を奈落に引っぱり込もうと狙っているに違いない。きっとあそこに落ちたら最後なのだ。蜘蛛の糸を垂らしてくれるような酔狂者など存在しないのだから。

「帰ろう? 帰ってママに甘えよう?」

「うん。帰ってママに甘える」

 海樹子は縋るのを諦めた。

「あはっ。竜二くん格好よかったなあ」

 涙を流して笑顔を作る。

 ここまでだ。これでお仕舞だ。あとは幾らでも笑い話にしてもらって構わない。


 海樹子は笑う。海樹子は泣く。そうして自動ドアを見てみれば、もうそこには笑い泣く自分の姿が映っているだけだった。







 鏡を疎む・終了

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