裁縫の街にて、今は無きだれかの記録
モルグが裁縫の街で拾ったコア。
あるアンドロイドの壊れたコアから抽出した映像。
コアの損傷により画質が悪く詳細な情報を読み取ることは出来ないが、黄色いスカジャンのアンドロイドと全体的に白い服装のアンドロイドが向き合っているのがわかる。
その周りでは数人の人影が佇んでいた。その影達はすべては白色に体を向けていた。
音声は無い。会話は情報として入力されているだけだった。
白いアンドロイドが何かを頼んでいる。黄色い男はそれを静かに聞いていたが、白い男が話し終えたところで首を横に振った。
『そういう話なら、俺たちは拒否する』
『……理由を、お聞きしても宜しいでしょうか』
黄色の拒否に、白色は悲しそうに問いかける。
だがその悲しみに黄色は関係が無い。
『世界が復活したところで結局俺達はロボットのまま。なら今のほうがよっぽど『人』だ。それに……』
そういって、周囲に佇む人影を見やる。
『俺達の中には、謂れなき罪で全てを奪われた者もいる。いい気味だと思うこそすれ、助けようとは思わない』
『それは……』
それを聞いた白色は言葉に詰まる。黄色の言葉に思うところがあるのか、反論できないようだった。
『俺達ロボットに一回も命令せず、ずっと真摯に向き合う人は初めてだ。何かしてやってもいい程度には気分がいいが、俺達を踏みにじった奴らのためになることだけはしたくない』
『ならば、せめて部品を……いえ、失礼いたしました』
白色は当初とは別の要求をしようとしたが、思うところがあったのか謝罪をした。
それを聞いて黄色は一つだけ頷いた。
『言い淀んだその善性を信じて、その謝罪を受け取ろう。争う理由を作る必要もあるまい。……だが、このままでは全員動けなくなるのは目に見えている。俺個人としてそれは避けたい』
黄色は白色の機体を頭から先までじろりと観察する。
腕を組み少し考えると。何か思いついたのか手を一つ叩いた。
『そうだ、もしよければ整備をしよう。貴方の機体は見るだけでも悍ましいからな。今はこの場を外しているがそこそこ機体に詳しい奴もいる。どうだろうか。自身では触れない部位もあるだろう?』
黄色の発言を見るに、白色の機体は見るに堪えない構造になっているようだ。
なので機体に詳しい仲間に見てもらう事を提案したが、それは白色自身が拒否した。
『申し出はありがたいですが、これらは全て無事だった機体達から取り出した部位を組み合わせたものなのです。止むを得ない間に合わせとはいえ、今はこれが効率的ですから』
『そうか! 貴方がいう事ならば間違いはないのだろうな』
白色の拒否にも黄色は特に気分を害した様子もなく、カラカラ笑った。
この場で笑っているのは黄色ただ一人だけだった。
『応援は出来ないが邪魔もしない。それと引き換えに、貴方も俺の仲間たちには手出しをしないでほしい』
『ええ、了承いたしましょう。……それだけでも、十分です』
その対話を最後に、互いの機体の内部に何かがキィーンと書き込まれる。
黄色は自身の胸を軽くたたき、何かを確認した。
『これで契約成立だな。そうだ、今此処にいない仲間のデータを送ろう』
『はい、感謝いたします』
『ところで……』
黄色はずっと気になってた事を口にする。
『なぜメタルを握っている? 貴方のペットか何かだろうか』
『少々、手を加えようかと思いまして』
白色はメタルを握りこんでいる右手を見下ろした。
『旧人が此処に迷い込んだ時のために、安全地帯を作ろうかと。周囲のメタル達を捕食するよう飢餓を埋め込もうと思うのです。稼働時間を伸ばすため、捕食したメタルで自己修復もできるようにする予定です』
『そうか。俺の知るところではないが、上手く行くといいな』
白色の黒い手に握られているのは、手のひら半分程度の大きさの蜘蛛のメタルだった。
…………。
そこで情報の抽出が終わる。情報源である壊れたコアを手にしていたモルグは疲れたようにため息をついた。
「これもはずれだったか。そろそろ金庫なり倉庫なり、暗証番号の記録でもほしいのだがね」
それだけ呟いて閲覧済みのコアを乱雑にゴミ箱に放り投げる。
箱の中には他にも不要となった、もう覚める事のない壊れたコア達が捨てられていた。




