32話 急ぐ子ども達②
——カランコロン
「シャオー! 遊びに来たよ!」
「おう、邪魔するぜ」
LUBANにて、クソガキと言われたシャオがプンスカ怒っているところにエリオとナルギレが店に入ってきた。
「フィッシュさんのなんか、こう、バカー! ……あ、エリー! いらっしゃい。ナルさんは今日は何の御用なの?」
「おう、今使ってるケースの形は変えずに色彩デザインだけ変えてーんだけどよ」
へらへらしながらナルギレはカートリッジの詰まったケースを取り出しカウンターに乗せると、シャオ達に声をかけた。
「丁度いい、シャオちゃんにミウナインのお嬢さん組と……ここらでは無さそうなセンスの持ち主のエリオに頼んでいいか?」
「いいよ。期待して待ってよね」
「頼むぜ、形は変えないでくれよ」
そう言って手を振り店の奥へ行く。ナルギレの手の動きを見てフィッシュボウルが何かに気がつくと、無言で後を追っていった。
「ピンクが良いんじゃないかしら。触り心地もよくしたいわね。ポンポンもつけたいわ」
「落としても見つけやすいように蛍光色にするのは? この間ヴィーについてたやつ」
「でもナルさんって、駆除業者なんだろう? あんなの付けたらメタルに見つかってしまうよ。あ、そういえばこの前会った沼地の住人の……」
シャオ、ミウナイン、エリオの三人は目の前のケースのデザインをどうするか夢中になって、色々な案を出し合っていた。
◆
「なんだい? わざわざあの子らのけ者にして」
「あーあ。このタイミングだとエリオ君についてだよね。いい子だと思ってたんだけど。それで?」
「……エリオな。やべえぞ、ガキだった。16歳」
そう言ってわなわなと震えるナルギレを、フィッシュボウルは呆れたように見ていた。
「はあ、今さら? どう見てもそうだったでしょ。本人も隠してないじゃない。ユゥインは?」
「知ってるよ、シャオのいいお友達さ。まあ外に出て一年らしいし、もっと幼いと思ったほうが良いだろうね」
ユゥインも既に知っていた。よく遊びに来るのと、一度機体を見せてもらった事で大体の見当はつくのだ。
自身の焦りは周回遅れだったと知ると、ナルギレは深くため息をついた。
「お前さんらは知ってたのか。……はあーあ。儂ももうちょい関わってやるか」
「そうしな。エリオも経験が必要だからね。ドールらしくあたしらの常識はすっからかんさ」
店の奥からナルギレとフィッシュボウルが戻ってくる。
先ほどと変わらず話し込んでいるシャオ達が集まるカウンターにはカートリッジケースが置かれ、その横には紙に色んな絵が描かれていた。
「ナルさん。色んなデザインの案が出たよ、どれがいい? 僕の一押しはドラゴンさ」
「あー。形さえ変わってなけりゃ別に……」
適当に返事をしたナルギレだったが、フィッシュボウルに肘で突かれて促される。
まあ頼んだのは自分だし、と紙に目を通すと、そこには様々なイラストが所狭しと描かれていた。
「こらまた、個性的な……。まあ参考にしとくぜ」
「決まったら完成したケース見せてね」
「せっかく考えたのよ。面倒くさがって『やっぱなし』はダメなんだから」
シャオとミウナインに「へーへー」と適当に返事をするナルギレだが、いずれは決めるだろう。それがいつになるかまでは分からないが。
「それでさっきの話、どうかな?」
「アタチは反対。もうちょっと大きくなったらにしたほうが良いわ」
「んー、今は想像つかないや。でも行ってみたいな」
「何の話か分かんねえけどよ、別にいいじゃねえか。シャオちゃんの時間は有限なんだしよ」
ナルギレ達がこの場を外している間に、三人の間でなにか話が進んでいるらしい。
内容こそ知らないが、『やらない後悔よりやる後悔』の彼はとりあえず賛成することにした。
それにミウナインがムッとして睨みつける。
「話わかんないのに適当なチャチャ入れないで! 足がちゃんと治ったら、エリオ君とシャオちゃんの二人だけで遠出するって話よ」
「そら駄目だ。昨日の今日でまた飛び出すのはやめてくれ。せめて二十年後ぐらいはだな……」
ミウナインから簡単な事情を聴いたナルギレはすぐに反対派に回った。
だがシャオとエリオがそれに不満そうな顔をする。
「二十年後!? 私がもう二人出来ちゃうよ!」
「そうだよ、もう一人の僕が出来てもまだ四年も時間が余るじゃないか!」
二人で反対すると、ずっとダンマリだったフィッシュボウルが面倒そうに話した。
「あのさ、そうやって人の心配に駄々をこねる事でしか反対できないからクソガキなんだよ」
それをきいたシャオとエリオは見るからにしおしおと落ち込んでいた。
ずっと立っていたフィッシュボウルがカウンターにもたれて力を抜く。しばらくして、フィッシュボウルが人差し指を立てた。
「一年」
「……え?」
突然の年数に、何のことか分からずキョトンとする二人の様子は無視し、フィッシュボウルは言葉を続けた。
「集落の暇人全員でみっちりしごくから。それなりになったら、背中ぐらいはおしてやるさ……エリオ君」
「なんだい?」
突然の名指しに戸惑い、不安げにエリオはフィッシュボウルを見る。
無理もない、今までこの二人には殆ど関りと言うものが無かった。
そんな希薄な関係性のはずの彼に、フィッシュボウルは手を差し伸べた。
「きみさ、集落に来ているときはいつも野宿でしょ。ここにいる間の拠点は俺のとこ使いな」
「え……、でも、なんで」
「見てらんないからだよ。それにいずれはやんなきゃ先の方には行けないんだから」
彼は次にシャオの方をみると、見られたシャオは何のことかわからず、ぽかんとしていた。
そのことでフィッシュボウルの声色は更に呆れに呆れを重ねたものになる。
「何『わからない』って顔してんのさ。シャオちゃんもだよ。都市部に行かないとヴィハーンの部品は手に入らないんだ。伝手だけじゃない。お前自身が出来る事を増やさなきゃ、入手は愚か、辿り着くことさえもできないよ」
その時、店の戸が開いた。
入ってきたのは耳の大きな狐頭の小柄なアンドロイドのルピだ。その腕には泥まみれのポピーが抱えられている。
「ドール、これお前のだろ。泥に沈んでピーピー鳴いてたぞ」
「ポピー!? ごめんよ、僕としたことが!」
「ぴぃいい!」
駆け寄り受け取ったエリオの手の中でポピーは高速回転をし、遠心力によって全身の泥をまき散らし始めた。
「うわ、ベタベタだ! 謝るからやめてくれ!」
ポピーの攻撃により泥がまき散らされ、エリオの服どころか店内まであっという間にどろどろになっていった。
それを見てナルギレは面白げに笑う。
「置いていかれたのが余程悔しかったみてえだな。にしてもよく見つけたな。埋まってたんだろ?」
「仕方がないだろ。あんな鳴き声、耳に突いて放っておけないよ。今だって集音機能を限界まで下げてるんだぞ。……なんか大事な話でもしてたのか?」
ルピは耳をぱたりと畳んで、居心地悪そうに肩をすくめた。
その光景をフィッシュボウルは無言で眺めていたが、隣で固まっている二人へ視線を戻した。
「……で? 一年。やる? やらない?」
「「おねがいします!」」
覚悟を決めた二人の様子と、それを見守るアンドロイド達という空間に途中から乱入したルピとポピーは訳が分からず、ただ目を瞬かせていた。




