24話 砕けた道しるべ
シャオを抱き上げたゲペレペンゲ。
荷台に乗ったアマイズと仲間の頭部。
その荷台をつなげたバイクを押すエリオと足元を転がるポピー。
彼らは道標のように落ちている蛍光色の塗料片をたどりながら歩いていた。
蛍光色の破片については、ヴィハーンと一緒に行動していた経緯をゲペレペンゲが聞き出していた。
ヴィハーンが来ていることを知ったシャオとゲペレペンゲは、このまま帰ることはできないと彼を探すためにこの町の奥、観光エリアからは外れた工業エリアへと進んでいた。
エリオとポピーは両手が塞がるゲペレペンゲのお手伝いだ。
「忌避機って便利だね。僕たち、こんなに気軽に歩いたのは久しぶりだよ!」
ご機嫌に歩くエリオは今まで忌避機の存在を知らなかったのか、警戒せずとも過ごせることに嬉しそうにしている。
ポピーはエリオが上機嫌であることが嬉しいのか、一緒になってご機嫌になっていた。
だがエリオ以外のメンバーは皆どこか緊張している。一番ひどいのはアマイズだ。酷く怯え、何度もやめるように訴えていた。
「やめるわけないじゃん。それに、君よりもヴィーのほうがよっぽど信頼できるんだから」
「そのヴィーってやつと喧嘩したからここに来たんでしょ。それにあいつ絶対にイカれてるって!」
何とかシャオを説得してヴィハーンを置き去りにし、『安全な場所』である集落に共に行くことで契約を成し遂げようとアマイズは説得をする。
しかしシャオはそっぽを向くばかり。地面にポツポツと落ちている蛍光色の小さな破片を目で追っていた。
いつしか周囲の風景は温かみのあるレンガの街並みから一変。無機質な工業地帯へとたどり着いていた。
「ヴィーさん? という人に凄く酷い事をしたんだろう。そりゃ怒るよ」
エリオはアマイズに自業自得だと言うが、アマイズは反論する。
それと一緒になぜかポピーも。
「弾丸も使わずに素手で殺そうとしてくるとか! 怒ってもあんなこと普通やんないんだよ!」
「ぽーぴ、ぽーぴ!」
「ポピー君はどうして一緒になって同意しているの?」
ポピーをみてゲペレペンゲは困惑するが、シャオは集落でのポピーとヴィハーンとのやり取りを思い出し、さもありなんと頷く。
「ポピーってヴィーに凄く怒られてたから……。どう見ても、仲良しなんかじゃ、なかった、かな……」
ポピーのやらかしに対する叱咤。ただその対応がよろしくなかった。
砂まみれのまま、テーブルに乗せろとせがんだポピーを拾い上げるとダストボックスに放り込むヴィハーン。
チョロチョロとじゃれるように足元を転がるポピーを、横の水路に蹴落とすヴィハーン。
瞬間を見た訳じゃないが、探索について来たポピーを襲い掛かってきたメタルに投擲するなど。
色々と雑な扱いだったのは否めない。
ゲペレペンゲはそれを聞いて驚き、目をきょろきょろ動かす。
「僕がいない間にそんな事になってたんだ。集落の皆は驚かなかった?」
「驚くって言うよりは……困惑?」
シャオが思い出す集落の皆は、ポピーとヴィハーンのやりとりを見ては戸惑ったり、面食らったりとしていた。
『あんたたち相性わるいねえ。あたしらは見ていて愉快だけど』
ユゥインが彼らのやり取りを見て呆れたように呟いていたことを思い出す。
「ポピーの魅力はちょっとやそっとじゃ理解できないからね。知ればヴィーさんとやらもやみつきさ!」
この中で唯一ヴィハーンを見ていないエリオは、まだ見ぬ彼の姿をどんなものかと思いを馳せていた。
そうこうしている間に、一行はついに立ち止まった。
「あちゃー。これは……」
「え、なんで止まったの? オレ周囲の状況分からないんだけど」
大きな金属製の煙突が折れて道をふさいでいる。その煙突は多くの工場を巻き込み、むき出しになった配線は火花を散らしている。多くの瓦礫が散乱しており、誰の手も入っていないことが伺える。
ずっと奥のほうで時折銀色の光がよぎることから、メタルがいることは間違いない。
「うーん、バイクは進めないね。荷台だけも無理だよ」
「僕も無理だね。万が一にシートが配線に掠ってショートでもしたら、シャオちゃんとはぐれた時にとんでもない事になっちゃう」
とはいえ、塗料の破片は奥へと続いている。
大体の状況を察したアマイズが嬉しそうだった。
「誰だって一人になりたいときがあるんだから放っておこうよ。落ち着いたら勝手に集落に戻ってくるでしょ」
「む、それは確かに。喧嘩してすぐより、時間を置いたほうが冷静に話せるね」
「そうかな……。そうかも……」
アマイズの言葉にエリオが同意すると、シャオは納得がいかないものの、仕方がないと引こうとした。
そんな諦めようとするシャオに、ゲペレペンゲがぽつりとつぶやく。
「今追いかけないと、シャオちゃんは二度とヴィハーン君に会えないよ。……その、なんとなく、だけど」
彼なりに根拠はあるようだが、うまく言葉に出来ずもごもごと言い淀む。
だが、その一言でシャオは今自分がするべきことを定めることが出来た。
「それはやだ」
シャオはゲペレペンゲの腕を軽く叩いて地面に降りるとアマイズの元まで行き、彼の服をはぎ取ろうとする。
「君の服頂戴、使わないでしょ!」
「着用してるの見えない? ……チョッ、マジな感じ!? やめて!」
「え、何してるんだい?」
「ヴィーの所に私だけでいくの。でも裸足は危ないから服を借りようかなって」
突然の蛮行に叫ぶアマイズと、シャオを見ておろおろするエリオ。
服をはぎ取るのはかわいそうだとシャオを止めるために近づいて来た彼にアマイズは更に叫ぶ。
「ちょっと、そこのバケモンもとっとと止めてくんない!?」
「——、……シャオ、僕も手伝うよ!」
エリオは眉をひそめ、少し沈黙した後に少女を手伝うべくアマイズに手を掛ける。
ポピーは何を思ったのか、荷台のタイヤに何度も体当たりを始めた。
「だー! ならせめてシャツ、シャツにして! ジャケットだけはマジで勘弁してー!」
機体が変に固まり上手く脱がせられなかったこともあり、アマイズのシャツはビリビリのボロボロだ。
そんな彼をよそに、エリオから布を受け取ったゲペレペンゲが布でシャオの足裏を覆いながら一緒に足首を手ごろな太さの棒と一緒に固定する。
「よし、これで大丈夫。……無理しないで、とは言えないね」
「大丈夫。ありがとう、ゲペちゃん」
立ち上がったシャオの歩き方は少しぎこちないものの、無理をすれば十分に歩ける。
エリオはゲペレペンゲと一緒に待機だ。
ゲペレペンゲだけならシートのおかげで大丈夫だが、メタルが来た時にバイクと荷台(とアマイズ達)を守ることが出来ない。
少女は破片が導く先へと歩み出した。
◆
シャオは一人、ひょこひょこと片足を庇いながらできるだけ平坦な地面を選んで進んでいる。
いくら布で足を守っているとはいえ、靴と比べれば機能はどうしても劣る。
指輪の登録からはヴィハーンの名前が消えており、唯一の手掛かりは塗料の破片のみ。
徐々に落ちている頻度が減る破片とは半比例するように、足が持つ熱が増えていく。だがそれらを無視して、ただ先へと歩いていた。
シャオが歩けるのは日の照った道のみだ。
建物の間の隙間のような暗い日陰や建物内は、指輪の図鑑にまだ未登録のメタルがひしめいている。避けていくしかない。
破片が日陰へ続いているときは道の先の日向に遠回りしたり、破片を見失ったときは歩き回って続きを探したりする。
だが最後の破片を見つけてから時間がたち、焦りばかりが募った。
そのうえ歩きづらい。足は布で見えないが、恐らくとても大きく腫れあがっているだろう。
それでも諦めずに探し回り、そして——
「あ……」
こぶし大の石が散乱する道のさらに奥。
暗い日陰の中で半身を破片と同じ色に染められたヴィハーンが、その機体を瓦礫の山にもたれこませ、そこにあった。




