重ねた手は一年後・裏
ここにいる彼らは音もなく潜んでいた。主に会話は近距離通信だ。
仕事帰りのヴィハーンを追跡する、大きなシートを被った不審者達がいる。
ミウナインとバラヌスだ。
<バラヌス、これって本当にヴィハーンさんにばれないのよね>
<おう、なんせステルスシートだからな。丁度モルグから借りてた>
彼らはメタル駆除の真っ最中なのもあって今の時間も活動していたのだった。
そこでヴィハーンが帰宅したのを発見し声を掛けようとしたが、ステルスシートがあることを思い出して驚かそうと隠れている。
<にしても、ヴィハーンさん。本当に気がついていないのかしら>
<心配性だな。音さえ出さなけりゃ大丈夫だぞ。あ、でも変に引っ張るなよ、壊れちまう>
<ちょっと、取り扱い注意なのはもっと早くに言って!>
音の無い会話は大層賑やかではあるが、その体の動きは止まることなく滑らかに動き続けている。
彼らだって動きのプロ。物音一つ立てず、気配無く動くのは簡単な事だった。
だがヴィハーンを驚かせた場合、反撃が怖い。
どうしようか悩んでいるうちに、結局店の前についてしまった。
<中々隙が無いのね、ヴィハーンさんって>
<ただ驚かすのはいけそうなんだけどな。その後を逃げ切れる自信が微塵も湧かねえ>
ヴィハーンが店に入ったのを確認して、退散しようとしてすぐだった。
『ヴィー、おかえりなさい!』
<え、シャオちゃんまだ起きてたの? 不健康だわ!>
<旧人のチビは早く寝て背ぇ伸ばさねえと、死ぬまでチビのまんまなんだっけか?>
そう二人でぼやきながらも、スススと店の壁に近づき耳を澄ませる。
まあ、盗み聞きだ。
『今日……フィッシュさん……の……友達と……』
『何を……必要は……』
<お、ケンカか?>
<そういえば昼にそんなこともあったわね>
彼らと二人の間には建物がある。今脅かせば正体が発覚することも無く逃げ切れるだろう。
バラヌスが壁を叩いて茶々を入れてやろうと腕を思い切り振り上げた。
『今急がないと、私、みんなに置いていかれちゃう』
バラヌスの腕が止まった。
だが、外の誰かの事など知る由もないシャオ達の会話はどんどん進んでいった。
『私ずっと勘違いしてたんだ。ヴィーは強いから、私はいるだけで良いんだって。傍に居れば、それだけで遠くに行けるんだって』
どこか悔やむようなシャオの声に、二人は隙を伺うのとは違う意味でじっと耳を澄ませていた。
だが、そこでバラヌスは二人の会話が終わる前にその場を離れだした。
<ちょっと、急に動かないで頂戴。ちゃんと話を聞いて、私もヴィハーンさんの事説得しないと>
<いや、これはやめとくもんだ。あれは二人だけの会話ってやつだからな。外野が手出し口出ししちゃダメなやつだ>
<……よく、分からないわ>
不思議そうなミウナインにバラヌスは一言だけ返した。
<俺だってわかんねえよ。言っただろ? あれは二人だけの会話ってな>




