第十話 「グルヴェイグが凍結!? ふざけんな!」
第一艦隊・ミラージュからの警告に従って格納庫内に入った後、〝グルヴェイグ〟達には拘束具が装着された。特殊な電磁波を発する拘束具のようで、操縦桿を握っても〝グルヴェイグ〟達を動かせないようにしているらしい。
現在は宇宙船・ブラズニルに帰還している最中なのだが、立入禁止宙域で核が使われた記録が残っているらしく、放射線除去作業が終了するまでパイロットは機体から出られないらしい。
軍人達も俺達をどう扱って良いか分からないらしく―特に白いヴァルキリーのパイロットの処遇に困ってるっぽい―俺達はヴァルキリーの中で缶詰状態ってわけ。
「ねぇ、父さん。その拘束具、窮屈じゃない?」
『窮屈っちゃあ窮屈だな。でも、この拘束具はナンバーズ機に対しては無意味だけどな』
父さんの言葉に俺は目を丸くする。
「今のどういう意味だよ?」
『〝グルヴェイグ〟は〝ナンバーズ〟って呼ばれる特別な機体でな。この機体に意思が宿ってるだけで動かせる事ができるのさ』
「つまり、パイロットがいなくても父さんの意思で〝グルヴェイグ〟を動かせるって事?」
『あぁ、動かせるぞ』
俺は驚いてパチパチと瞬きをした。
俺がいなくても動かせる!? という事は、父さんがキレたら、宇宙船なんて木っ端微塵になっちまうんじゃ――。
『……イグニス。今、俺が暴れる想像をしただろ?』
「えっ!? そ、そんな事ないって!」
『ま、別に良いけど。暴れる時は暴れ倒すしな』
暴れるのかよ!! と内心ツッコミながら俺は苦笑いする。
『でも、イグニスが考えてる程、長時間は動けないぜ? パイロットなしで動けるのは、せいぜい三分くらいだ』
「三分もあったら宇宙船を半壊できそうだな」
『ハハッ、この俺なら可能だな! でも、これから格納庫で過ごす事になるのか……』
先程とは違い、声のトーンが一気に下がった。
「もしかして、寂しいの?」と聞くと、『寂しくねぇよ。けど……』と珍しく言葉を濁している。
『ニコってお喋りだろ? 整備士達が寝静まった後、夜の格納庫で鼻歌を歌いやがるんだ。一時期、それが問題になって〝学校の怪談〟に加えられた事もあるんだよ』
それを聞いて、また俺は驚いてしまった。
ニコと父さんがそんな昔からの付き合いだとは思わなかったが、父さんが学生をやっている姿が想像できなかったのだ。
『……おい。また失礼な事を考えたろ?』
「うん、父さんが学生をやってた姿が想像できなくて。マリウス先生しか理解してくれる友達いなかったんじゃないかなって思ってる」
真顔で答えると、『本当に失礼だな!』と父さんは冗談っぽく怒った。
「でも、まだまだ父さんの事を知らないんだなって思った! ブラズニルに帰ってからも格納庫に遊びに行くから、いろんな話を聞かせてよ!」
『あぁ、いいぜ。俺もイグニスの話が聞きたいからな』
それからブラズニルに到着するまでの間、昔話に花を咲かせていると、第一艦隊の司令室から通信が入った。
相手はゴウ・タナカという名前の軍人さんだった。
俺が回線をオープンにすると、「あー、あー。俺の声が聞こえるか?」と茶髪の坊主頭に吊り目の日系人がモニターに表示される。
「初めまして、シンラ・イグニス。俺の名前はタナカだ。君はグラズヘイム高等専門学校、パイロット科に通う一年生で間違いないか?」
「あ、あってます」
嘘を言っても仕方がないので素直に肯定すると、父さんがある事に気付く。
『……ん? タナカの声じゃん』
「知り合い?」
『あぁ。俺が軍にいた頃、仕事終わりに奢って貰ってたりしてたんだ。ちなみにタナカの階級は何になってる?』
「えーっと、少し見えづらいけど大尉かな……」
『へー、タナカも出世したもんだなぁ!』
父さんの話も気になるが、今はタナカさんとの会話が優先だ。先程まで厳しい目つきをしていたタナカが、「そうか、あの〝血塗れヒビキ〟の息子か……」と懐かしそうな表情に変わる。
「父さんを探しに立入禁止宙域に入ったのか?」
「はい。父さんが死亡者リストに載るのが嫌で、マリウス先生に我儘を言いました。本当にすみません」
謝って済む話ではないとは思うが、謝罪の言葉は言っとかないとな。勿論、駄目だって事は重々承知の上でやった事ではあるんだけど。もしかしたら、許してくれるかもしれないし。
そんな甘っちょろい事を考えていると、タナカが険しい顔で頭をガシガシと掻き始めた。
「個人的には情状酌量の余地があるって事で無罪放免にしたいところなんだが、本当にタイミングが悪いなぁ……」
どうやら、表情を察するに何か都合の悪い事が起こっているらしい。
「タイミングが悪いってどういう事ですか?」
「ブラズニルに到着したら知る事になるだろうし、ぶっちゃけても大丈夫か……」とタナカがブツブツと独り言を喋った後、事情を話し始めた。
「実は中央司令部のお偉いさんがこの船に乗ってるんだ。毎年、この時期になると中央の代表者が死者を弔う為に立入禁止宙域まで花束を備えに来る事になってる。しかも、シンラ・ヒビキの愛機である〝グルヴェイグ〟も見つかってるうえに、未確認の機体まで見つかるときた。さすがに今回ばかりは隠し通せないな」
タナカはすまんなと手でジェスチャーする。
それを聞いて本当にタイミングが悪いなと俺は思ったが、一番黙ってなかったのは父さんだった。『おい、タナカ! お前、大尉になったんだろ!? お前の力でどうにかしろ!』と無茶な事を言っている。
しかし、その言葉が届くわけもなく、タナカはモニターの向こうでゴホンと小さく咳払いをした。
「もうすぐブラズニルに到着する。その後、君はマリウスと一緒に軍に身柄を引き渡される予定だ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。父さん――いえ、〝グルヴェイグ〟はどうなるんですか?」
「恐らく、〝グルヴェイグ〟は中央格納庫で凍結された後、中央司令部に送られる事になると思う」
タナカは言いづらそうな表情で下唇を噛んでいた。
凍結……? なんでそうなるんだよ、ふざけんなっ! 〝グルヴェイグ〟は父さんの機体で、父さん自身なんだ! 他人が勝手に処遇を決めるんじゃねぇっ!!
俺はモニターに拳を叩き付け、相手の階級を忘れて抗議に出た。
「待ってくれよ! 〝グルヴェイグ〟は父さんのヴァルキリーだ! その機体を息子である俺が引き継いでも問題ないはずだろ!?」
「君の気持ちは分かる。だが、既にその方向で話が決まってるんだ」
「なんだよそれ!? 俺抜きで勝手に話を進めんな! 誰が〝グルヴェイグ〟の処分を決めたんだ!?」
俺は肩を上下させながら怒鳴り散らす。
タナカは申し訳なさそうに視線を落とし、「それは言えない。すまないが、話はここまでだ」と回線を落としたのだった。




