第十二話 「どうやら、これから独房にぶち込まれるようです」
俺は呆然と自分の両腕を見つめていた。
皮膚のすぐ下に暗褐色の電子回路が血管のように張り巡らされている。父さんの腕にも似たようなものがあったから人よりは見慣れていたはずなのに、変わり果てた我が身へのショックは小さくなかった。
俺の手、ちゃんと動くよな……?
試しに手を開いたり、握ったりを繰り返してみる。
感覚も動作も問題ない。タトゥーも熱くもないし、〝グルヴェイグ〟の操縦桿を握った時のような感覚もない。いつも通りの自分の腕だった。
「イグニス君!」
少し離れた所からマリウス先生の声がした。
思わず駆け寄ろうとした俺に「動くな!」と厳しい怒号が浴びせられる。完全に失念していたが、俺は今、複数の銃口を突きつけられている真っ最中だった。
「イグニス君はまだ学生だ。抵抗なんてしない。銃を下ろしてくれないかな」
「そいつは無理な相談だ、マリウス。シンラ・イグニス学生は呪われた機体のパイロットになったうえに、あのシンラ・ヒビキの息子だろ? これ以上、問題を起こされると迷惑なんだよ」
タナカさんは文句をブツブツと言いつつ、「報告書になんて書けばいいんだよ、クソが。残業確定じゃねぇか」と、ピリピリしていた空間に世俗的な愚痴が響き、俺は別の意味で居た堪れない気持ちになってしまう。
「僕達の目的は〝グルヴェイグ〟の捜索だ。目的を達成した今、抵抗する理由なんてない。それはこの場にいる君が一番理解してるはずだろ?」
それを聞いたタナカさんは悩んだ末に「……銃を下ろせ」と部下達に指示を出してくれた。しかし、彼らが俺に向ける冷ややかな視線までは下がらなかった。
「あの事件から十年経った今も〝血塗れヒビキ〟の異名は消えやしねぇ。むしろ、噂に羽が生えて広がってやがる。それを理解してるんだよな?」
「勿論。何かあった時は僕が必ず責任を取るよ」
タナカさんは制帽を被り直しながら、「その言葉、必ず守れよ」と釘を刺した後、少し哀れんだような目で俺を見つめてきた。
「それより、あの女の子はどうなった?」
「これからドクターに診てもらうつもりだ。上の指示はまだ出てないが意識が戻り次第、事情聴取になると思う」
マリウス先生がチラッと後ろに視線をやったので、つられて俺も視線を向ける。
丁度、コクピットから女の子が運び出されているところだった。桃色の長い髪で華奢な感じの女の子。激しい火災に巻き込まれたのか全身の服が真っ黒に焦げていた。
ドクターの指示でストレッチャーの上に寝かされた後、医療チームが女の子の服を医療用の鋏で切っていくのが見える。白い肌が露わになる直前、俺は慌てて視線をタナカさんへ戻した。
「おいおい、あの子の事よりも自分達の心配をしろよ。お前達は今から檻房にぶち込む事になってる。尋問官はまだ決まってないが、暫く家には帰れないから覚悟しとけ」
それを聞いた俺はギョッとしてしまった。
「もしかして、暫く学校には行けない感じですか……?」
「当たり前だ!」
タナカさんの怒号が鼓膜を震わせた。
「自分が置かれた状況わかってんのか!? 艦隊規模で出撃騒ぎを起こしておいて、何もお咎めなしなんて有り得ないからな! 最低でも一週間は帰れないと思っとくんだな!」
俺は「デスヨネ……」と盛大に肩を落とした。
タナカさんは一瞬緩みかけた空気を引き締めるように、パンパンと大きく手を鳴らす。
「さぁ、各自持ち場へ戻れ! 整備班、十年ぶりに英雄機のご帰還だ! 壊す事はないと思うが丁重に扱うように! 白いヴァルキリーも同様にな!」
近くにいた整備士の肩を叩き、タナカさんはズンズンと歩き出す。
俺とマリウス先生は未だに銃を手にした軍人二名に挟まれる形で、タナカさんの背中を追うしかなかった。




