31話 急ぐ子ども達①
一か月後。
アマイズとブルーは挨拶も無く姿を消していた。
だが、それにとやかく言うアンドロイドは一人もいない。
ユゥインはすでにお代はもらっていたから関係ないと、特に何か言う事はなく。
集落の住人達でさえ彼らの不義理に怒るアンドロイドは誰もいなかった。
「あれはねえ……」
「引き留めるとか可哀想な事出来ないよ」
問いかけるシャオに集落のアンドロイド達は皆揃って気まずげな顔をしていた。
あれだけ仲の良かったウィンズバークさえも特に怒っていないようだった。
「シャオちゃんはまだ子供だからわかんないかな。そういうのも含めて魅力的なのよ」
「ガキじゃなくてもわかんねえだろ」
「ナルギレうるさい」
◆
「いろんな事、もっと教えてほしかったなあ」
シャオは彼らの事を思い出しながらカウンターの椅子に座り、足をぶらぶらさせていた。
今日はエリオと遊ぶ約束をしているので、お店で彼が来るのを待っているのだ。
まだ長距離の探索は心配ということで、週に一回の日帰り探索を除きシャオはもうしばらくは集落でのんびりとする予定だ。
ちなみにヴィハーンはいない。遠出するアンドロイドに同行して護衛の仕事だ。
そして今現在、店内にはミウナインとフィッシュボウルが滞在している。
それぞれ仕事道具の修理依頼と、修理が完了した雑貨の受け取りで来ていた。
先ほどのシャオの言葉を拾ってミウナインが反応した。
「あら、ブルーさんに会いたいの? ウィンズバークさんに聞いたらどうかしら。……発信器を付けてたもの」
「あれね。気持ち悪いよ。もうみんなで見なかったことにしたもん」
どこか沈痛な雰囲気の二人に、シャオは不思議そうにした。
シャオの指輪にはヴィハーンが登録されており、マップが完成した場所ならば同じエリア内にいる限り彼の居場所がいつでもわかる。それを変に思ったことはない。
シャオにはウィンズバークの発信器との違いが判らなかった。
「そ、そうなのかしら……?」
それを聞いたミウナインは首を傾げつつも納得しようとしたが、フィッシュボウルが手を振り否定した。
「あー、うん。全然違うから。ミウナインは……もうちょい経験積めばわかるさ」
「ちょっと、アタチの事子ども扱いしてるでしょ!」
「まさか、お嬢さん扱いだよ」
穏やかに話すフィッシュボウルに椅子から降りたシャオがススス……と近づく。
それを見て面倒くさそうにするフィッシュボウルにかまわず、彼の前に出るとシャオは自身を指した。
「私は?」
「ん? クソガキ」
ところ変わって、エリオが集落の中をスキップしながら練り歩いている。行き先はLUBANだ。
そのあとを追ってポピーが転がっていた。
「おうおう、エリオじゃねえの。今日もご機嫌だなあ」
そこにカートリッジ片手にぶらつくナルギレに声を掛けられた。
エリオはこの集落の住人とは殆どが知り合いになっている。
ここに来てから一か月半、ゲペレペンゲやシャオ達と一緒に集落を案内された際にほぼ全てのアンドロイド達とはもう顔見知りだ。
とはいえ……。
「貴方は確か……ナルさん!」
「ナルギレだ。まあ、そもそも自己紹介してねえもんな。しゃーねえ。いいぜ」
初対面の存在を最初から受け入れるようなアンドロイドは少ない。シャオは状況だけでなくその後ろ盾の存在、本人の無力さもあって例外だった。
特に彼は旅に出ると公言している。それもドールの様な世間知らずなど、外に出た時に何を言いふらすかもわかったものではない。
それもあってエリオは個々人の情報を知る機会はほぼ無く、住民の名前はシャオの呼び名で覚えていた。
(ゲペレペンゲ、モルグ達を信頼して明かしたアンドロイドもいる)
今回ナルギレが名を明かしたのは、今までの様子を基に大丈夫だろうと判断したからだった。
「そういやお前さん、旅に出るんだっけか。見送りぐらいはしてやるよ、いつ出るんだ? 」
ナルギレはエリオの事を手放しに受け入れたわけではないが、まあ住人の恩人ではあるからと気には掛けていた。
それもあって見送り程度ならしてやろうと思っていた。
「もう旅は再開してるよ、今日は遊びに来たんだ。先週は沼地の人たちと交流してね。シャオにも教えてあげようと思ったんだ」
「はあ? もう出歩いてるとか『生き急ぎ』か? 若造みてえなこと言いや……」
『生き急ぎ』とは、機体にもかかわらず、百年程度しか生きられない旧人の様な考えの者達を指す言葉だ。主に時間感覚の未熟な若い個体に多い。
人口調整のため新たなアンドロイドの製造がほぼ無くなった近年においては、精神年齢を揶揄する言葉、もしくは死語に等しい。
彼らの期限なしの予定は一、二年どころか十年ぐらい伸びるのは普通なのだ。
アンドロイドの基準で考えるとエリオの行動は異様に早い。そのことにナルギレの言葉が詰まる。
待て、と言いたげに手を前に出し「あー」やら「だー」やら、何かを言おうと悩んでいたが、しばらくして意を決すると漸くそれを口にした。
「……ウェイストドールのお前さんは災害後に外に出たんだっけか。んで、歳は」
「起動したのが16年前だから、歳もそうだよ」
ナルギレが突然天を仰ぎ見るように体をのけぞらせ、色々と堪えるように震える。
エリオはそれを不思議そうに眺めていたが、気になってつついたところでナルギレの叫び声が炸裂し、驚いて目を丸くする。
「~だぁああ! 若造どころか、でかいだけのシャオちゃん(子どもと言う意味)じゃねえか! そうだよな、外出たの二年前だもんな!」
突然の大声に驚いたポピーは飛びのくように下がると、下がりすぎてぬかるみに嵌ってしまった。
すっぽり埋まるほどの深さで、嵌るというよりは沈むといったほうがいいだろう。
それに気がつかず二人は先に進む。
「違うよ、一年前だよ。それとシャオが大きくなっても僕にはならないよ」
「そういう意味じゃねえよ! ったく」
ナルギレは深くため息をつくと、エリオの後をついていく。
聞かずとも行き先はわかっていた。




