幕間
鏡映った世界。正反対の世界。どちらが本物の世界なのか。全く判らない。
彼女は一切が判らない。あちらの自分が本物か、こちらの自分が本物か。
「鏡よ鏡よ鏡さん————」
ビルのガラス壁に問いかける。
「どっちが私?」
自分は、鏡は、ガラス壁は応えない。
午後七時十六分。大日如来の祭の客層は小学生から大人にシフトしている。高校生から大学生、少しませた中学生。彼らを大人と呼ぶのは誤りかもしれない。
しかし彼らは子供でもない。否、子供だろうか。判らない。
判らない年齢層が参加する行事。それが夏祭り。
彼らは夜に現れ、朝になる前に帰って行く。幽霊のような存在だ。皆自分を自分と認識出来ているのだろうか。自分が自分であると言う実感を持っているのだろうか。皆ドッペルお化けなのではないだろうか。
「馬鹿みたい」
下から見下す。彼女が他者から逃げる為の常套手段だ。
彼女は人ごみが好きではない。あるいは好きであったのかもしれないが、彼女は他者だらけの人ごみが好きではないのだ。
本来ならば避けて通ることこそ合理的であるのだが、あえて身を投じる。
彼、荅川竜二との邂逅を果たすため。邂逅を演じるため。彼女は人ごみに身を投げることを習慣にした。
定禅寺通、サンモール一番町、勾当台公園周辺、仙台の人ごみという人ごみを幽鬼のように歩き回った。
そして今日は大日如来だ。夏祭り。今日一日はこの小さな神社のお祭りに街中の人間が詰めかける。お化けが沢山詰めかける。
そこに彼女の求める人間はいるだろうか。
彼女は夏祭りの会場である通りの先端、綿あめの屋台へ目線を移す。
そこにはいた。彼がいた。
「いたあ」
荅川竜二がそこにはいた。彼女には判った。七年も会っていなかったというのに、痩せぎすで堕落した風貌の彼を荅川竜二だと認識出来た。
「変わってないんだね。大人になれていないんだね」
幽霊のような微笑が漏れる。
しかし彼の隣にいる綺麗な黒髪の異様に目つきの悪い女性は誰だろう。恋人だろうか。
それは彼女にとって不都合なことだった。竜二に恋人がいること自体は問題ではない。あのまま二人が一緒にいては自分の入り込む隙がないのだ。
否、二人ともかき氷を頬張っているし、厠に立つということもあるだろうか。そこを狙うならば忍耐との勝負になる。
まあそこまでしなくとも、帰り際を狙えば何の問題もない。竜二を見失わなければそれでいいのだ。
しかし——
「あの子もちょっと気になるかな」




