【幕間】マリウスとニコの会話
シンラ親子が敵をサンドバック代わりにして殴り続けている中、遠くで見守っていたマリウスとニコは懐かしそうに語り合っていた。
『やっぱり、シンラ君とイグニスって親子だね。なんだか敵が可哀想に思えてきちゃったよ』
「そりゃあ、あのシンラ君の血を継いでるんだもん。〝血塗れヒビキ〟の異名は伊達じゃないでしょ」
それを聞いたニコが苦笑いした後、長い溜息を吐いた。
『これからシンラ君と格納庫で二人きりかぁ……』
「シンラ君と二人きりは嫌かい?」
『ヤダ。なんで怒ってるのか分からないし、無言のままピリピリされると気が休まらなくて。今からすっごく憂鬱だよ……』
ニコの本音を聞いたマリウスは「その心配は無用だよ」と笑った。
「多分、ニコが思ってる事は起きないと思うよ」
『え? なんでそう思うの?』
「背後にいる白いヴァルキリーだよ。まだ確信は得られてないけど、あのヴァルキリーには〝ナンバーズ〟じゃなくて、人が宿ってる気がしてるんだ」
『って事は、シンラ君と二人きりじゃないって事!?』
「そういう事だね」
マリウスの言葉を聞き、ニコは『やったー!』と喜んだ。
「同じ地球出身同士、気が合えばいいね」
『うん! シンラ君と二人きりじゃないだけでも、本当に良かったって思うよ! そういえば、パイロットの女の子は大丈夫? 電磁バリアの影響で動けなくて辛いんじゃない?』
マリウスはチラッと背後に浮かぶ白いヴァルキリーを見やる。機体の関節部分にエネルギーラインは通っていないが、操縦桿を握っていないだけで、シンラ親子の戦闘を観察しているかもしれない。
「その気になれば動けると思うけど、地球からここまで一睡もせずに飛んできたんだ。普通なら疲労困憊で動けないはずだよ。それに……」
『それに?』
「彼女が敵かどうかも分からないし、万が一に備えて首輪は着けとかないとね」
『じゃあ、宇宙船に戻ってもビットは着けといたままでいいんだね?』
マリウスはニコの問いかけに頷いた。
「せっかく僕達が何年もかけて地球人は危険じゃないって証明したのに、たった一機とイグニス君と同じ歳の女の子に信頼をぶち壊されるのは嫌でしょ? そうなったら、また丸腰で宇宙空間を漂う旅に出る羽目になるよ」
『それだけは絶対に嫌!! あんなハラハラする旅はもう二度としたくない!!』
ニコが食い気味に答えるとマリウスも「でしょ?」と答えた。
「あの時は運が良かったんだよ。僕とシンラ君を含めて、戦える人間が八人もいたからね。他の宇宙船も自分達の領土を守るのが最優先だし。基本的に部外者はNGだからね」
〝グルヴェイグ〟が敵の舌を引っこ抜くのが見えた。
『あの二人、やりすぎだよぉっ!』とニコの怯える声が聞こえてきて、マリウスは「アハハッ、愉快痛快だね!」と笑った。
「さて、僕達も準備をしておこうか」
『大人に怒られる準備?』
「そう。でも、一番はイグニス君の未来を守る事かな」
『マリウスはイグニス君の事、一番大切に思ってるもんね』
マリウスの見つめる先には〝グルヴェイグ〟がいた。
その〝グルヴェイグ〟を操縦しているイグニスは、マリウスが自分の息子同然に育てた子だ。どうやら、マリウスは初めから全責任は自分一人で負うつもりでいたようである。
『むぅぅ……。なんだかなぁ……』
ニコは複雑な気持ちになったのか、低く唸って黙り込んだ。声音から拗ねていると察したのか、「そんなに拗ねないでよ」とマリウスが笑って空気を和ませようとする。
「ニコもイグニス君と同じくらい家族だと思ってるよ」
『それは充分伝わってるよ。でも、今でも考える時があるんだ。十年前の事件が起こらなかったら、マリウスも自分の子供を育ててたはずなのに。血の繋がった自分の子供がいたら、こんな自暴自棄な作戦は取らなかったんじゃないかって……』
それだけ言った後、ニコは押し黙ってしまった。
ニコが言いたいのは、『自分達の立場が危うくならないような方法があったんじゃないか?』という事なのだろう。
マリウスは眉尻を下げながら微笑を浮かべた。
「大丈夫だよ、ニコ。昔みたいに死にたがりじゃないから」
『マリウスは優しい所が長所でもあるけど、自己犠牲は嫌だよ? 特にイグニス君が絡むと、すぐに飛んでいっちゃうんだから! 考えなしに突っ走る所、イグニス君の影響じゃない?』
ニコの皮肉っぽい言い方にマリウスは苦笑いになる。
「約束するよ。イグニス君だけじゃなく、僕達もここで生きていけるように取り計らってもらうからさ」
『そんなの当たり前だよ! もうっ、やっぱりイグニス君だけ守ろうとしてたんじゃん!』
「アハハ、ごめんごめん。その方が手っ取り早く片付くからさ。でも、ちゃんと気を付ける。僕を叱ってくれてありがとう、ニコ」
『いーえっ、どういたしましてっ!!』
結局、ニコにプリプリと怒られてしまったのだった。




