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27話 少女が寝静まる夜


 シャオが寝静まった夜。

 ユゥインがシャットダウンして横たわるアマイズと彼の相棒の頭部を修理していた。

 いつもと違う服装だ。それは体全体を覆い、外気と触れ合う穴もなく、チリ一つ落とすのも許さないだろう。

 

 そこにヴィハーンがやってくる。特殊塗料によって、その姿にはノイズがかかっていた。

 

「なぜ治す。衣服は焼却処分して機体はパーツにすればシャオも気が付かない。しょせんロボッ——」

「ヴィハーン。それをあたしに言うのか。修理屋のあたしに」


 ユゥインはヴィハーンに目もくれず、吐き捨てるように返事をする。

 だが、ヴィハーンも引かない。


「そいつらの仲間の機体を以前見た。この店に襲撃経験がある個体だ。お前も見ればわかる」

「そうかい。でもこの二人に関しては見たことが無いねえ」


 ユゥインは返事は返すものの、それだけだ。手を止めることも聞き返すこともない。

 二人の間に無言の空間が流れる。

 先に動いたのはヴィハーンだった。

 

 しびれを切らし、彼に背を向けたまま修理を続けているユゥインに近づくと手を伸ばし、ロボット達から引きはがそうとした。

 その時、空気のかすれる音がする。

 

「……!」


 すぐに発生源へ反応したが、そのまま崩れ落ちていく。

 静かになった空間の中、しばらくすると潜んでいた者達が現れた。

 

「悪いね、助かったよ」

「いいって事よ。ユゥイン嬢には普段世話になってんだ。儂らの事はいくらでも使ってくれ」

「お姉さん、出番なかった……」

 

 ナルギレとウィンズバークだ。

 ナルギレはいつもと変わらぬ格好だが、ウィンズバークはユゥインと同じように全身を覆っている。

 ウィンズバークは入り口を開けて換気をし、しばらくすると防護服を脱ぎ一息ついた。

 

「はぁーあ。ま、いっか。ついでに巻いちゃおーっと」


 そのまま腕にSpd溶液のカートリッジを取り付けると、指先から糸を出してヴィハーンをグルグルに巻く。万が一目覚めても動けないようにした。


「これで儂のニート生活もおさらばか。もうちっと味わいたかったんだがな」

 

 ナルギレの煙はアマイズが懐に入れていた幻惑液だ。彼は不良品と断じていたが使い方を知らなかっただけで、それは本物だった。

 勝手に拝借したナルギレだったが、久方の煙にも関わらず彼に喜ぶ様子は見られない。壁にもたれながらだるそうに椅子に座っている。


「あら~。これ以上ニートする気なら以前の職場と似たところに紹介するつもりだったけど、そっちの方が良かったかしら?」


 その言葉にダルそうな気配を吹き飛ばし、シャッキリと直立不動で胸を張るように立ち上がった。

 

「いやー! 仕事ができるって素晴らしいよなあ! ……声はかけてねえよな」

「かけられたのよ。とりあえず知らないって言っといたわ」

「おぅ。なら助かったぜ」


 そう軽口を交わしながらも、二人の視線がヴィハーンから離れることは無かった。

 二人は十分に彼の恐ろしさを。正確には現代での戦闘型の厄介さを知ってるのだ。


「まさか、ヴィハーンが脅威になる時代が来るなんてね~」

「あー? 昔っから十分に厄介だったろ」

「それはそうなんだけどー。今って遠隔での電脳戦が出来ないじゃない。今みたいな不意打ちじゃないと、暴力直結タイプの彼には抵抗さえできないわ」


 うーん、と悩む二人に、ユゥインは手を休めることなく声をかける。


「なに、そう心配しなくても大丈夫さ。シャオがいる」


 ユゥインは自信を持ったような口ぶりだったが、二人はそれを聞いても訝しそうにしていた。


「え、ぇえ? あんなか弱い子が?」

「いやあ、無理だろ。仮にスッ転んだこいつを受け止めようもんなら、潰れて死ぬな」


 信じられない二人。だが気にすることなくユゥインは笑った。


「何があったかは知らないけどね。シャオがいなけりゃヴィハーンは此処までやられていないし、あたしを押し退けてでもこいつらを破壊しようなんてしないよ」

「んま! まさかラブの予感?」

 

 嬉しそうにするウィンズバークと、その反対にウヘェ、と見下ろすナルギレ。

 

「ラブっつーよりかは執着だろ。多少の情はあれど二面性が酷ぇ。……不健全だよなあ」


 彼らはシャオが酷く傷ついた原因が今現在修理中のロボット達である事を知らない。

 少しでも間違えれば死ぬところだったことも。

 シャオにちょっかい出しただけのロボットをヴィハーンは破壊しようとしていたと思い込んでいるのだ。

 だが、知ったとしても少しばかり脅すか機能を奪うだけで、ヴィハーンに協力することはない。


「今はどいつもこいつも死んだら終わりなんだぞ。それをちゃんと分かってんのかねえ」


 ヴィハーンがしようとしたことはこの世界において、まさに『殺人』そのものだったからだ。

 だが無邪気に妖しげに笑うウィンズバークは目が爛爛としている。普段服の中に隠されている腕がざわざわと蠢めいていた。

 

「分かっているからこそでしょ。そういうトコ、痺れちゃう!」

「ウィンズバーク。あんたは男の趣味をどうにかしな」

 

 ユゥインは修理を優先していることから見てはいないものの、長年の付き合いから大体察している。

 ウィンズバークを呆れたようにたしなめた。


「……ん?」

 

 ところが何かに気がつき、その作業を中断した。


「ちょっと、そこのバカをこっちに持ってきてくれないかい、こいつら中々のやり手だよ」

「え~。ヴィハーンって重いのよねえ」

「仕方がねえ。モップがてら引きずるか」

 

 動かないヴィハーンを二人で動かし、何とか作業台の横まで動かし、糸を解く。

 そのまま観察するには認証揺れで見づらいヴィハーンに除去液を刷毛で塗ると、たちまち捲れ上がるように蛍光色の塗装がはがれていき、見えなかった内部のダメージが露となった。


「こりゃ、とんでもねえな。しかも外殻越しだろ?」

「ああ、生首野郎の電脳戦で使う部品が焼き付いていたから、まさかとは思ったけどね」


 ナルギレが見たのはシステムへの侵入痕だった。接続端子からではない。足首の感覚神経からの侵入だ。

 本来侵入経路ではない場所からの乗っ取りは、可能・不可能以前にそもそも考慮されることが無い。


「上級アンドロイドのような絶技じゃないとはいえ、こればっかりは感服したよ。発想の勝利さ」


 ユゥインは興奮したようにヴィハーンを開き、彼がどのような目に遭ったのかを暴く。


「そのうえで完全に掌握されなかったのはシステムの規格が違うからだよ。あいつ公式のメンテ受けたことが無いらしいんだ。バージョンが古すぎたんだよ」

「修理屋嫌いか? ガキかよ……。親父さんよく説得できたな」

「なんか通じるものがあったんだろうね。ま、その親父が公式メンテの代わりにいじくりまわしたせいで、あたしでも中枢部には干渉どころか閲覧さえ出来ないのが難点だけど」

「ダメじゃねーか」


 次々と開かれる外殻。さらには内殻まで。そして内部のショート痕が顕になる。

 それらは全て、ヴィハーンにつけられた後付けの防御機構が全て作動できないよう妨害する位置に点在していた。


「や、やだ。凄すぎ」

「ほぉー、痛覚機能がある機体だっつーのに、よくバレなかったな。内部だろ?」

 

 はわわ、とウィンズバークが目を輝かせながら再度震え、ナルギレも感嘆の息を吐いた。

 ここにいる全員がヴィハーンの強さを知っている。ゆえに、この凄さも感じ取っていた。

 

「こんな性能の低い機体でこんな滅茶苦茶、なんて泥臭いの、素敵!」

「……癖に刺さったか。どうしようもねーなー」

「まあ、そういうのは個人の自由さね」


 獲物を定めた彼女の言葉に、二人は可哀想なものを見るように未だ目覚めぬ頭部を見やる。


「大体の応急処置は明後日までには終わらせるから、その後なら好きにしな」


 次の瞬間、ユゥインの目の前にズイと袋が差し出される。下手人はウィンズバークだ。

 ユゥインがそれを受け取り袋の口を開くと、中には高圧縮のエネルギーチップや新品未使用の最新コアチップが入っていた。

 

「お代は私が払うわ。この子のお友達の分もね」

「任せな、明日の昼には目覚めるさ。明後日には首から下もつけといてやる。最終調整は一ヶ月後だ」


 ゆったりと隙間時間で修理するはずだったが、ウィンズバークが全て費用を負担して正式な仕事となるなら話は別だ。

 ユゥインはヴィハーンを手早く元に戻し、ウィンズバークが再度糸で巻いたのを確認するとすぐに作業に取り掛かった。


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