第十三話 「人生初の尋問(?)に気が滅入ってしまう」
宇宙連邦軍・ブラズニル支部の檻房棟にマリウス先生とぶち込まれて、五日が経った。壁一枚隔てた隣の独房からは何も聞こえてこない。
俺は力が抜けたように簡易ベッドにダイブした。
最初は寝心地の悪かった硬いマットレスが、今や妙にしっくりきているのが我ながら悲しい。
「マリウス先生、生きてる……?」
俺が声をかけると、隣の独房からマリウス先生が小さく笑う声が聞こえてきた。
「生きてるよ。イグニス君は平気?」
「平気じゃない……。頭がおかしくなりそう……」
俺の方はといえば、連日続く執拗な聴取に苛立ちが募ったり、気が滅入ったりを繰り返していた。覚悟はしてたつもりだったけど、ここまで詰められるなんて思っておらず、自分が何を喋ったのかすら覚えていない時がある。
軍人さん達の監視は、本当に厳しかった。トイレに行く時も後ろに立たれるんだから、緊張して出るものも出ねぇ。そりゃあ、騒ぎを起こした側だから当然っちゃあ当然なんだけどさ。人前でパイロットスーツ脱げとか言うし、もう少しプライバシーってやつを尊重してくれてもいいんじゃね?
「疲れてるでしょ? 少しの間、目を瞑ってた方がいいよ」
「そうするよ……」
精神的に消耗した俺はそのまま目を閉じた――が、ものの数秒で目が覚めた。タナカさんの顔が瞼の裏に焼き付いて離れなかったのだ。
一体、なんだこれは? これが噂のイマジナリーフレンドというやつか? もしかして、ずっと一緒にいたから瞼の裏にタナカさんが住み着いて――。
「んなわけあるかっ!! 俺の馬鹿野郎がっ!!」
俺はすかさずセルフツッコミを入れた。しかし、面白くなさすぎて口角すら上がらない。虚しくなって無性に泣きたくなってきた。
尋問官にタナカさんが任命されたと聞き、最初は〝グルヴェイグ〟の事を聞き出せるぞ! とやる気に満ち溢れていた。
最初の内は何言われても平気だった。「お前のせいでどれだけ書類が増えたと思ってんだ」とか「親父に似て問題ばっかり起こしやがって」という小言も適当に受け流せていた。
だが、五日も同じような嫌味をネチネチと浴びせられ続けると、さすがに脳が限界を迎えたようだった。最近の俺は、何か訊かれてもまともに答える気力が湧かず、すっかり生気のないイエスマンと化していた。
「こんなの尋問じゃなくて、ただただ嫌味を言われてるだけじゃねぇかっ! そりゃあ、いくらメンタル強い俺でも意気消沈しちまうわっ!」
いつもの調子を取り戻した俺の声に、壁の向こうからマリウス先生が可笑しそうに笑う声が聞こえた。それを聞きつけたタナカさんが、「おい、お前らっ!」と苛立ちを滲ませて乗り込んできた。
「反省の色がみえねぇようだな!? もっと厳しく問い詰められたいのか!?」
「タナカ大尉! 俺、尋問されてないです! 毎日、ただただ嫌味を聞かされてただけです! もしかして、父さんと過去に何かあったんですか!?」
俺が素朴な疑問をぶつけると、「うるせぇぞ、そこ!」とタナカさんからツッコミが入った。
「今はお前に構ってる場合じゃねぇ! マリウス、さっさと独房から出ろ! 仕事だ!」
マリウス先生は待ってましたと言わんばかりに「はいはい」と言って独房から出た。俺は何が起こっているのか分からず、「俺も出してくれよ!」と抗議する。
しかし、タナカさんの血走った目で睨まれた俺はギョッとしてしまった。目の隈が見た事ないくらいに黒色になっていたからだ。
「お前は後回しだ! 今はピンク頭のお嬢ちゃんの事でバタバタしてんだよ! お陰で仮眠も取らずに三徹目に突入だ!」
ガリガリと頭を掻くタナカさんの姿を見て、マリウス先生が「で? 何があったの?」と落ち着いた様子で聞く。
「ピンク頭のお嬢ちゃん、同じ人の姿をしているのにこっちの言語を一つも理解しやがらねぇ! しかも暴れ散らして怪我人は出るし、鎮静剤も打てない状況が続いてるときた! これじゃあ、まるで――」
「僕達が初めてこの宇宙船に来た時みたいだって言いたいんでしょ?」
マリウス先生が淡々と言う。俺はどういう意味なのか分からなかったが、タナカさんが「そうだよ! しかも、あの時よりも酷い状況だ!」と悪態を吐いた。どうやら、かなり参っている様子である。
「タナカさん、イグニス君は家に帰してくれるかな?」
「あぁ、もう何も聞く事はねぇよ! 部下に手続きをしておくように言っとくから、学生は家に帰ってねんねしてな!」
あー、クソ! 俺も家に帰って寝倒してぇ! と文句を吐くタナカさんと、こちらを振り返って「また家でね」と手を振るマリウス先生を黙って見送る事しかできなかった。




