26話 戻ってきた流れ星
真夜中の集落内の外周付近。一体のアンドロイドが佇んでいる。モルグだ。
昨日ヴィハーンがシャオを追いかけてから、彼はずっとここで待っていた。
(どうか、無事で。ゲペレペンゲ、シャオ君、ヴィハーン君)
彼が此処にいるのも、自責の念に駆られていたからだった。
全くの見当違いなのだが、そのことを知る由もない彼は責任感から彼らが戻ってくるのを一人、此処で待っていた。
その時、遠くからモーター音が聞こえる。聞き覚えのある音。バイクの音だ。
「来たのか!」
走るには適していない機体ゆえに、ゆったり歩いているように見えるが、彼なりの全速力で走り彼らを迎えに行く。そこには予想通りシャオ達がいた。
「シャオ君、ヴィハーン君! ゲペレペンゲ、無事で——」
……だが、そこにゲペレペンゲの姿は見えない。
(そうか、覚悟はしていたが。中々来るものがあるな)
荷台から微弱な信号を感じ、せめて遺品だけでも、と中を覗き込む。
そこにはアマイズとフードの男の頭部があった。
「……いや、誰だい? 彼らは」
困惑してそのまま固まるモルグだったが、反対にアマイズは突然真っ白なデスマスクに覗き込まれた事で恐怖から叫び声をあげた。
「ギャー! なんで死神が!」
「は? また懐かしい呼び名を……」
「裁縫の街でいろいろあった不良だよ。ゲペちゃんはエリーとポピーと一緒に歩いて来るって」
「エリー? ポピー? 誰なんだいそいつらは」
モルグはシャオの話ではよく分からず、ヴィハーンに説明を要求しようとした。
しかし、彼の姿を改めて見たモルグはドン引きしたように後ずさる。
「……ヴィハーン君。 とんでもないものを被ってきたね。情報が無いのに読み取り機能だけ反応するから、今の君は全身モザイクだらけだよ」
「お前は読み取り機能だけは高性能だな」
「やつがれはそういう生まれだからね」
モルグはどこからか取り出したハンカチをかざして自身の視界に入らないようにしていた。
◆
「シャオ! あんたって子は、本っ当に! 一体全体どれだけ心配したか! 生きてて、よかった……」
「ご、ごめんなさい……」
店に帰ってきたシャオ達を見るなり慌てて駆け寄るユゥインを見てシャオは改めてとんでもない事をしてしまったのだと思い知った。
「ユゥイン。いまシャオは酷く右足をくじいている。適切な処置が必要だ」
「了解」
ユゥインはシャオの怪我を知るとすぐに切り替えた。
てきぱきと動き、腫れあがった足首に濡らした布を巻き扇風機で風を送る。気化熱で冷やしているのだ。
「氷があればいいんだけどね。あいにくウチは冷却スプレーしかないんだよ。悪いね」
「これでも十分なのに。ありがとう、イン」
昔、村でくじいたときを思い出す。村には医者がいないので、自分でやるしかない。それと比べればユゥインの動きはお医者さんそのものだ。
手当てしてもらった足を嬉しそうに上げるシャオを眺めていたユゥインだったが、ふと入口に目をやり一つため息をつくと、佇む人影へと声をかける。
「何ぼさっとしてんだい。客ならとっとと入んな」
そこにいたのはシャオと共に来たことで契約が達成し自由の身となったアマイズ。
それと彼に抱えられたまま、未だ目覚めぬ相棒の頭部だった。
アマイズから頭部を受け取るとくまなく観察し、考え込むように唸る。
「運がいいね。このタイプは記憶領域を胴体に埋め込むのが主流なんだ。頭部のコアもほぼ無傷。機体が出来次第取り付けるよ」
「あ、ありが、とう……知らんかった」
アマイズは力が抜けたようにぼそぼそ呟く。応急処置程度なら出来ても、専門的な事となると大まかな事しか分からず不安だったのだろう。
ガチャーン!
店の入り口が弾けるように開かれる。勢いが良すぎて蝶番が変に折れ曲がっていた。
そんなことは気にせずドヤドヤと複数のアンドロイド達が入ってきた。
「シャオちゃん!」
ミウナインだ。他にも多くの集落のアンドロイド達がやってくる。
「みんな……」
シャオは気まずさから俯き、彼らから目をそらす。失望されるのが恐ろしかった。
そんな少女にアンドロイド達は——。
「バカバカバカ! 心配したんだから!」
「一人で飛び出しちゃってよぉ。ゲペレペンゲの事はみんな心配してたんだ。ヴィハーンが忙しそうなら他の誰かに声かけろよ。な?」
「お姉さん、頼りなかったかな?」
予想と違う彼らの様子に、シャオは返事が出来ず、戸惑ったように眺める。そんな少女に、バラヌスが寂しそうに呟いた。
「あのな、お前の仲間はヴィハーンだけじゃねえんだぞ。そりゃ、あいつと比べれば頼りねえかもしれねえけど」
その言葉に、シャオは目を見開く。
(私、ちゃんと皆に受け入れられていたんだ……)
そう思うと胸がぎゅっと苦しくなり、その熱が目元にも昇る。
ついにはこらえきれず、ポロポロとあふれ出した。
「な、泣くほど嫌だったか……?」
「ウィンズバークが怖かったな。可哀想に」
「ぶつわよナルギレ」
「モルグだけじゃ遅いから、アタチもみんなに教えてくる!」
そのあともシャオを心配していた集落のアンドロイド達がひっきりなしに来店し、それは店主のユゥインが痺れを切らして彼らを追い散らすまで続いた。
◆
ミウナインが店を出てすぐ。あたりは真っ暗だった。
その中の入口からは見えない場所で、フィッシュボウルが腕を組んで壁にもたれかかっていた。
「フィッシュボウル。シャオちゃん元気だったわ、会わないの?」
「んー、今はいいや。疲れちゃうといけないしね。それより早くみんなに教えてあげな。きっと喜ぶさ」
「ええ、わかったわ!」
ミウナインが去った後も、フィッシュボウルはしばらくその場にいた。
そしてぽつりと呟く。
「もう、戻ってこないと思ったんだけどね。……まあ良かったよ」
フィッシュボウルは大きくため息をつくと、そのまま去っていった。




