第四話 「立入禁止宙域で見つけたモノ」
「ねぇ、マリウス先生。本当に立入禁止宙域に行くの?」
俺は少し申し訳なさそうな顔で聞く。
本来、立入禁止宙域は宇宙連邦軍所属の軍人でさえ立ち入ってはならない場所なのだ。今更ながら、先生のキャリアを台無しにしてしまうのではないかと俺は懸念していたのだった。
「もしかして、僕の事を心配してくれてる?」
「当たり前じゃん。さっきはそう言ってたけど、本当は俺の我儘を聞いてくれたんだろ? もしもの事があったら、俺……」
ごにょごにょと口篭っていると、マリウス先生は俺が被ってたヘルメットをポンポンと叩いてきた。
「そんな辛気臭い顔しないでよ、イグニス君。僕も君と同じで真実が知りたくてここまで来てるんだ。それは本当だよ。それに何があっても君だけは守るから安心してよ」
「お、俺は自分の尻拭いくらい自分でできる! あんな事件を起こしたカール・アダーとは違うんだからさ! これ以上、子供扱いしないでくれ!」
俺が少しムキになったのは、カール先輩の事件が頭に過ったからだ。それでも、マリウス先生は俺の胸中を見透かしているかのように、ハハッと綺麗に笑う。
「君はまだ学生なんだし、もう少し周りの大人に甘えてればいいんだよ。子供だけで解決できる事なんて限られてるからね」
「えー、それでいいのかなぁ……」
「それでいいよ。きっと、シンラ君も僕と同じように言うはずだろうし――おっと、もうすぐ目的地に到着だよ」
マリウス先生が画面を操作すると、モニターに拡大画面が映し出された。
俺は目を凝らしてよく見て見る。
すると、遠く離れた小惑星の影に隠れて見え辛いが、朽ち果てた金属片がいくつも浮かんでいるのが見えた。
「あれって……」
「機体の破片だね。それも一機や二機だけじゃないみたいだ」
モニターを見つめていると、ヴーッ、ヴーッ! という低くて重苦しい警告音がコクピットに鳴り響いた。モニターに警告マークが大きく表示される。
『警告。連邦法第百二十七条に基づき、これより先への進入を禁ず。直ちに退去せよ。引き返さない場合、命の補償はできず。繰り返す――』
「なんだよ、この警告!?」
『この辺りの宙域に入るとアラートが鳴る仕組みみたい。軍本部にも情報が飛んでると思うから、追っ手が来ちゃうかも。マリウス、このまま進んで大丈夫だよね?』
ニコの問いかけにマリウスは頷いた。
「今は進もう。何かあった時は……」
『大丈夫! 異変があったら、僕がちゃんと知らせるよ!』
小惑星の間を縫うように飛んでいる間、俺は浮かない顔で前後左右を見渡していた。辺り一面、ヴァルキリーの残骸だらけだったからだ。腕や足、胴体だけになっている物ばかりが宙を彷徨っている。
〝グルヴェイグ〟を探している間、俺の心臓は早鐘を打ち続けていた。
ずっと、来たかった場所に来られたはいいけど、〝グルヴェイグ〟もこんな風にバラバラになってたら、どうしよう。俺、ちゃんと現実を受け止められるかな……。
自然と手に力が入る。まるで、ヴァルキリーの墓場にいるような錯覚を覚えた俺は、どんどん不安を募らせていった。
「ニコ、何か分かったかい?」
『うん。回りに浮いてる機体の管理番号を照合してみたんだけど、十年前の襲撃事件に導入された物だって判明したよ。なんでか分からないけど、どれも昔のまま放置されてるみたい』
ニコが分かりやすくモニターに映し出してくれた。パイロットの顔写真と機体名とナンバリングを見た俺は息を呑む。先程から『隠蔽』という嫌な言葉がひっきりなしに浮かんできた。
「静かすぎる」
「えっ?」
「さっきから静かすぎるんだ。いつもなら、いろんな音が入って来るのに……」
「い、いろんな音?」
「そう、僕とニコにしか聞こえない音。ここは時が止まっているような不思議な嫌な感じがするんだ」
マリウス先生は集中しているのか眉根を寄せっぱなしだった。
その音とやらが何を意味するのか分からなかったが、聞き返せるような雰囲気ではない為、俺も同じように黙り込む。
「…………ニコ。今の聞こえたかい?」
『聞こえた! ザー、ザーッていう耳障りな音!』
どうやら二人にしか感じ取れない音が聞き取れたらしい。気になった俺はほんの少し前のめりになる。
「二人共、何が聞こえ――わっ!?」
マリウス先生がいきなり機体を急発進させたので、俺は慌てて操縦席にしがみついた。『イグニス君、見て!』と声をかけられ、俺は言われるがままに顔を上げる。
折り重なった機体に隠れてよく見えなかったが、〝グルヴェイグ〟と似た特徴の機体が見えた。朽ちた機体を退かしていくと赤い塗装が露わになる。獣のような鋭い爪、金の装飾。〝ヒルディスビー〟よりも一回り大きな機体が露わになっていった。
『やったね、イグニス君!』
「あぁ、やっと見つけた!!」
間違いなく父さんが使っていた機体、〝グルヴェイグ〟だった。
不思議だったのは、他の機体の殆どがフレームだけの状態で朽ち果てていたというのに、機体がそこまでボロボロではなかったという点だろうか。
俺は身体を震わせた。手の先から全身へ鳥肌が立っていく。こんなにもあっさりと見つかるのであれば、もっと早くマリウス先生を頼れば良かった。
「生体反応がない。救難信号も発信されていないみたいだ」
「じゃあ、父さんは機体の中で死んでる……?」
喜びから一転、膝から崩れ落ちそうになった。けど、マリウス先生は驚きも落胆もせず、冷静なままだった。
「無理やりこじ開けて確認してみようか」
「こ、こじ開ける? まさか、ちょっ――」
止めるに入るのが一足遅かった。『いっくよー!』というニコの掛け声の後、腰に身に付けていたスカートの一部をパズルのようにバラし、光線を〝グルヴェイグ〟のハッチに当てる。
チュイン! という聞き慣れない音がした。バーナーの要領で施錠部分だけを焼き切ったようだ。隙間に両指を差し込み、文字通り力づくでこじ開ける。
心の準備ができていなかった俺はギュッと目を瞑った。しかし、コクピットの内部がモニターに映し出された瞬間、俺は言葉を失ってしまう。
「なん……だ、これ……?」
コクピットの中は空っぽだった。パイロットスーツやヘルメットも残されていない、何もない状態。脱出したのかと思ったが、操縦席は残されたままだった。
重力のせいで涙の粒がふわりと浮かんだ。
まだ謎は残されているが、父さんが生きている可能性があると分かっただけでも、俺にとっては大収穫だった。
「良かった! 父さんが生きてるかもしれない!」
希望を感じて胸が熱くなっている中、マリウス先生は焦りと怒りを滲ませていたのだった。
『マリウス、これって……』
「あぁ。僕が恐れていた最悪のパターンだ」




